私より美しく女装した弟に、婚約者が私だと勘違いして一目惚れしてしまいました

奏音 美都

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ジュリエッタの条件

 応接間から出て、声が届かない場所まで移動すると、ジュリエッタは堪らず声を上げた。

「お父様! どういうつもりですか!?
 ミッチェルが男性だということは、いずれ分かりますのよ! その場凌ぎしなど、意味がありませんわ!!」
「だ、だが……婚約から婚姻までなんとか漕ぎつければ、たとえ一時であっても私は貴族の縁戚となれるのだ」

 そこまでして自分の野望を叶えようとする愚かな父の考えに、ジュリエッタは大きな溜息を吐いた。

「婚姻後の初夜に男性であることが明らかになれば、相手方がなんと仰るか……世間にも、私達は笑い者にされますわ」

 マリアンヌが娘を宥めながら、笑いかけた。

「これほど美しいミッチェルですもの、たとえ男性であることが分かっても、なんとか穏便に済みますわ」

 だめだわ、このふたり……まるで話が通じない。

 頭を抱えたジュリエッタは、最後の綱とばかりにミッチェルを見つめた。

「貴方だって、ずっと女性の格好をしていなくてはいけないなんて、嫌でしょう?」
「僕は……男性でいるよりも、女性でいる方が生きやすいと気付きました」

 ウッ……

 ジュリエッタは、ミッチェルに迫った。

「ア、アーロン様は男性なのですよ」
「アーロン様は素敵な方です! 僕は、あの方に……恋してしまいました」

 ミッチェルが頬を染めて告白する。それはまさに、可憐な少女のようだった。

 なんですって!?

「で、ですが……お慕いするアーロン様に嘘をつき続けなくてはいけないだなんて、胸が痛むでしょう? 
 それに、男性であることが分かったら非難され、糾弾されるかもしれないのですよ。アーロン様に、憎まれるかもしれません」

 それを聞いてミッチェルは顔を青褪めたが、唇をキュッと結んでから口を開いた。

「それでも……たとえ一時であってもアーロン様の婚約者となれるのなら、僕は構いません」

 いやいやいやいや!!
 ありえないでしょう!!

 狼狽えているのは、ジュリエッタひとりだけだった。

 どうやら両親とミッチェルは、この突拍子もないプランBを決行するつもりらしい。

 このままいくと、我が家が危機に陥ってしまうわ。だいたい、ミッチェルはこの家を継ぐべき嫡男だというのに、いったい何を考えているの!

 そうジュリエッタは考えて、ハッとした。


 そうだわ、打開策があるじゃない!!


 ジュリエッタが大仰に咳をし、皆の注目を集める。

「このプランを承諾すれば、この家、および私にも危害が及ぶ危険性が非常に高いことは、お父様もお母様も分かっていらっしゃいますよね?」

 両親が頼りなく頷く。

「では、約束してください。このプランが成功しようが、失敗しようが、この家を継いでジェントリとなるのは、弟のミッチェルではなく、私だと」
「な、なに!?」

 ニコラスが口をあんぐりと開けた。

「考えてみれば、ミッチェルよりもジェントリに関する知識が豊富で賢く、要領が良く、社交性にも優れた私の方がジェントリに向いています」
「確かに、そうね……」

 マリエンヌが同意した。

「だ、だが……家を継ぐのは男子と……」
「その男子に女装させて嫁がせようとしてるのは、どこのどなたですか!」

 ジュリエッタにピシャリと言われ、ニコラスは黙った。

「私がジェントリとなった暁には、私の結婚についてとやかく口を出すのはやめて下さい。私は相手が貴族でなくとも、上流階級の男性でなくとも……私を婚姻相手に選んでくださるのであれば、どなたでもいいのです。そんな方が現れなかったら……一生を独身で過ごします」
「ジュリエッタ!! 貴女、なんてことを!!」

 女の幸せは結婚にあると考えているマリエンヌが、目を飛び出さんばかりに驚愕の声を上げた。

「その代わり、私は女ジェントリとして事業の発展に力を尽くし、領民の幸せの為に働きます。必ずや、立派なジェントリになってみせますわ!!」
「だ、だが……」

 言い募ろうとするニコラスに、ジュリエッタが凄んだ。

「この条件が飲めないというのでしたら……
 今すぐに、ミッチェルが女装とした男性であることをバラしますわよ?」
「わ、分かった!! 
 ジュリエッタの条件を、飲もう」

 ニコラスが両手を上げて降参のポーズを示した。

 あぁ、これて私は晴れて自由の身になれるのだわ!

 ウキウキした気持ちで、ジュリエッタはアーロン一家の待つ応接間へと戻った。
 
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