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足枷
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「そ、そんなの勝手です......日本にだって、秀一さんのファンはたくさんいます。彼を必要としているのは、ウィーンに住んでいる人たちだけではありません」
自分が秀一を必要としている。
そう言うとただの我儘でしかないので、美姫は日本のファンを引き合いに出して反論した。
秀一さんだって、きっと日本での暮らしの方が快適なはず......日本を離れることなんて、考えていないはず。
そう信じたいのに、心が焦燥感で焼けつくされそうになる。
『ミキ、君もクリスマスコンサートに来た際に感じた筈だ。シューイチが登場したことで会場が沸き、大勢の聴衆が彼のピアノを聴ける喜びに溢れていたことを。
二年という月日が流れても、シューイチは忘れられることなく、熱狂的にウィーン市民から受け入れられた。それがどういう意味か、君にもよく分かるだろう?』
美姫の脳裏にコンサートでの様子が蘇る。
秀一が登場した時の観客のどよめき、そして大歓声、われんばかりの拍手。
その時に感じた、自分の孤立感......
モルテッソーニは小さい子供を宥めるように、優しい声音で美姫に話しかけた。
『シューイチに、世界に誇るピアニストとして、更なる飛躍をして欲しいとは思わないかい?
君にとってもシューイチが大切な存在なら、彼にとって最高の選択肢を与えるべきだとは思わないかね?』
「............」
秀一さんにとって、最高の選択......
そう言われてしまうと、美姫は返す言葉がなかった。
『ピアノ界の巨匠』と呼ばれるモルテッソーニの元、ザック、ミシェル、レナード、カミルという優秀で個性的な弟子たちと切磋琢磨し、最高の音楽に触れ、ピアノに打ち込む生活。それはピアニストとしての秀一にとって、飛躍させる場であるに違いないと、美姫も同意するしかなかった。
『私たちが何を言ってもシューイチは聞かないが......ミキ、君の望みであれば彼は首を縦に振るだろう。
シューイチと離れるのが寂しいなら、ミキもここに来て生活すればいいじゃないか』
そう言って、モルテッソーニは笑顔を見せた。
そんな、簡単に......
秀一と共にウィーンで生活する。
きっと、ここに来る前であれば、それも考えられたかもしれない。
だが、実際にウィーンに来て、ドイツ語を話せないこと、そして男性恐怖症を克服出来ていないまま、多忙な仕事に追われるであろう秀一と異国の地で住む自信は美姫には皆無だった。
ここで秀一さんと生活するなんて、無理......私には、出来ない。
それに...お父様とお母様のこともあるし。
せっかく海外を飛び回る生活をやめ、拠点を日本に移して娘との時間を少しでもとろうとしている両親にオーストリアに住むなどとは言える筈がない。秀一のことを疑っているかもしれない母に対しても、どう言い訳していいのか思いつかない。
モルテッソーニは俯いたまま何も答えない美姫を見つめ、小さく息を吐いた。
『君にとっては簡単なことじゃないかもしれないが......考えてみてくれ、シューイチのピアニストとしての幸せを』
モルテッソーニは立ち上がり、加代子に挨拶をすると扉へと向かいかけ、ふと何かを思いついたかのように美姫に話しかけた。
『あぁ、もしかして私がシューイチに手を出してるんじゃないかと心配したかもしれんが、さすがに友人の息子には手は出せんので心配なく。まぁ、それがなければ間違いなく食ってたがな、ワハハ......
それに、今は私はカミルしかおらん。あいつは私に、本当の愛とはどういうものなのか、教えてくれた。大切な、恋人だ......
じゃあな、ミキ。また会おう』
自分が秀一を必要としている。
そう言うとただの我儘でしかないので、美姫は日本のファンを引き合いに出して反論した。
秀一さんだって、きっと日本での暮らしの方が快適なはず......日本を離れることなんて、考えていないはず。
そう信じたいのに、心が焦燥感で焼けつくされそうになる。
『ミキ、君もクリスマスコンサートに来た際に感じた筈だ。シューイチが登場したことで会場が沸き、大勢の聴衆が彼のピアノを聴ける喜びに溢れていたことを。
二年という月日が流れても、シューイチは忘れられることなく、熱狂的にウィーン市民から受け入れられた。それがどういう意味か、君にもよく分かるだろう?』
美姫の脳裏にコンサートでの様子が蘇る。
秀一が登場した時の観客のどよめき、そして大歓声、われんばかりの拍手。
その時に感じた、自分の孤立感......
モルテッソーニは小さい子供を宥めるように、優しい声音で美姫に話しかけた。
『シューイチに、世界に誇るピアニストとして、更なる飛躍をして欲しいとは思わないかい?
君にとってもシューイチが大切な存在なら、彼にとって最高の選択肢を与えるべきだとは思わないかね?』
「............」
秀一さんにとって、最高の選択......
そう言われてしまうと、美姫は返す言葉がなかった。
『ピアノ界の巨匠』と呼ばれるモルテッソーニの元、ザック、ミシェル、レナード、カミルという優秀で個性的な弟子たちと切磋琢磨し、最高の音楽に触れ、ピアノに打ち込む生活。それはピアニストとしての秀一にとって、飛躍させる場であるに違いないと、美姫も同意するしかなかった。
『私たちが何を言ってもシューイチは聞かないが......ミキ、君の望みであれば彼は首を縦に振るだろう。
シューイチと離れるのが寂しいなら、ミキもここに来て生活すればいいじゃないか』
そう言って、モルテッソーニは笑顔を見せた。
そんな、簡単に......
秀一と共にウィーンで生活する。
きっと、ここに来る前であれば、それも考えられたかもしれない。
だが、実際にウィーンに来て、ドイツ語を話せないこと、そして男性恐怖症を克服出来ていないまま、多忙な仕事に追われるであろう秀一と異国の地で住む自信は美姫には皆無だった。
ここで秀一さんと生活するなんて、無理......私には、出来ない。
それに...お父様とお母様のこともあるし。
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モルテッソーニは俯いたまま何も答えない美姫を見つめ、小さく息を吐いた。
『君にとっては簡単なことじゃないかもしれないが......考えてみてくれ、シューイチのピアニストとしての幸せを』
モルテッソーニは立ち上がり、加代子に挨拶をすると扉へと向かいかけ、ふと何かを思いついたかのように美姫に話しかけた。
『あぁ、もしかして私がシューイチに手を出してるんじゃないかと心配したかもしれんが、さすがに友人の息子には手は出せんので心配なく。まぁ、それがなければ間違いなく食ってたがな、ワハハ......
それに、今は私はカミルしかおらん。あいつは私に、本当の愛とはどういうものなのか、教えてくれた。大切な、恋人だ......
じゃあな、ミキ。また会おう』
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