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救いようのないバカ

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夜も更けて、明日のエスコートを思い悩んでいると、にわかに騒がしくなっていく。

何事かと思ったら、アルバート王子一行がこんな時間に到着したらしい。
まったくもって非常識極まりない。

たとえ早く着きそうだとしても、道中で調整して早くたどり着いたりはしない。
そんな常識も持ち合わせていないのかとイラついていたところ、それどころではない状況であることが判明した。

なんと、道中でモンスターに襲われ、王子と数名のともだけが逃げてきて、供のものの大半は見捨ててきたそうだ。
王子が騎士を引き連れて逃げたため、残された一般兵30名程度で100名あまりの非戦闘員を守ることなどできないだろう。

「副長、王子一行は任せる。ごねるようなら牢に入れても構わない。」

副長はさすがに牢に入れるなど横暴かと思ったらしく、さすがにそのような対応はとれないといってきたが、あの王子には先がないので、私のほうで何とかすることを伝えると不承不承納得したようだ。

「なにより私が王子に捕まっていると助かるものも助からなくなる。私一人がまずは救援に向かう。その間に兵たちによる救援準備を進めてくれ」

単独行動はやめてほしいと顔にありありと書かれている。

とはいえ、飛行魔法が使えない者たちはついていくことができないのを理解しているのだろう。


「あとセイにも同行してもらうようにしてくれ。おそらく重傷者も多く出ているだろう」

そんな指示をしながら必要最低限の装備を整えていると、こちらに駆け寄るセイがいた。


さすがに、これだけ騒がしいと何かあったのか不安になり、私のところに来たようだ。

セイには簡単に状況を伝え、妹と一緒に救援に来てもらうようにお願いする。
さすがに日が暮れてモンスターが活性化してくる時間帯に救援に行くのは怖いだろうが、同性の妹を共にすることで多少は気がまぎれるだろう。

ただ、救援に行ったいいが全滅しているというのも十分にありえる。

そんなことを思いながら準備を進めていると思いつめたようなセイが話しかけてくる。

「私も連れて行ってください。」


正直、セイを連れて行ったほうが助かるものが多いのは理解できるがセイはわかっているのだろうか。
私が連れていく場合、彼女を抱きかかえて高速飛行での移動となる。

空を移動するというのは非常に恐ろしく男でも恐怖で泣き叫ぶものも多い。
ましてや教会の中にいたセイでは、とても無理だろう。

そう説得するが、どうしてもだめなら気絶させていいからとまで言い始める。

正直、こんな押し問答で時間を使うのも馬鹿らしいので、夜の空に連れて行ってやろう。
すぐに泣け叫んで、降ろしてほしいというだろう。


そして、準備を終えた私は、セイと一緒に外に出た。


セイをお姫様抱っこして空中に浮かぶ。
私に抱かれた瞬間に一瞬セイが悲鳴を上げたが、すぐに自分で口を押えて声を押し殺した。

まあ、年頃の娘がいきなり抱きかかえられれば悲鳴の一つも出しておかしくないだろう。
これが貴族の娘であれば卒倒ものだろうし、責任を取れと言われかねない。


セイが平民でよかった。

だから妹よ、そんな顔でみないでくれ、私の精神的ダメージが半端ない。


一気に上昇して、地上の建物も日が落ちているためにまともに見えなくなる。

ただでさえ空を飛ぶのは怖いのに、さらに夜だと、飛んでいる私でも最初は怖かった。
連れられているだけのものであれば恐怖はさらに増すだろう。

セイも恐怖に打ち震えているかと思い顔を見ると、ポカンとしている。

「私、子供のころに手を伸ばせば星をつかむことができるんじゃないかと思っていたんです。」

いきなりわけのわからないことをセイが言い始めた。

「すみません、大勢の人が大変な状況だというのに、夜空に美しさに思わず見とれてしまいました。」

いや、星空がきれいとか、なんでそんなに余裕なんだ。

「セイは怖くないのか?」

そう聞いてみるが、セイは顔を振って全然怖くないという。

虚勢を張っているわけでもなさそうなので、あきらめてセイを連れていくことにする。


もしかしたら、セイは私が思うよりもずっと図太い性格なのかもしれない。
これはうれしい誤算としておこう、そう頭を切り替えて、王子たちがきた方向に向かって飛ぶことにした。
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