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第3話 初めての世界
しおりを挟むベッドから起き上がり、部屋を出てリビングへと向かった。メビウスは王族ということもあり、その居住空間はまさに豪華絢爛だった。天井は驚くほど高く、緻密な彫刻が施された柱が整然と並んでいる。壁には優雅な装飾が施され、巨大なシャンデリアが煌めきを放つ。床には光沢のある大理石が敷かれ、その上に敷かれた絢爛な赤い絨毯が空間全体に気品を添えていた。
サラリーマン時代に住んでいた六畳一間のアパートのリビングとは比べ物にならない。まるで宮殿の舞踏会場のような空間に、思わず圧倒されそうになる。
そして、その中央に立つ一人の男。
純白の王衣をまとい、気品と威厳を漂わせるその姿は、一目でただ者ではないとわかる。そして、俺と目が合った瞬間、男の表情が一変した。
「メビウス!!!目を覚ましたのか!!!!?」
その声には驚きと安堵が入り混じっていた。そう、この男はメビウスの父であり、この国の王ーー俺の父親だったのだ。
「父上…?」
自然と口から出た言葉に、自分で少し驚く。しかし、王⋯俺の父親は、そんなことなど気にも留めず、大股でこちらに歩み寄ると、勢いよく俺を抱きしめた。
「よかった…!本当によかった!三日も意識が戻らず、医者たちですら手の施しようがないと言っていたのだぞ!」
(いや、王族の俺が倒れたら、そりゃ国中大騒ぎになるわな…)
「父上、お、お体が痛いです…」
「おお、すまん!」
慌てて俺を解放した父上は、俺の顔をじっくりと見つめた。まるで俺の存在を噛み締めるように。
「食事は取れるか?水は飲めたか?具合はどうだ?」
「あ、えっと、大丈夫…?」
父上の気遣いに戸惑っていると、そこへクリスが戻ってきた。手には銀のトレイに載せられたグラスがある。
「メビウス様、お水をお持ちしました!」
「うむ、よくやった!」
父上が満足げに頷くと、クリスは誇らしげに胸を張った。俺はそんな二人を見ながら、なんとなく笑ってしまった。
(なんか…思ってたより、温かい世界かもしれないな)
***
体力が回復した俺は、久しぶりに城の外へ出たくなり、裏の森へと向かった。王族が簡単に立ち入れる場所ではないが、使用人たちに見つからないようにこっそり抜け出す。
(……転生してから数日、ようやく自由に動けるようになったな)
森の奥へ進むと、鳥のさえずりと木々のざわめきが心地よく響く。この世界に転生して以来、王宮の厳格な空気にずっと閉じ込められていた俺にとって、この静寂はたまらなく心地よかった。
しかし、その穏やかな空気は突然切り裂かれた。
「うあああああああああっ!!!」
突然、叫び声が響き渡る。
(何だ!?)
声のした方を振り向くと、木々の間から一人の騎士が飛び出してきた。
若い男だ。ぼろぼろの鎧を身にまとい、顔には汗と泥が滲んでいる。目は血走り、肩で息をしながら剣を握りしめていた。
「ッ……チクショウ……!!!」
荒い息遣いとともに、その男――サーガ・フェンリルは膝をついた。
彼の背後から、数人の兵士が現れる。
「見つけたぞ、フェンリル!!!」
「貴様、上官への反抗をどういうつもりだ!!」
「もう逃げ場はないぞ!」
兵士たちは剣を抜き、サーガを取り囲む。
(……状況がよくわからないが、これは……)
「……おい、何があった?」
思わず口を開くと、兵士の一人が俺の存在に気づいた。
「メビウス王子!?」
「なっ……」
サーガが俺の方を振り向いた。その目は、まるで今にも爆発しそうな激情を宿していた。
「……王族か」
彼は低く呟くと、ゆっくりと立ち上がった。そして、俺に向かって一歩、また一歩と近づいてくる。
「お前も……あいつらと同じか?」
その声には、怒りと憎しみが滲んでいた。
「何?」
「貴族ってのは、俺たちみたいな下賤の人間を道具みたいに扱うことしか考えてねぇんだろ……!」
「……っ」
その瞳は、獣のように鋭く、危ういほどの狂気が宿っていた。
(この男、普通の騎士とは違う……)
サーガは剣を強く握りしめた。
「俺は絶対に、誰にも支配されねぇ……!!!」
次の瞬間、彼は俺に向かって剣を振り上げた――。
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