お酒の勢い借りて告白するつもりが、泥酔してドン引きされちゃいました

奏音 美都

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お酒の勢い借りて告白するつもりが、泥酔してドン引きされちゃいました

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『かんぱーい』

 ジョッキグラスを合わせて、ビールを飲む。仕事終わりの一杯って、なんでこんなに美味しいんだろ。

「田川とは同期会で何度も飲んでるけど、こうしてふたりで飲むのって初めてだよな」
「う、うん……そうだね」

 そう答えて、向かいに座る戸谷の顔をチラリと見上げる。

 戸谷とは同期入社で、私は経理、彼は営業に配属された。私が経理の仕事覚えるのに精一杯な時期から、戸谷は持ち前の明るさと社交性で会社の先輩や上司だけでなく、取引先の人たちにも可愛がられ、将来有望な営業の希望の星と言われていた。

 それから3年が経ち、戸谷は周りの期待通り、営業成績トップを誇る、見事なエースに成長した。

 私は相変わらず、淡々と経理の仕事をこなすだけの日々。戸谷と関わるのは、経費の請求書の処理と、備品の発注を頼まれる時ぐらい。

 あとは……同期会の時。

 うちの同期は仲が良くて、3年経った今でも3ヶ月に一度は同期会と称して飲みに行ってる。とは言っても、戸谷はいつも仲のいい同期たちに囲まれてて、なかなか喋る機会がなかった。それに……同期で、秘書課に配属されたさゆりと付き合ってたから、それもあって声かけられなかったし。

 戸谷は入社してすぐにさゆりと付き合い始め、同期会の時にも仲良さそうなところを見てたし、このまま結婚するんだと思ってた。

 それが……まさか、新人で入ってきた社長の御曹司と電撃結婚するなんて。いやー、あれは社内中の噂になったよね。

 さゆりは晴れて寿退社したからいいだろうけど、残された戸谷は周りの視線に晒されて、ほんと見てて可哀想だった。

 それでも、戸谷は仕事を辞めることも休むこともなく、笑顔で営業の仕事に向かってた。社会人として当然といえば当然なのかもしれないけど……そんな彼の姿に、私の戸谷への想いがますます高まったのだった。

 ずっと、手の届かない人だと思って諦めてたけど……告白するなら、失恋して彼女のいない今しかない。
 人気のある戸谷のことだから、すぐに彼女ができちゃうだろうし。

 意を決して「相談があるから」と戸谷を呼び出し、こうしてふたりきりになることに成功したのだった。

「なぁ、相談ってなんだ?」

 戸谷に聞かれたけど、石が喉に詰まったみたいに声が出ない。

 ど、どうしよう……こうして2人きりになって顔を合わせると……緊張する。とても告白なんて、出来ない……

「あ、あの……まずは、飲もうよ!」
「あぁ。そうだな」

 緊張をほぐす為、ビールを一気飲みした。

「お、田川。いい飲みっぷりだな。同期会では、あんまり飲んでる感じしなかったけど。よし、俺も今日は付き合うか」
「うん」

 実は、学生の頃からお酒飲むのは大好きだったんだけど、悪酔いして迷惑かけることが多くて、数々の失敗をしてきたから、入社してからは会社の飲み会や同期会では飲み過ぎないように気をつけてたのだ。

 ふたりでビールをどんどん煽っていく。それだけじゃなく、焼酎やワイン、地酒にまで手を出してしまった。

 帰り道、頭がふわふわして足に力が入らない。
 
「お、おい田川……大丈夫か!?」
「キャハハハー、たぁのしぃ♪ とぉたぁにぃ」

 戸谷の頭をゲンコツでグリグリする。

「いてててて!! おま、酒癖悪いなぁ。こんなになるとか、思ってなかった」
「キャハハハハ、とたにぃ、困ってるー!! キャハハハ……」

 公園のベンチに座らされた。

「水買ってくるから、ここにいろよ」
「とたにぃ、早く帰ってきてねぇ。キャハハハ……」

 ズルズルとベンチから体が落ちていく。スカートがずり上がってるのを感じたけど、それを直す気力がない。

 眠い……めっちゃ眠くてたまんない。

「お、おい田川……こんなとこで寝るな!
 てか……お前、パンツ見えてるぞっっ」

 ん……なんか、戸谷が言ってるなぁ。

「ったく……今日、相談があるんじゃなかったのかよ。こんな泥酔しやがって……ほら、ちゃんと座れ」

 戸谷が私の両腕をとって引き上げ、もう一度ベンチに座らせる。

 あー、こんな時も優しいなぁ、戸谷は。
 この勢いで、好きって言えるかも。

「とぉたぁにぃ、わたしぃ、戸谷のことめっちゃす……」

 そこまで言った途端、急に吐き気に襲われた。

「ウヴッ。ぎぼぢわる……ウゥッ……ッグ!!」
「ちょ、ちょっと待てっっ!! トイレ!! トイレに連れてくから!!」

 戸谷が慌てて私の手を取ったけど……

「ブ、ムリ……」

 ガバーッッ!!

 思いっきり戸谷の手にリバースしてしまった。

 お酒の酔いが一気に醒めた。

「ご、ごめ……ッッ!! 戸谷……」
「……やってくれたな」

 わ、私はなんてことをーーっっ!!
 
 ふたりで公園のトイレに行き、戸谷は男子トイレで手を洗い、私は女子トイレで残骸が飛び散った戸谷のスーツを洗っていた。

「ほんとに、ほんとにごめん……クリーニング代、払うから」
「もういいって」

 言葉でそう言いながらも、その声のトーンから全然良くないことが伝わってくる。

 一刻も早くここから逃げ出して、明日から家にずっと引き篭もりたい。

 男子トイレから出てきた戸谷が、外から声をかけてきた。

「ちょっとこれじゃ電車無理だから、タクシー呼ぶわ」
「う、うん……タクシー代払うから」

 今日だけで飲み代にクリーニング代にタクシー代と、私はいくら払うことになるんだろう。おまけに慰謝料まで請求されたら、どうしよう。

「お前も臭いから、一緒にタクシー乗れ」
「あ、うん……」

 同じタクシーに乗ったところで、そこからいい雰囲気になるはずなんてなく、据えた臭いの車中で身を縮こめて、早く家に着くように祈るばかりだった。

 酒癖悪いうえに吐かれて、戸谷ドン引きだよね。もう顔、合わせられないよ……

 タクシーが家の前に停車する。

「じゃ、またな」
「うん……ほんとに、ごめんね」
「もういいから。ちゃんと水飲んで寝ろよ」

 戸谷が買ってきたペットボトルの水を持たされ、彼を乗せたタクシーを見送った。

 せっかくふたりきりで飲みに行って、告白するチャンスだったのに。何してるんだ、私は……

 それから戸谷のことを避け続け、同期会も欠席しようとした……けど、戸谷に強引に連れ出され、参加させられて、お酒を飲みすぎないように監視されることになった。


 あの恥ずかしい告白の失敗が、パパと付き合うきっかけになったのよと娘に話すことになるのは、ずっと先の話だ。
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