君の背中を追いかけて

奏音 美都

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君の背中を追いかけて

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 朝、7時に家を出て7時15分頃に相沢くんの家の前を通ると、2階の窓が開いており、そこから相沢くんが手を振ってくれていた。

 それだけで嬉しくて、頬が緩んでしまう。

 授業の合間の休憩時間やお昼ご飯の時に相沢くんは長距離を走る時のアドバイスをしてくれた。

「七海は腕に力が入りすぎてるから、もっと力抜いたほうがいいよ」

「足の開きが小さいから、いつもの歩幅の1、5倍くらいを意識して走ってみて」

 ひとうひとつのアドバイスに耳を傾け、頷く。

 相沢くんが私の顔をみて、私のために話してくれているのだと思うと胸がドキドキした。


 そして迎えた体育祭当日。

「七海、頑張れよ」
「う、うん。ありがとう」

 せっかく相沢くんが色々とアドバイスしてくれたんだもん。一矢報いたい。

 長距離走の選手案内の放送がかかり、相沢くんに小さく手を振り、入場口へと集合する。
 いよいよだ。

 今まで気にしたことなかったのに、今日はなぜか周りの女子生徒たちがすごく走れる子たちに思えて、プレッシャーを感じる。

 大丈夫。毎日練習してきたんだもん......

「位置について、用意、ドン!」

 胸を張って、肩の力を抜いて、腕を緩く振って、大きめのストライドで、短い呼吸を2回リズムよく吐きながら。

 相沢くんの言葉を頭で何度も再生させながら、走り続ける。うん、去年よりも全然苦しくない。

 相沢くんに言われた言葉を思い出しながら走ってると、まるで一緒に走ってるみたいに感じて嬉しくなった。

 いつもは背中を追いかけてばかりだったけど、今年は一緒に走れたね。相沢くんみたいに、草原を走る駿馬にはなれなかったけど、少しはカッコよく走れるようになったかな。

 ふと視線を感じてチラッと視線を走らせると、そこに相沢くんがいた。長距離走など微塵の関心も見せず、友達同士のおしゃべりに夢中になるクラスメートたちの中、相沢くんの視線だけが一身に私を追っている。

 うん、一緒に頑張ろう。

 心臓は鼓動を速めてきてるけど、壊れそうなほどではない。呼吸もまだ、いける。クラクラする眩暈も感じない。


 私は、1位で保健室送りになることなく、長距離走を走り終えた。

 
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