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辺境に帰ろう

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あわてて聖女を人が居ないところに連れ出した。

幸いあれだけの騒ぎがあったので、俺たちについてくるような人は居なかった。

「セイよ、辺境のことをきいていれば不安なのはわかる、安全だといえないし、全体に危険がないように守る。」

「なんてこともいえない。だが、君が思うほど今の辺境は危なくないことは知ってほしい。」

「四六時中側にいるというようなこともいったが、古傷が痛むようなこともないので、当然、そばにいる必要もない。」

根拠をなくこんなことをいっても信じられはしないかもいれないが、少しでも不安な気持ちを払拭させなければいけないと思い、言葉を続けようとすると、

「えっ、側に居なくていいんですか」

「あっ…そうですよね、弟さんが側で介護してくださってるからですよね」

などと、よくわからないことをセイが言い始めた。

いや、弟が介護してないいし、そもそも、そんな必要はないと説明するが、今度は、メイドにさせているんかと来てくる始末。

「だから、介護そのものが不要なんだ。見た目はたしかに、ひどそうに見えるが、痛みなどないから介護は不要だ。」

いや、隻腕だから不便そうに見えるからしかたないか。

そう思い直して、魔力で生成している腕で、物をもったりして見せてみた。

セイもびっくりはするだろうが、これで介護不要だとわかるだろう。

「えっ…じゃあ、弟とのアーンもなければ、メイドたちとのエッチな介護もない…の?」
小さな声でセイが言う。

俺がラブコメ主人公なら「えっ、なんかいった?」といあいうシーンだろうか。

いや、こんな残念なセリフなら聞こえないほうがマシだったな。

「お前は、頭ドピンクかよ。」思わずつぶやいてしまった。

「ち、違います。今のはあれです、少し間違えたのです。」

セイがいうには、まわりの女性神官だと、メイドはエッチなサービスを強制させられたりするし、傷ついた兄がいれば、甲斐甲斐しく弟が兄の身の回りのお世話をするらしい。

ようするに、テンプレ的なおバカ貴族の女性関係などの猥談が好きなワイドショー好きと、腐ってしまった人しか周りにいなかったようだ。

頭が痛くなってくるが、辺境行きになったというのに、こんな馬鹿な考えで頭いっぱいになっているようなやつならあまり心配しなくて良さそうで、むしろ良かったかもしれない。

そういえば、王都どころか、王都周辺の都市含めてセイがかなり負担して聖域を張っていたような感じだったが、セイが辺境へ行っても大丈夫なのだろうか。心配になって確認してみた。

「怠惰な神官が多いのでかなりがんばらないと厳しいと思います。何年も鍛錬をサボった騎士がいきなり戦いになり、鍛錬前と同程度の戦う力を出すことはできないでしょう。祈りも同じです。しばらくは苦労するでしょう。」

「元々聖女が居なくても問題なく維持できる人数を揃えることになっているので、ひとりひとりは弱くても、人数でカバーできるはずです。とはいえ、ある程度モンスターが襲ってくる事はあると思うので、兵士の巡回などの強化は必要だと思います。」

では、いずれ問題なくなるにせよ、民は今までよりは治安が悪くなり、傷つくかもしれないということか。

元聖女としては憂いることかもしれないな。

「ちなみに、勝手に聖女を首にされて結果、民が傷ついてからといって、私が心を痛めるということはないですよ。
 むしろ私は被害者ですし、私のせいだとか言われるほうが困ります。」

いや、まあ、普通、そうだよな。

物語の心優しき聖女は、自分のせいではないのに傷ついた民を憂いるなんてことも多いが、リアルで居たら、結構やばいやつだよな。いずれメンヘラかヤンデレになりそうだ。

「そうか、聖女が変わったことで民に犠牲がでたと辺境で分かったときに、セイが傷つくこともなさそうで良かった。

転生してから、貴族として肩肘張った会話ばかりしていたから、こういう肩の力を抜いた会話もありがたいな。
あとは、チート的な力を目にしてどんな反応を示すかだな。

王都に居ても政戦しかなくて、憂鬱になるので、さっさと辺境に帰ることにする。

「それでは、セイお嬢様、お手をどうぞ。」

そうおどけて、手を出す。

「えっ、あっ、はいっ」

よくわかってなさそうだけど、とりあえず手をつないできた。
ちょっとアホかわいいと感じてしまった。

現代では目に見える範囲くらいしか転移はできないらしい。
だが俺は、転生特典なのかわからないが、チート的な能力で、いっきに辺境まで飛ぶことができる。

繋いだ手に力を込めて、そのまま抱きかかえる感じになり、セイが慌てふためいているのを見ながら転移する。

「セイお嬢様、辺境へようこそ。」
そう言って、慌てふためいていたセイを、辺境伯砦のほうに体を向ける。

「あれが、辺境の砦で、今日から君と私が住む場所だ。」

そういうとセイは「はっ?」と間抜けな顔をしてこちらを見返してきた。

素直な反応ありがとう。

「驚いたかな。辺境もそこまで危なくないというのは私の能力も一つの理由でね。こういってはなんだけど、かなりの力があるので、そうそう遅れを取るようなことはないよ」

はい、そんな能力があって片目の片腕失ってるんじゃないよというツッコミはいりません。
心強くないので正論パンチはやめてください。

ポカーンとした聖女の顔をニヤニヤとみていると急にセイからとんでもない力が拡散した。

これは…聖域か!?

この感覚、辺境のほとんどの範囲を聖域で囲んでいる?

いや、モンスターが多数住んでいる森だと聖域が維持できずに壊れるはず。聖域の広さもおかしいが、場所によって聖域の性質や強度なども変わっているのか?

まさか、チート能力持ちですがなにかとか思っていたら、正真正銘のチートさんがこちらの方でしたか。

「あら、なに鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているのですか」

そういって、こちらをみて笑うセイ。

完璧にやり返された。


だが、悔しいとか思う以前に、これだけの力を持つセイが辺境に居てくれたら、モンスター退治なども一気に進むことなどに頭がいき顔がにやけそうになる。

一応、辺境の蛮族王とか言われているくらいだし、イメージは大切、あまり変な顔も見せられないな。

「お前も、多少はやるようじゃないか」

そう苦し紛れの言葉を投げかけておく。

これだけの力をもつセイを追放する王子も馬鹿だが(しらなかったのかもしれないが)、引き止めなかった司祭や神官共も何を考えているのやら。政戦の影響なのか、ただの馬鹿なのか、わからないな。

もしかして、この物語って、本当はセイを国外追放をしたあと、モンスターに対処しきれなくなって国が滅ぶパターンだったのかもしれない。

一度落ちぶれた司祭や神官共が力を取り戻すとは思えない。
実は何か切り札でもあるのかとも思うが、そんなのがあれば、あいつらなら嫌っているセイをもっと早く追い出していただろう。

いずれにせよ。これで辺境は安全になっていき、反して、王都周辺は危険になっていくだろう。

ほとんど戦闘経験がない兵と、怠惰な神官が多くて想定以上にやばい状態になる可能性も考えられるが、全面崩壊まではさすがにいかないよな。辺境に兵も神官もほとんど派兵しないでいるのだから、数の力でモンスターが出て肝が冷えるくらいで倒すことくらいはできると信じているぞ。
ああ、考えてるとどんどん駄目な気がしてきた。

さすがに王都周辺の住民が辺境に逃げられても食料も足りなければ、守りても足りない。
さっさと辺境を安定させて、対処できるように手配を進める必要があるな。

王都連中が苦しんで飯がうまいは望むところだが、そうなっても大丈夫な準備ができるまで持ちこたえてくれよ。

そうだな、今の展開をいうなら、さしずめ、
チート能力を持つ元聖女が辺境に来てくれたおかげで辺境は豊かになりました。いまさら返してくれと言われても返しませんよ。
て、感じかな。

さあ、ざまぁに備えてがんばるか。
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