【第一章完結】だから、わらわは聖女などではない!〜令嬢転生した魔王、人類をせん滅したいのに皆をどんどん幸せにしてしまう〜

イチノキ コウ

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第一章

第四十話 魔王、探りを入れる

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『それら』は、墓穴から這いずり出るように、ゲートの内より現れた。

 蜘蛛の脚、歪な角、無作為に生えた牙。
 ブヨブヨの皮膚、複数の目玉、滴る紫の体液。
 獣の体躯、蝙蝠の羽、腹にある口。

 各々異なる容貌をした化け物たち。どれもが本能的な嫌悪感を想起させるということのみ、共通していた。

 悪意そのものが具現化したかのような醜悪さに、思わずシェリルが後ずさる。

「あらぁ……ちょっとこれは……本物ねぇ。ゾンビくらいなら可愛いもんだったんだけど」

「七、八……全部で十体ですか。わりとワサワサ出てきましたね」

「緊張感ねぇなぁ……」

 飄々とした態度を崩さないウィスカーに、オルヴィスが呆れて肩をすくめる。

「当然じゃが、どれもA級以上じゃな。……特に活きのよいのは、後ろのあの二匹か」

 エリスが指差したほうに、二体の悪魔が浮かんでいた。
 
 見た目は最も人間に近く、子供のような容貌であり、他八体と比べてかなり異質であった。
 二体とも小さな蝙蝠の羽が生えており、手にはそれぞれ、曲剣と、鞭が握られている。

「……んだぁ?昼間はやめろっていったじゃねえかよ!!」

 曲剣を持った悪魔が苛立った様子で空を見上げた。

「仕方ないわよ。あの人、見かけによらずせっかちなんだから」

 鞭を持った悪魔は、女性のような話し方でもう一体を諭している。
 まるで人間の少年と少女のような雰囲気であった。

「おい、そこの餓鬼ども」

 エリスが二体に話しかける。
 少年悪魔の方が、ぽかんとした顔を向けてきた。

「……餓鬼?おいミミドラ、あのチビ、俺のことを餓鬼って言ったか?俺の聞き間違いか?」

「んー、まぁアドラは餓鬼だからねぇ。正解!ピンポーン!っで良いんじゃない?」

「二匹まとめて殺すぞミミドラ」

「……匹?あんた、ワタシのこと人間扱いするわけ?殺すわよ?」

「あー、殺す殺す五月蝿いぞ、ド阿呆ども。聞きたいことがあるのじゃ。いいからこっち向け」

「……ミミドラ。お前は後回しだ。先ずはあの舐めた人間をなぶり殺す」

「何言ってるの。あれ、ターゲットよ?しっかりきっちり手早く殺さないと」

「なに?そうなのか?……ああ、本当だ。聞いてた顔と同じだ。よし、殺そう」

 アドラと呼ばれていた少年悪魔が、曲剣を構える。

 ――わらわが狙いか。予想通りではあるが、ゴルドーが傀儡だったとすると依頼者に思い当たるやつがおらぬ。

「……誰に頼まれた?悪魔の親玉か?」

「違うわ。あの人は悪魔じゃない」

「悪魔じゃない?悪魔が、悪魔以外に従うとは珍しいこともあるもんじゃのう」

「あの人は強いからな。俺たちよりずっと。強いものには従う。当然だ」

「うむ。分かりやすくて実に良い。ついでに、あの人とやらがどこの誰だか教えてくれると嬉しいんじゃがな?」

「知らねーよ」

「ワタシも知らないわ」

「……本当に、悪魔というものは実力の割に頭の方がのぅ……」

 ――まぁよい。黒幕が、相当の実力者だということがわかっただけでも十分じゃ。まさか、S級悪魔を力で従わせるほどとはな。少し、侮っておったわ。

「お嬢様、悪魔というのは馬鹿なのですな!」

「お主ほどではないがな」

「そんな!?」

 さりげなく話に入ってきたコウガをばっさりと切って捨てたところで、タイミング悪く、リィが屋敷の使用人を全員連れてやってきてしまった。

「エリスさま、みんなをつれてきました……!?こ、この人たちはだれですか!?」

 昼下がりの貴族邸宅に、ものの見事に似つかわしくない異形のものどもを見て、リィ以下、使用人全員が驚愕の声を上げる。

 彼らが慌てる様子を見て、アドラは酷く嫌そうな顔をした。

「なんか人間いっぱいいるぞ。結界張ったんじゃねーのかよ」

「もともと内側にいたんでしょ」

「めんどくせーな」

 心底嫌そうに肩をすくめると、アドラはおもむろに大きく息を吸い込んだ。


「――ガァァァァ!!!!」


 唐突に、アドラが吼える。

 ビリビリと鼓膜を揺さぶる音波に加え、強力な魔力が込められた波動が、庭園内にいるすべての人間を襲った。

 すると、まるで糸が切れた操り人形のように、屋敷の使用人たちがパタパタと崩れ落ちていく。

「え!?みなさん!?」

 振り返ったリィは、その有様に絶句する。

「大丈夫じゃリィ。全員、気を失っただけじゃ」

 エリスの言葉に、リィは少しだけホッとした表情を見せるが、急に襲った緊張のためか、呼吸が荒い。

「……あら?結構耐えたヤツ多いじゃない。アドラ、あんたやる気あるの??あんなちっちゃい子にも効いてないなんて」

「うるせえな。……あいつ、俺の嫌いな魔力を持ってやがるな」

「それって光の魔力?やった!ご馳走じゃない!!光の魔力を持ってる人間って、味が最高なのよね!」

 ミミドラの歓喜の声を聞いて、他の悪魔たちもリィの方を向く。
 そして、各々が酷く不気味な笑みを浮かべた。

 リィが、ビクッと身体を震わせる。

「よーし、あなたたち、あの子を捕まえて!ワタシ、脳みそ食べればそれでいいから、あとはみんなで分けていいよ!」

「くくく」

「げへへ」

「ひひひ」

 悪魔たちが、リィへ向かってゆっくりと移動を始めた。
 極上の獲物を見つけた化け物どもは、その甘美な味を思い浮かべて舌なめずりをしている。
 濁った瞳を爛々とさせ、牙を剥き迫ってくるその様子はまさに、人間が想像する悪魔そのものであった。



 ……だがもちろん、そんなやつらの好きにやらせるほど、この屋敷の主人は甘くない。


「やれ!」


 エリスの指示が飛ぶ。

 リィに手を出すやつは、たとえ誰であっても許さない。
 その双眸に、怒りの色が浮かぶ。


「承知!!」

「ああ!ぶっ潰したらぁ!!」

 二つの影が、超スピードで地面を滑った。
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