9 / 25
盲点でしたっっ
それからジュリエッタはジェントリになるため、みっちりと修行を受けることになった。
ジュリエッタにとって父ニコラスについて領地を回ったり、毛織物工場で最新の機械を見学することはとても楽しく、刺激があった。積極的に領民や工場で働く従業員たちに質問し、彼らの悩みや問題を熱心に紙に書き留めた。
中でも印象的だったのは、ニコラスが寄付している養護院を訪れたことだった。両親が亡くなったり、事情があって預けられたりした子供たちに対して、どう接していいものかと考えていたジュリエッタだったが、そんな考えは彼らの明るく人懐っこい笑顔に迎えられた途端に吹き飛んでしまった。
そこでは、舞踏会やサロンのようにジュリエッタを見た目で判断することなく、慕ってくれる。手を引いて、甘えてくれる。ジュリエッタは、子供がこんなに無邪気で可愛い存在だとは思いもしなかった。
ニコラスの代だけでなく、祖父の代からの農作物の収穫量や税収を調べ、その年の天候や関わった戦争についても調べた。また、ニコラスが関わっている農業、工業、産業のあらゆる本を読み漁り、これから携わっていけそうな分野の事業についても調べた。
あぁ、時間がいくらあっても足りないわ……
ジェントリって、なんて興味深い役割なのかしら。これからやりたいことがどんどん出てきて、ワクワクしちゃう。
その一方で、弟のミッチェルは花嫁修行に勤しんでいた。あれ以来、ミッチェルは女装でいることを常とし、家族や使用人もそれに対して違和感を持たなくなっていた。
ミッチェルは礼儀作法、針仕事、刺繍、ダンス、ピアノといった、ジュリエッタが苦手とする分野を嬉々として取り組み、こなしていった。
マリエンヌはミッチェルは本当に娘だったのではないかと錯覚するほどだった。
アーロンはまめにミッチェルに手紙を送り、遠方に住んでいるにもかかわらず月に最低1度は訪れた。ミッチェルが男性であることは見破られておらず、順調に愛を育んでいるようだった。
それから1年が経ったある日、すっかりジェントリの後継として仕事が身についたジュリエッタは、ニコラスとともにヨーロッパの商談旅行から3週間ぶりに帰ってきた。
「お姉様、おかえりなさいませ」
ミッチェルに出迎えられて、ふとジュリエッタは違和感を覚えた。
「ミッチェル……貴方、いつのまにそんなに背が高くなったのですか。それに、なんだか体つきも……以前とは違ってしまったような」
それまでは、毎日顔を合わせていたので気がつかなかったが、ずっとジュリエッタよりも背が低いと思っていたミッチェルの目線がいつのまにか同じになっていて、筋肉などおよそ感じられないと思っていた腕のラインに膨らみが出ていた。肩も、以前のような華奢さが失われている。
少女のように可愛らしかったミッチェルは第二次性徴を迎え、少しずつ変化していたのだった。
あぁ、なぜ私は気がつかなかったの!? 盲点だったわ!!
ミッチェルがいつまでも少女のままでいられるはずなどないのに。いくら顔立ちが美しく、華奢な体型であっても、思春期に入り第二次性徴を迎えることによって、少しずつ男性らしさが出てくると、少し考えれば分かったはずなのに!!
ミッチェルが瞳に涙を溜めてウルウルさせたかと思うと、ワッと泣き出した。
「あぁ、ジュリエッタお姉様に気づかれてしまいました……
近いうちにきっと、アーロン様にも私が本当は男性だと、気づかれてしまいますわ!!」
ミッチェルは、ジュリエッタが気づくかなり前から体の変化を自覚していた。それを隠そうとヒールの靴を履くのをやめたり、肩や腕がなるべくでないドレスを着たり、ムダ毛の処理をしたりと努力していた。
けれど、そうしたところで自然の摂理からは逃れられない。ミッチェルは、確実に大人の男性への階段を上っていた。
「ウッ、ウッ……アーロン様に嫌われたら、私はもう生きていけません」
絶望する弟を目の前にし、ジュリエッタはミッチェルが不憫になった。
「分かったわ、ミッチェル……なんとか、するから」
ジュリエッタにとって父ニコラスについて領地を回ったり、毛織物工場で最新の機械を見学することはとても楽しく、刺激があった。積極的に領民や工場で働く従業員たちに質問し、彼らの悩みや問題を熱心に紙に書き留めた。
中でも印象的だったのは、ニコラスが寄付している養護院を訪れたことだった。両親が亡くなったり、事情があって預けられたりした子供たちに対して、どう接していいものかと考えていたジュリエッタだったが、そんな考えは彼らの明るく人懐っこい笑顔に迎えられた途端に吹き飛んでしまった。
そこでは、舞踏会やサロンのようにジュリエッタを見た目で判断することなく、慕ってくれる。手を引いて、甘えてくれる。ジュリエッタは、子供がこんなに無邪気で可愛い存在だとは思いもしなかった。
ニコラスの代だけでなく、祖父の代からの農作物の収穫量や税収を調べ、その年の天候や関わった戦争についても調べた。また、ニコラスが関わっている農業、工業、産業のあらゆる本を読み漁り、これから携わっていけそうな分野の事業についても調べた。
あぁ、時間がいくらあっても足りないわ……
ジェントリって、なんて興味深い役割なのかしら。これからやりたいことがどんどん出てきて、ワクワクしちゃう。
その一方で、弟のミッチェルは花嫁修行に勤しんでいた。あれ以来、ミッチェルは女装でいることを常とし、家族や使用人もそれに対して違和感を持たなくなっていた。
ミッチェルは礼儀作法、針仕事、刺繍、ダンス、ピアノといった、ジュリエッタが苦手とする分野を嬉々として取り組み、こなしていった。
マリエンヌはミッチェルは本当に娘だったのではないかと錯覚するほどだった。
アーロンはまめにミッチェルに手紙を送り、遠方に住んでいるにもかかわらず月に最低1度は訪れた。ミッチェルが男性であることは見破られておらず、順調に愛を育んでいるようだった。
それから1年が経ったある日、すっかりジェントリの後継として仕事が身についたジュリエッタは、ニコラスとともにヨーロッパの商談旅行から3週間ぶりに帰ってきた。
「お姉様、おかえりなさいませ」
ミッチェルに出迎えられて、ふとジュリエッタは違和感を覚えた。
「ミッチェル……貴方、いつのまにそんなに背が高くなったのですか。それに、なんだか体つきも……以前とは違ってしまったような」
それまでは、毎日顔を合わせていたので気がつかなかったが、ずっとジュリエッタよりも背が低いと思っていたミッチェルの目線がいつのまにか同じになっていて、筋肉などおよそ感じられないと思っていた腕のラインに膨らみが出ていた。肩も、以前のような華奢さが失われている。
少女のように可愛らしかったミッチェルは第二次性徴を迎え、少しずつ変化していたのだった。
あぁ、なぜ私は気がつかなかったの!? 盲点だったわ!!
ミッチェルがいつまでも少女のままでいられるはずなどないのに。いくら顔立ちが美しく、華奢な体型であっても、思春期に入り第二次性徴を迎えることによって、少しずつ男性らしさが出てくると、少し考えれば分かったはずなのに!!
ミッチェルが瞳に涙を溜めてウルウルさせたかと思うと、ワッと泣き出した。
「あぁ、ジュリエッタお姉様に気づかれてしまいました……
近いうちにきっと、アーロン様にも私が本当は男性だと、気づかれてしまいますわ!!」
ミッチェルは、ジュリエッタが気づくかなり前から体の変化を自覚していた。それを隠そうとヒールの靴を履くのをやめたり、肩や腕がなるべくでないドレスを着たり、ムダ毛の処理をしたりと努力していた。
けれど、そうしたところで自然の摂理からは逃れられない。ミッチェルは、確実に大人の男性への階段を上っていた。
「ウッ、ウッ……アーロン様に嫌われたら、私はもう生きていけません」
絶望する弟を目の前にし、ジュリエッタはミッチェルが不憫になった。
「分かったわ、ミッチェル……なんとか、するから」
あなたにおすすめの小説
幼馴染の生徒会長にポンコツ扱いされてフラれたので生徒会活動を手伝うのをやめたら全てがうまくいかなくなり幼馴染も病んだ
猫カレーฅ^•ω•^ฅ
恋愛
ずっと付き合っていると思っていた、幼馴染にある日別れを告げられた。
そこで気づいた主人公の幼馴染への依存ぶり。
たった一つボタンを掛け違えてしまったために、
最終的に学校を巻き込む大事件に発展していく。
主人公は幼馴染を取り戻すことが出来るのか!?
変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ
奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。
スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります
奏音 美都
恋愛
ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。
そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。
それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。