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驚くべき提案
ニコラスが額の汗を拭った。
「ジュリエッタは18歳ですぐにでも嫁ぐことができますが、こちらのミッチェルは14歳になったばかりですので、すぐに婚姻というわけには……」
「大丈夫です。16歳になってデビュタントとして社交界にデビューするまで待ちます!」
アーロンが張り切って答えた。
「で、ですが……ミッチェルは病弱で、家に引き籠もっておりまして……」
ウッ……お父様、息子が女装しているなんて言えずに、そんな言い訳をしましたのね。
それでもいいわ。これで、ミッチェルの婚約を断ってくださるなら。
ジュリエッタは安堵しかけたが、アーロンは諦められない様子だ。
「病弱でも構いません。大切に、大切にしますので」
「アーロン様……」
キラキラと潤んだ瞳で、ミッチェルがアーロンを見つめて呟いた。
無意識に呟いたのだろうが、がっちりアーロンの心を掴んでしまったことは間違いない。ジュリエッタは心の中で舌打ちし、ミッチェルを肘で小突いた。
なに、余計なことをしてるのよ。
アーロンはミッチェルと両思いだと確信し、ふたりには何も障害はないと思っているようだ。
「ミッチェル、どうか僕の婚約者に……」
「で、ですがっっ、こんな体では……子供を産むこともできませんぞっ!!」
ニコラスが焦って声を上げた。
それを聞き、アーロンの両親の顔色がサッと変わった。たとえ資金援助を受けて家を持ち直しても、子爵を継ぐ子を産むことができなければ、お家断絶となってしまう。
ニコラスはホッと息を吐き出すと、力強く説得した。
「その点、長女であるジュリエッタは体が丈夫なのが取り柄です。何人でも、元気な子を産むことができますので、ソワール子爵のこれからの繁栄に大いに役立つことでしょう」
ジュリエッタは、自分の取り柄が体が丈夫なことだけだと父に言われているようで気に入らなかったが、それでもこれはアーロンの両親に対して大きなアピールとなったことだろうと満足した。
「えぇ、そうですわね……」
子爵夫人がジュリエットの逞しく頑丈そうな体を確認してから、ちらりと夫を見つめる。ソワール子爵は息子を気にしながらも、頷いた。
「あぁ、そうだな」
これでようやく話が纏まりそうだ。
そう誰もがそう思っていたのだが、やはりアーロンだけは反対した。
「私は……ジュリエッタと婚姻を結び、愛するミッチェルが義妹になるなど……耐えられません。これから会うたびに、胸が苦しくなり、彼女への恋焦がれることになるでしょう。
たとえミッチェルが子を望めないとしても、私は彼女と一緒になりたいのです!」
今まで気弱な様子だったソワール子爵が、意思を持って決然と言った。
「それはならん。ソワール子爵の後継を絶やすことは、絶対にあってはならん」
「だったら、養子をとればいいではありませんか」
「養子にとれるような縁戚はひとりもおらんのだ」
「だったら、養護院からでも養子を……」
「どこの馬の骨ともわからん子供を、ソワール子爵の養子に取ることはできん」
父の言葉に、アーロンは意気消沈した。
「では……今回は、ご縁がなかったということでお願いします」
今度は、ジュリエッタの両親の顔色が変わる番だった。アーロンには他にも婚約話があると聞いている。だが、こちらはこれが貴族と縁戚になれる最後のチャンスかもしれないのだ。
「ちょちょちょちょちょ……お待ちくださいませ!!」
マリエンヌが声を上げると、隣に座っている夫に『どうにかして頂戴!』と訴えるように睨んだ。
「あー、お待ちください」
ニコラスが妻に続いてそう言ったものの、なんの名案も思い浮かばない。ただひとつ分かっているのは、この婚約話を流したくないことだ。
ニコラスはなんとか頭を振り絞って考えた。
「そ。そのぉ……では、ミッチェルと婚約を取り交わし、ジュリエッタが他の殿方と結婚して子を為した暁には、二番目の息子を養子に迎えるというのでは、どうでしょう」
ほぉ……と、アーロンと彼の両親が打開策を見出したというように顔を上げた。
「お父様!!」
ジュリエッタが叫ぶと立ち上がった。
「そんなこと、勝手に決めないでください!!」
何を考えているの!?
ミッチェルと婚約させたら、彼が男性だとすぐにバレて婚約破棄されることは分かっていますのに。
それに、私の子供を養子に出すだなんて。アーロン様と結婚できなければ、もう他に縁談なんてないのに!!
「ジュ、ジュリエッタ……話し合おう。
すみませんが、少々席を外します。ミッチェル、お前も来なさい」
ニコラスが立ち上がり、憤慨するジュリエッタと困惑するミッチェルを連れて、応接間から出て行った。
「ジュリエッタは18歳ですぐにでも嫁ぐことができますが、こちらのミッチェルは14歳になったばかりですので、すぐに婚姻というわけには……」
「大丈夫です。16歳になってデビュタントとして社交界にデビューするまで待ちます!」
アーロンが張り切って答えた。
「で、ですが……ミッチェルは病弱で、家に引き籠もっておりまして……」
ウッ……お父様、息子が女装しているなんて言えずに、そんな言い訳をしましたのね。
それでもいいわ。これで、ミッチェルの婚約を断ってくださるなら。
ジュリエッタは安堵しかけたが、アーロンは諦められない様子だ。
「病弱でも構いません。大切に、大切にしますので」
「アーロン様……」
キラキラと潤んだ瞳で、ミッチェルがアーロンを見つめて呟いた。
無意識に呟いたのだろうが、がっちりアーロンの心を掴んでしまったことは間違いない。ジュリエッタは心の中で舌打ちし、ミッチェルを肘で小突いた。
なに、余計なことをしてるのよ。
アーロンはミッチェルと両思いだと確信し、ふたりには何も障害はないと思っているようだ。
「ミッチェル、どうか僕の婚約者に……」
「で、ですがっっ、こんな体では……子供を産むこともできませんぞっ!!」
ニコラスが焦って声を上げた。
それを聞き、アーロンの両親の顔色がサッと変わった。たとえ資金援助を受けて家を持ち直しても、子爵を継ぐ子を産むことができなければ、お家断絶となってしまう。
ニコラスはホッと息を吐き出すと、力強く説得した。
「その点、長女であるジュリエッタは体が丈夫なのが取り柄です。何人でも、元気な子を産むことができますので、ソワール子爵のこれからの繁栄に大いに役立つことでしょう」
ジュリエッタは、自分の取り柄が体が丈夫なことだけだと父に言われているようで気に入らなかったが、それでもこれはアーロンの両親に対して大きなアピールとなったことだろうと満足した。
「えぇ、そうですわね……」
子爵夫人がジュリエットの逞しく頑丈そうな体を確認してから、ちらりと夫を見つめる。ソワール子爵は息子を気にしながらも、頷いた。
「あぁ、そうだな」
これでようやく話が纏まりそうだ。
そう誰もがそう思っていたのだが、やはりアーロンだけは反対した。
「私は……ジュリエッタと婚姻を結び、愛するミッチェルが義妹になるなど……耐えられません。これから会うたびに、胸が苦しくなり、彼女への恋焦がれることになるでしょう。
たとえミッチェルが子を望めないとしても、私は彼女と一緒になりたいのです!」
今まで気弱な様子だったソワール子爵が、意思を持って決然と言った。
「それはならん。ソワール子爵の後継を絶やすことは、絶対にあってはならん」
「だったら、養子をとればいいではありませんか」
「養子にとれるような縁戚はひとりもおらんのだ」
「だったら、養護院からでも養子を……」
「どこの馬の骨ともわからん子供を、ソワール子爵の養子に取ることはできん」
父の言葉に、アーロンは意気消沈した。
「では……今回は、ご縁がなかったということでお願いします」
今度は、ジュリエッタの両親の顔色が変わる番だった。アーロンには他にも婚約話があると聞いている。だが、こちらはこれが貴族と縁戚になれる最後のチャンスかもしれないのだ。
「ちょちょちょちょちょ……お待ちくださいませ!!」
マリエンヌが声を上げると、隣に座っている夫に『どうにかして頂戴!』と訴えるように睨んだ。
「あー、お待ちください」
ニコラスが妻に続いてそう言ったものの、なんの名案も思い浮かばない。ただひとつ分かっているのは、この婚約話を流したくないことだ。
ニコラスはなんとか頭を振り絞って考えた。
「そ。そのぉ……では、ミッチェルと婚約を取り交わし、ジュリエッタが他の殿方と結婚して子を為した暁には、二番目の息子を養子に迎えるというのでは、どうでしょう」
ほぉ……と、アーロンと彼の両親が打開策を見出したというように顔を上げた。
「お父様!!」
ジュリエッタが叫ぶと立ち上がった。
「そんなこと、勝手に決めないでください!!」
何を考えているの!?
ミッチェルと婚約させたら、彼が男性だとすぐにバレて婚約破棄されることは分かっていますのに。
それに、私の子供を養子に出すだなんて。アーロン様と結婚できなければ、もう他に縁談なんてないのに!!
「ジュ、ジュリエッタ……話し合おう。
すみませんが、少々席を外します。ミッチェル、お前も来なさい」
ニコラスが立ち上がり、憤慨するジュリエッタと困惑するミッチェルを連れて、応接間から出て行った。
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