センターライフ

にゃんこう

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センター君とキャッチャーさんと時々ピッチャー

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【センターside】

 僕の名前は『センター』
 きっと皆さんは『センター試験』とか『センタリング』なんて思い浮かべるんでしょ?

 僕は野球のポジションのセンター。
 人気ナンバーワンのピッチャーやファーストじゃない、外野手で中堅手のセンター。

 そんな僕には好きな人がいるんだ。
 いつも遠くから眺める事しかできていないけど、いつもバッターよりも彼女に目が向いてしまう。

 そんな彼女の名前は『キャッチャー』

 キャッチャーはいつも僕達の投げる想いを優しく受け止めてくれる。どんな酷い言葉酷い言葉ボールも、愚痴も、嘆きも、優しい笑顔優しい笑顔ミットで包んでくれる。

 だけど……僕の本当の想いなんて届くわけがないんだ。


【キャッチャーside】

 私の名前は『キャッチャー』
 きっと皆さんは『野球のキャッチャー』とか『捕手』とか思い浮かべるんでしょう?

 お見込みの通り。
 私は野球のポジションであるキャッチャー。
 最近、『ピッチャーと良い感じのバッテリー』とか意味不明な事を言われ続けてるキャッチャー。

 そんな私には好きな人がいる。
 いつも遠くから眺める事しかできないけど、ホームランボールよりも彼に目が向いてしまうの。

 そんな彼の名前は『センター』

 センターはいつも自分に自信がない。
 あまり接点のない私達が唯一会話が出来る練習の時だって、いつもバットさんと楽しそうにフライで遊んでる。
 私なんか眼中にも無いんだ。
 そんな事は分かってる、分かってるけど……。

「案外、嫉妬深いのよ私」


【センターside】

 今日もキャッチャーはピッチャーと楽しそうに会話キャッチボールをしている。それを見る度に痛む胸を僕は優しく擦る。

 どんな会話をしてるんだろうか。
 彼女はどんなボールが好きなのだろう。
 彼女の好きなポジションは?

「あぁ、なんで僕はセンターなのだろうか……」

「おーいセンター! ちゃんと集中しなさい!」

「す、すみませんバットさん」

 そんなこと考えてる場合じゃない。
 今週の土曜日に大事な試合があるんだから、今は練習に集中しないと。

 僕は余計な事を考えるのを止めて野球の世界に逃げ込んだ。だけど、ちらちら視界に入るピッチャーとキャッチャーを見てみぬふりが出来なかった。


【キャッチャーside】

「ねぇ、調子はどう?」

 ピッチャーがトイレに行った隙をみて、私は勇気を振り絞ってセンターに声を掛けた。
 汗が太陽の光で煌めいて、彼がいつもより格好よく見えてしまう。顔……赤くなってないかしら。

「ん……まぁ普通」

「そっか、私はバッチリだよ!! もうずっと練習ばかりして――」

「へぇ、ピッチャーと二人で、か」

「え?」

 予想外の言葉に私は言葉を詰まらせる。
 センターはそう言い残して、バットさんの方へ歩いて行った。

 "待って、行かないで!"

 私は手を伸ばして引き止めようとしたが、思うように言葉が出てこない。私は勘違いしていた。センターは少しばかり私に気があるんじゃないかって思っていた。

 だけど違う。
 私は自惚れていた。
 いつかセンターから近付いてくるものだと思っていた。だが、センターと私の距離は想像していたよりもずっと離れていたのだ。
 それを今、思い知った。

 センターの後ろ姿を私は唇を噛み締めて見つめる。遠ざかって行く小さな背中を。

「ごめんごめん腹下してさぁ……ってどうした、キャッチャー」

「う、ううん、何でもない。さ、練習しよ!」

 こうして私はまた、野球の世界に逃げ込む。野球をやっていれば嫌な事を忘れられる……のに。

「あれ、どうしてだろう……」

 私の涙は嘘をつかない。


【センターside】


 ――バンッ!

 練習を終えたあと、更衣室のロッカーでピッチャーに壁ドンをされた。鼻息が荒く、血走った瞳。僕は何か怒らせるような事しただろうか。

「……何さ」

「単刀直入に聞く。お前、キャッチャーの事好きだろ」

「―――ッ!」

 その言葉に僕は平静さを失う。
 それと同時に、何故ピッチャーがご立腹なのか理解できた。

「今日のあいつ、目をパンパンに腫らしてんだよ」

「……あぁ」

 今朝キャッチャーと顔を合わせた際、彼女は目を充血させて、尚且つ目元を腫らしていた。そして原因は僕なのだとすぐに分かった。

「お前っ……あいつに何を言った!!」

「……何も言ってないよ」

「嘘付くなっ」

 激昂したピッチャーは僕の胸ぐらを掴み、そのまま壁に押し付ける。苦しい……なんて、僕は思わなかった。その瞬間、僕の中で張り詰めていた糸がプツリと切れた。

「あぁ、言ったさ!! キャッチャーが練習を頑張ってるって言ったから、お前と二人でだろ、って言っただけだよ!!」

「……てめぇ、何も知らないくせに」

「事実だろ! お前らはバッテリー。外野の俺はその間に付け入る隙もねぇ。違うんだよ、お前らと俺の生きてる世界が。同じ野球でも、同じチームメイトでも……外野とピッチャーじゃ違うんだよ」

 僕の叫び声は僕自身を傷付けた。
 ロッカーに響き渡る怒声はまるで僕自身じゃないように感じた。

 そうだ、僕とキャッチャーは生きてる世界が違う。
 ヒーローと凡人。
 鷹とスズメ。
 僕はピッチャーの肩を掴んで涙を流した。

「生きてる世界が違う……か」

 そう呟いたピッチャーは僕の胸元から手を離した。すると、身体を脱力させ近くのベンチに座る。どこか言葉も弱々しく、哀愁に満ちた表情を浮かべていた。

「ピッチャーってのは常にプレッシャーとの勝負なんだよ。重要な場面に遭遇すれば、その分負荷は大きい。ピッチャーってヒーローのように思うだろ? 一番テレビに映るし、ゼロ点で抑えれば喝采を浴びる。だけどな、そんな良いもんじゃねーよ」

「思い出すだけで手が震えちまう」と嘆くピッチャーに、僕はかける言葉が見つからない。遠くからしか見てない僕にとって、ピッチャーがあのマウンドで味わう緊張感など知る由もない。僕だって試合でボールが飛んでくれば緊張してしまう。だが、ピッチャーはその緊張を常に持ち合わせているのだ。

 緊張は多大なストレスを与える。
 普段から僕より何倍も努力し、野球に情熱を捧げているピッチャーに対して、僕は……。

「ただな、センター。野球はポジション関係ないんだよ。一人ひとりがヒーローで、主役だ」

 そう言ってピッチャーは椅子から立ち上がり、僕に背中を向ける。その大きく頼り甲斐のある背中からは、いつも背負い続けているキャプテンという名の重荷を感じる。背負ってるものが僕とは違う。
 それに比べて僕はピッチャーほど野球の情熱は持ち合わせていない。そんな己の未熟さが恥ずかしくなり、思わずピッチャーの背中から目を背けてしまう。

「俺な、キャッチャーに振られちまった」

「え!?」

「ずっと好きだったんだ。いつも俺を励まし、優しく受け止めてくれる。そんな彼女が好きだったんだよ……でも、他に好きな奴がいるんだってよ」

 ピッチャーはポケットから野球ボールを取り出して、僕にフワぁと投げる。
明日の試合。お前の想いをホームベースまで届けてみろ」

 ピッチャーはそう言い残して更衣室を後にした。一人残された僕は野球ボールをギュッと握り締め、ユニフォーム姿で更衣室を飛び出した。



 ◆


【キャッチャーside】

 八回裏の四対三。
 先攻である私達はこの回を取れば勝利……なのだが。

 ワンアウト……。
「満塁かぁ……」

 落ち着いて、落ち着いてピッチャー。
 そんなにキョロキョロしなくていい、目の前のバッターに集中しなさい。

『さぁピッチャー選手、投げました! おぉっと、ボールだ』

「すみませんタイム!」

 私はマスクを外してピッチャーに駆け寄る。

「すまないな、こんな場面で」

「大丈夫、落ち着いて! 次は君の得意な――」

「ストレート」

「え?」

 ピッチャーは疲労に満ちた顔でニヤリと笑う。その言葉は決して自暴自棄になった訳じゃなく、作戦があっての言葉だと私は感じた。
 でも……。

「こんな場面で危険よ! 打たれちゃうわ」

「いいんだよ打たせて」

「だってそんなの」

「知ってるか、俺の背後には臆病でいつも逃げてばかりだけど、ちゃんと漢してる奴がいるんだよ」

 ピッチャーが背後を指差すと、遠くにいるセンターが片手を上げている。いや、でも……。

「なぁキャッチャー。しっかりと受け取れよ、あいつの気持ち」

「え?」

『さぁタイムは終了です。次で勝負が決まるのか』

 たとえ打たれたとしても、ワンアウトの状況にある今。試合終了に持ってくのは少しばかり厳しい。

『さぁピッチャー振りかぶって……投げました!』

 内角低め、これならストライクに――

 ――カキンッ!

『おおっと、センターに向かって高く上がった!』

 ヤバイ打たれた!!
 私はマスクを外してセンターに目を向ける――そのボールの着地点には私が好きな人が立っていた。





「ったく、良い場面を持って行きやがって。いけっセンター」





【センターとキャッチャー】


 やっぱ格好いいやピッチャーは。
 僕の中で輝くヒーローだ。
 だけど、今日は……今日だけは僕がヒーローになっても良いかな。

 ピッチャーからのバトンを受け取った僕は、おおきく振りかぶった。





「とどけぇぇぇぇぇぇぇ!!」




 鞭のように腕を撓らせ、肩を前に突き出して、身体全体を遠くへ投げるイメージ。遠心力でボールが手から離れないように、しっかりと握り締めて投げた!!

『速い、速すぎる!! ボールを拾ってから投げるまでのモーションもそうだが、その送球はまるで』



 "レーザービーム"



 ◇


 ブレることない綺麗な球筋。
 その想いボール|に私は瞳を潤わせてミットを構える。

 "ねぇ知ってる? 私、ずっと前から君のこと"

『俺、ずっとキャッチャーのこと』






 ――好きでした。


 その日、球場全体に聞こえるほど大きく、気持ちの良いミットの音が響き渡った。

『……あ、アウト!! ゲ―ムセット!』

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