矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

奏音 美都

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矢野くんの、本当の彼女になりたい……です。

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 授業が終わり、誰もいなくなった教室にひとりたたずむ。

 窓からは夕陽が射し込み、教室全体を黄色味を帯びた橙色へと染め上げていた。粉受けの銀色が夕陽に反射してキラキラと光り、まるで魔法にかかったようで、溜息が零れるほど綺麗だ。強く主張する鮮やかな夏の夕陽よりも、柔らかく包み込むような暖かな冬の夕陽が好き。ひとりで教室にいても、寂しさを薄めてくれるから。

 お昼休みに紀子ちゃんが矢野くんにチョコをあげ、仲良さげにしていたのを見てショックだったし、それでかなりチョコを渡す意欲を削がれてしまったけど……やっぱり、諦めたくない。

 これまで何度も失敗してきたし、その度に後悔もしてきた。過去の失敗を取り戻すことは出来ないけど、そこから学んで未来に繋げることは出来るから。今日は、絶対に後悔したくない。

 矢野くんにチョコを渡して、私の気持ちを伝えたい……

 眩しさに目を細めながらグラウンドを見下ろすと、矢野くんがペアを組み、パス練習をしていた。相手からパスされたボールが高く上がり、地面をバウンドして転がっていく。それを追いかけてボールを拾った矢野くんが、不意に校舎を見上げた。

 もし、かして……こっち、見てる?

 見上げた矢野くんと見下ろす私の視線が、まるで一本の糸のように繋がっている気がする。

 矢野くんがその瞬間笑顔になり、手を振った。

 わ、わわわ……これ、私に手を振ってるんだよね!?

 窓を開けると冷たい風が吹き込んできたけど、乱れる髪を押さえながら手を振り返した。

 私の姿を確認すると矢野くんは背中を向き、ペアの子の元へと駆けて行った。

 はぁ、ビックリした……

 窓を閉め、グラウンドを見下ろすと、今度は試合形式での練習が始まっていた。

 そういえば私、矢野くんがスパイクを打つ姿を見てから、気になるようになったんだよね……

 あの頃は、その想いがこんなにも大きくなるなんて、思ってもいなかった。矢野くんを見る度に、会話をする度に、彼を知る度に……どんどん、好きになってる。

 今ではもう……気持ちが溢れ出して、止められない。

 だから、あの夢を正夢になんてしない。
 未来の私、どうか私に勇気を分けて下さい……
 
 グラウンドでは、高くトスされたボールめがけて矢野くんがタタン、とステップを踏んだのが見えた。

 私の鼓動がトクン、と跳ね上がる。

 水たまりを超えるように大きく次のステップを踏み込み、綺麗なバックスイングで両足が宙に浮く。矢野くんの髪が夕陽を浴びて金色に光り、高く高く浮き上がる。左手がまっすぐ斜め上方に伸ばされ、しなる体の曲線と右腕を大きく後方に引いた形は、相変わらず綺麗で視線が釘付けになる。

 矢野くんの手のひらの指の付け根が落ちてきた白い球の真ん中を捉え、蓄えた力を全てそれに込めるように勢い良くスパイクが打ち放たれた。バーンと勢いよく弾かれたボールを、目で追いかける。


 絶対に届く!

 
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