74 / 173
3話目!碧の章 行け!コミックマーケット
3-1
しおりを挟む
針山家での生活。朝食作りに皿洗い、掃除や買い出し。アキラくんと一緒とは言え、この生活にもだいぶ慣れてきた頃、僕には一つ小さな悩みがあった。それは――
「…ご馳走様」
ご飯を食べるとそそくさと、足早に自室へと籠る人物。一度自室に戻るとご飯まで部屋から出てこない。ロクに顔合わせもした事の無いこの子と、どうにかして少しでも仲良くなりたいということだ。
別に無理に仲良くなる必要はないと思うが、可能なら、せめて挨拶くらいらし合える仲になりたい。優輝さんは罵倒しながらも話してくれるから、とりあえず良いことにしている。他にも口数は少ない人はいるが、話してくれるし、何か質問すれば、ちゃんと返してくれる。
しかし、彼女に至っては、話すことは愚か目すら合わせて貰えないのだ。一緒に生活する身としても、どうにかしたいものだ。
皿洗いをする中、思い切ってアキラくんにそのことを相談してみた。
「あぁ、碧さんですか。確かに彼女は極度の人見知りで自室に籠りがちですね」
「僕、初日からまだ一言も口聞いて貰えてない気がするんだけど……」
「……そう、肩を落とさなくても大丈夫ですよ、それが彼女にとって普通のことなんですから。僕だって、彼女とは滅多に話しませんし。いや、話せないと言った方が正しいか」
アキラくんでさえその調子なら、僕も諦めるしかないのかなぁ。はぁ……と、ため息を吐けば、アキラくんは口元だけ軽く笑っていた。
アキラくんの微妙な変化の違いにも、最近よくわかるようになってきた。毎日顔合わせして、一緒に仕事してる賜物だ。だいぶ仲良くなった気がするし、碧ちゃんともこんな風に少しずつ仲良くなれないかなぁ。
「もしどうしても仲良くなりたいなら、ひとつ、良い案がありますよ。良い案と言っても、仲良くなれるかは貴方次第ですが、近付くきっかけくらいなら提供できます」
「ほんとに!?」
僕はアキラくんの思わぬ提案に、喜びを隠せなかった。
「きっかけでもなんて良いよ! 何か話せる接点を作ってくれるだけでも有難い! よろしく頼むよ!」
「良いでしょう。では、貴方にお願いしたいことがあります」
僕はアキラくんに頼まれて、碧ちゃんの自室の前にいた。アキラくんがみんなにおやつを作ってくれたので、それを渡しにやって来たのだ。
うぅ……。しかし緊張する……。
まともに話したことない上、いきなり部屋の前に来てしまったのだ。緊張するなという方が無理がある。僕はゆっくり息を吐いて深呼吸し、自分を落ち着かせると、「よし」と、心の中で気合いを入れた。
コンコンと、ドアを叩く。乾いた音が廊下に響くだけで反応はない。
おかしいな。居るはずなんだけど……。
彼女は滅多に部屋から出てこない。出かけている方が珍しいし、今日も部屋の中に居るはずだ。
僕はもう一度、ドアをノックした。コンコンコン。それでも彼女は出て来ない。僕だと分かって居留守しているのだろうか。
少し落ち込みながらも、これで最後――と、三度目の正直でドアをノックした。
「あの、碧ちゃん。アキラくんがおやつ作ってくれたんだけど……」
少し遠慮がちに、でも部屋の中まで聞こえるように、僕は声を控えめに張り上げて、そう伝えた。それが通じたのか通じてないのかはわからないが、やっと、その扉は僅かに開いた。
「…………」
無言で十センチ程隙間を開く碧ちゃん。青から緑色のグラデーションをした神秘的な瞳がこちらを捉える。僕を見た後、僕が手に持っている、アキラくんが作ってくれたバウンドケーキと紅茶を凝視した。甘いものが好きなのか、ずっとそれを物欲しそうに見つめていた。
「えっと、アキラくんがおやつ作ってくれたんだ。受け取って欲しいから、もう少しだけドアを開いてくれると嬉しいな」
僕がそう言うと、碧ちゃんは仕方なさそうに無言でドアをもう少し開けてくれた。碧ちゃんがバウンドケーキと紅茶を乗せたおぼんを受け取ろうとする。このまま碧ちゃんにおやつを渡しただけでは、アキラくんがせっかく作ってくれたチャンスが台無しになる。
僕は何か話すきっかけがないか、失礼ながらも部屋の中に視線を移して、何か話題がないか急いで探した。それは、意外にも早く見つかることになる。
「…ご馳走様」
ご飯を食べるとそそくさと、足早に自室へと籠る人物。一度自室に戻るとご飯まで部屋から出てこない。ロクに顔合わせもした事の無いこの子と、どうにかして少しでも仲良くなりたいということだ。
別に無理に仲良くなる必要はないと思うが、可能なら、せめて挨拶くらいらし合える仲になりたい。優輝さんは罵倒しながらも話してくれるから、とりあえず良いことにしている。他にも口数は少ない人はいるが、話してくれるし、何か質問すれば、ちゃんと返してくれる。
しかし、彼女に至っては、話すことは愚か目すら合わせて貰えないのだ。一緒に生活する身としても、どうにかしたいものだ。
皿洗いをする中、思い切ってアキラくんにそのことを相談してみた。
「あぁ、碧さんですか。確かに彼女は極度の人見知りで自室に籠りがちですね」
「僕、初日からまだ一言も口聞いて貰えてない気がするんだけど……」
「……そう、肩を落とさなくても大丈夫ですよ、それが彼女にとって普通のことなんですから。僕だって、彼女とは滅多に話しませんし。いや、話せないと言った方が正しいか」
アキラくんでさえその調子なら、僕も諦めるしかないのかなぁ。はぁ……と、ため息を吐けば、アキラくんは口元だけ軽く笑っていた。
アキラくんの微妙な変化の違いにも、最近よくわかるようになってきた。毎日顔合わせして、一緒に仕事してる賜物だ。だいぶ仲良くなった気がするし、碧ちゃんともこんな風に少しずつ仲良くなれないかなぁ。
「もしどうしても仲良くなりたいなら、ひとつ、良い案がありますよ。良い案と言っても、仲良くなれるかは貴方次第ですが、近付くきっかけくらいなら提供できます」
「ほんとに!?」
僕はアキラくんの思わぬ提案に、喜びを隠せなかった。
「きっかけでもなんて良いよ! 何か話せる接点を作ってくれるだけでも有難い! よろしく頼むよ!」
「良いでしょう。では、貴方にお願いしたいことがあります」
僕はアキラくんに頼まれて、碧ちゃんの自室の前にいた。アキラくんがみんなにおやつを作ってくれたので、それを渡しにやって来たのだ。
うぅ……。しかし緊張する……。
まともに話したことない上、いきなり部屋の前に来てしまったのだ。緊張するなという方が無理がある。僕はゆっくり息を吐いて深呼吸し、自分を落ち着かせると、「よし」と、心の中で気合いを入れた。
コンコンと、ドアを叩く。乾いた音が廊下に響くだけで反応はない。
おかしいな。居るはずなんだけど……。
彼女は滅多に部屋から出てこない。出かけている方が珍しいし、今日も部屋の中に居るはずだ。
僕はもう一度、ドアをノックした。コンコンコン。それでも彼女は出て来ない。僕だと分かって居留守しているのだろうか。
少し落ち込みながらも、これで最後――と、三度目の正直でドアをノックした。
「あの、碧ちゃん。アキラくんがおやつ作ってくれたんだけど……」
少し遠慮がちに、でも部屋の中まで聞こえるように、僕は声を控えめに張り上げて、そう伝えた。それが通じたのか通じてないのかはわからないが、やっと、その扉は僅かに開いた。
「…………」
無言で十センチ程隙間を開く碧ちゃん。青から緑色のグラデーションをした神秘的な瞳がこちらを捉える。僕を見た後、僕が手に持っている、アキラくんが作ってくれたバウンドケーキと紅茶を凝視した。甘いものが好きなのか、ずっとそれを物欲しそうに見つめていた。
「えっと、アキラくんがおやつ作ってくれたんだ。受け取って欲しいから、もう少しだけドアを開いてくれると嬉しいな」
僕がそう言うと、碧ちゃんは仕方なさそうに無言でドアをもう少し開けてくれた。碧ちゃんがバウンドケーキと紅茶を乗せたおぼんを受け取ろうとする。このまま碧ちゃんにおやつを渡しただけでは、アキラくんがせっかく作ってくれたチャンスが台無しになる。
僕は何か話すきっかけがないか、失礼ながらも部屋の中に視線を移して、何か話題がないか急いで探した。それは、意外にも早く見つかることになる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします
雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました!
(書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です)
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
『異世界ごはん、はじめました!』 ~料理研究家は転生先でも胃袋から世界を救う~
チャチャ
ファンタジー
味のない異世界に転生したのは、料理研究家の 私!?
魔法効果つきの“ごはん”で人を癒やし、王子を 虜に、ついには王宮キッチンまで!
心と身体を温める“スキル付き料理が、世界を 変えていく--
美味しい笑顔があふれる、異世界グルメファン タジー!
魔力ゼロの英雄の娘と魔族の秘密
藤原遊
ファンタジー
魔法が支配する世界で、魔力を持たない少女アリア・マーウェラ。彼女は、かつて街を守るために命を落とした英雄的冒険者の両親を持ちながら、その体質ゆえに魔法を使えず、魔道具すら扱えない。しかし、彼女は圧倒的な身体能力と戦闘センスを武器に、ギルドでソロ冒険者として活動していた。街の人々やギルド仲間からは「英雄の娘」として大切にされつつも、「魔力を捨てて進化した次世代型脳筋剣士」と妙な評価を受けている。
そんなある日、アリアは山中で倒れていた謎の魔法使いイアンを助ける。彼は並外れた魔法の才能を持ちながら、孤独な影を背負っていた。やがて二人は冒険の中で信頼を深め、街を脅かす魔王復活を阻止するため、「カギ」を探す旅に出る。
しかしイアンには秘密があった。彼は魔族と人間の混血であり、魔王軍四天王の血を引いていたのだ。その事実が明らかになったとき、アリアは「どんな過去があっても、イアンはイアンだよ」と笑顔で受け入れる。
過去に囚われたイアンと、前を向いて進むアリア。二人の絆が、世界を揺るがす冒険の行方を決める――。シリアスとギャグが織り交ざる、剣と魔法の冒険譚!
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる