上 下
7 / 11

花金とは言えないけどまあ悪くない話

しおりを挟む
昼下がり…の筈だが、分厚い雲が居座っており、時間感覚が分からなくなる。
今日は金曜日か…。
「あれ、おじさん。そういえば、あんたは仕事じゃないのか。」
ゴミを捨てて戻ってきたおじさんに聞いてみる。
忘れていたが、今日は金曜日だし、おじさんは仕事があるんじゃないだろうか。
…ところで、一体何歳なんだろうか。見た目は40いくかいかないかだが…。
「俺は、今日振休なんだ。いいだろう?世間様はまだあくせく働いているだろうが、俺は存分に花金を楽しめるというわけだ。…んん?でも休みだから、ちょっと違うのか…?」
機嫌がいいのかちょっと大袈裟に話している。
「…ハナキンってなんだ。美味いのか?」
「お、おお…。これがジェネレーションギャップってやつなんだろうか。…花金は花の金曜日の略だ。明日は休みだから、パーッと遊んでも問題ないってことでつけられた名前だ。んん、でも今はそんなに派手に遊ぶ人は減ったね。」
「へぇ…。最近聞いた気がしたけど、そういう意味だったのか。」
外で雷が鳴った。
花金か…。
とてもじゃないが、華やかとはいえない天候だった。
「…やることがなくなってしまったな。」
小さく笑いながら、おじさんはよくわからない方向を見ていた。
机にバイブ音が響く。
「あ。」
「ああ、昨日君が寝たあと、通知がかなり来ていたよ。」
ひっくり返っていたスマホを取り、電源ボタンを押す。
31件の通知と7件の不在着信があった。
どれも緊急性は無さそうなので、無視して、また机に置いた。
「…?返さないのかい。」
「急ぎじゃねぇから。」
「な、なるほど。」
「…私は、それだけの連絡は来たことがないから、羨ましいな。全部友達かい?」
変な言い方だ。少し癪に障る。
「そうだ。友達。……全部ごみみてぇな奴らだけど。」
うっかりペネロペ、ちょっと口が悪くなる。
こんなこと言うつもりじゃなかったが、おじさんといると、普段なら隠せることが何故か上手くいかなくなる。
「……っははは。…でも多い方が役に立つだろう。」
「…気持ちわりぃな。…おい、おじさん、嘘なんかつくんじゃねぇよ下手くそだな。…羨ましいわけねぇだろ、あんたが。」
おじさんは変な顔で固まったあと、急に笑いだした。
「はっはっ、…あー、いや、君は本当に面白いな。くく。…うん。そうだな。俺はそんなことは思ってない。悪かった。」
少し真面目な顔になる。顔面が忙しい人だ。
「君は人の本質を見極めることが上手いらしい。周りの子も、無意識に君という“本当の理解者”に近づくのだろう。…君を理解しようとはせずにね。」
おじさんはぐしゃぐしゃと頭を撫でてきた。
「君の言う通りだ。ごみは捨ててしまえ。」
いたずらに笑うおじさんは悪ガキのようだけど、あまりに優しく笑うから、少し、泣きたくなった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

羽衣伝説 ー おじさま達に病愛されて ー

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:30

老王の心臓、将軍の心

BL / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:59

会社を辞めて騎士団長を拾う

BL / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:34

義父との過激な関係

BL / 完結 24h.ポイント:149pt お気に入り:96

弱みを握られた僕が、毎日女装して男に奉仕する話

BL / 完結 24h.ポイント:418pt お気に入り:10

【R18】今夜、私は義父に抱かれる

umi
恋愛 / 完結 24h.ポイント:553pt お気に入り:566

女装人間

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:205pt お気に入り:12

悪役令息の義姉となりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:22,682pt お気に入り:1,369

処理中です...