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お姉様の婚約者を好きになってしまいました……どうしたら、彼を奪えますか?
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その日、寝室の扉を前に、私とお母様は落ち着きなくそわそわしておりました。きっとお父様も、自宅の書斎でその時を今や遅しと待っていることでしょう。
ソフィアお姉様が、いよいよ出産の時を迎えられたのです。
オリバー様はどうしても遠出しなければならない仕事があり、まだ帰ってきません。
オリバー様、どうか早く帰っていらして……
祈るような気持ちでいると、部屋の奥からソフィアお姉様の絶叫が響きます。あんなお姉様の声、聞いたことがありませんでした。
驚いて顔を蒼褪めさせた私を、お母様が抱き締めました。
「赤ちゃんを産むっていうのは、とても大変なことなの……お母様も、貴女たちを産んだ時、それはそれは辛い痛みに耐えましたのよ。ソフィアも今、赤ちゃんのために頑張っているのです」
そう、ですの……
ソフィアお姉様、がんばって……どうか、無事に赤ちゃんを産んでくださいませ……
両手をギュッと組み、胸に当てました。
扉の奥からは、耳を塞ぎたくなるほどのソフィアお姉様の悲痛な絶叫が続きます。その度に、小さな私の体は震えました。
「エミリー、もしかしたら長くなるかもしれませんわ……先に、家に帰ってなさい」
お母様の言葉に激しく首を振りました。
「私、ここにいますわ! お願いです、お母様。ここに、いさせて……近くで、お姉様のために祈らせてくださいませ」
必死にお母様に縋り付き、懇願します。すると、お母様が短く息を吐きました。
「分かりました、エミリー。正直、お母様も貴女がいてくださった方が、心強いですわ」
そう言って微笑んだお母様の手が、僅かに震えておりました。
その時、断末魔のような絶叫が響きました。扉に駆け寄り、耳を済ませます。
それから……
あ、赤ちゃん……
赤ちゃんの弱々しい泣き声が聞こえてきました。無事に、生まれたのです。
よ、良かった……あぁ、ソフィアお姉様……
扉を開けますと、髪を乱し、荒々しく息を吐くソフィアお姉様の姿が目に入りました。いつも身なりをきちんと整えていらして、レディーの鏡のようなお姉様からは想像できないお姿です。
それだけ、赤ちゃんのために必死に戦われたのですね……
赤ちゃんは、産婆によって体を清めてもらっていました。とても小さく、頼りなく……そして、愛おしい存在です。
私の瞳からは、自然と涙が溢れていました。
「ソフィアお姉様……可愛らしい、赤ちゃんですわ」
産婆が口を挟みました。
「お嬢様ですよ」
清められて布に包まれた赤ちゃんを、お母様が嬉しそうに抱いています。
ソフィアお姉様がそれを聞き、私に手を伸ばしました。その手を握り締めます。
「ハァッ、ハァッ……リリア……リリア、と……ハァッ、ハァッ」
「素敵なお名前ですわ」
「ハァッ、エミリー……ッッオリバーを……ハァッお願い……ッグ……」
「オリバー様は、まだお仕事から戻っておりませんの」
せっかく、赤ちゃんが産まれたというのに、オリバー様はいつ帰っていらっしゃるのかしら……
そう思っておりますと、握っていたお姉様の手から力が抜けていきました。瞳を閉じ、事切れています。
「ぉ、姉様……!? ソフィアお姉様!!」
私の叫び声に産婆が反応し、駆けつけます。助手の方と必死にお姉様に呼びかけ、心臓マッサージをほどこしますが、お姉様の体は一向に反応しません。
お母様があまりのショックで気を失い、間一髪のところで私が赤ちゃんを受け取りました。
「う、嘘……そんな!! お姉様っ! お姉様っっ!! リリアが! リリアが生まれましたのよ!!
どうか、どうか目をお開きになって……!!」
そこへ、扉が勢いよく開き、オリバー様が入っていらっしゃいました。
「ソフィア!!」
けれど……ソフィアお姉様は、愛しいオリバー様のお声を聞くことは二度とありませんでした。
ソフィアお姉様が、いよいよ出産の時を迎えられたのです。
オリバー様はどうしても遠出しなければならない仕事があり、まだ帰ってきません。
オリバー様、どうか早く帰っていらして……
祈るような気持ちでいると、部屋の奥からソフィアお姉様の絶叫が響きます。あんなお姉様の声、聞いたことがありませんでした。
驚いて顔を蒼褪めさせた私を、お母様が抱き締めました。
「赤ちゃんを産むっていうのは、とても大変なことなの……お母様も、貴女たちを産んだ時、それはそれは辛い痛みに耐えましたのよ。ソフィアも今、赤ちゃんのために頑張っているのです」
そう、ですの……
ソフィアお姉様、がんばって……どうか、無事に赤ちゃんを産んでくださいませ……
両手をギュッと組み、胸に当てました。
扉の奥からは、耳を塞ぎたくなるほどのソフィアお姉様の悲痛な絶叫が続きます。その度に、小さな私の体は震えました。
「エミリー、もしかしたら長くなるかもしれませんわ……先に、家に帰ってなさい」
お母様の言葉に激しく首を振りました。
「私、ここにいますわ! お願いです、お母様。ここに、いさせて……近くで、お姉様のために祈らせてくださいませ」
必死にお母様に縋り付き、懇願します。すると、お母様が短く息を吐きました。
「分かりました、エミリー。正直、お母様も貴女がいてくださった方が、心強いですわ」
そう言って微笑んだお母様の手が、僅かに震えておりました。
その時、断末魔のような絶叫が響きました。扉に駆け寄り、耳を済ませます。
それから……
あ、赤ちゃん……
赤ちゃんの弱々しい泣き声が聞こえてきました。無事に、生まれたのです。
よ、良かった……あぁ、ソフィアお姉様……
扉を開けますと、髪を乱し、荒々しく息を吐くソフィアお姉様の姿が目に入りました。いつも身なりをきちんと整えていらして、レディーの鏡のようなお姉様からは想像できないお姿です。
それだけ、赤ちゃんのために必死に戦われたのですね……
赤ちゃんは、産婆によって体を清めてもらっていました。とても小さく、頼りなく……そして、愛おしい存在です。
私の瞳からは、自然と涙が溢れていました。
「ソフィアお姉様……可愛らしい、赤ちゃんですわ」
産婆が口を挟みました。
「お嬢様ですよ」
清められて布に包まれた赤ちゃんを、お母様が嬉しそうに抱いています。
ソフィアお姉様がそれを聞き、私に手を伸ばしました。その手を握り締めます。
「ハァッ、ハァッ……リリア……リリア、と……ハァッ、ハァッ」
「素敵なお名前ですわ」
「ハァッ、エミリー……ッッオリバーを……ハァッお願い……ッグ……」
「オリバー様は、まだお仕事から戻っておりませんの」
せっかく、赤ちゃんが産まれたというのに、オリバー様はいつ帰っていらっしゃるのかしら……
そう思っておりますと、握っていたお姉様の手から力が抜けていきました。瞳を閉じ、事切れています。
「ぉ、姉様……!? ソフィアお姉様!!」
私の叫び声に産婆が反応し、駆けつけます。助手の方と必死にお姉様に呼びかけ、心臓マッサージをほどこしますが、お姉様の体は一向に反応しません。
お母様があまりのショックで気を失い、間一髪のところで私が赤ちゃんを受け取りました。
「う、嘘……そんな!! お姉様っ! お姉様っっ!! リリアが! リリアが生まれましたのよ!!
どうか、どうか目をお開きになって……!!」
そこへ、扉が勢いよく開き、オリバー様が入っていらっしゃいました。
「ソフィア!!」
けれど……ソフィアお姉様は、愛しいオリバー様のお声を聞くことは二度とありませんでした。
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