私と小さなサンタさん

にゃんこう

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私と小さなサンタさん

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「ねぇパパは?」

 この日、私は毎年のように同じ言葉を繰り返す。
 一年に一度しか鳴らないアラームがやっとこの日に鳴り響いても、またスヌーズ機能が働いてしまう。

 アラームが解除される日はいつ来るのだろうか。

 そして、この言葉は魔の呪文だ。
 ママは笑っているけども、辛そうにしているのが子供の私でも分かっていた。


 ◆


―――――――――12月24日

 外を歩けば聞き慣れたクリスマスソングが流れている。綺麗なイルミネーションが飾られている商店街には、親と手を繋いではしゃいでいる子供で溢れている。

 街全体が笑顔とイルミネーションでカラフルに彩られていた。

 仕事終わりのサラリーマンも、重い足取りで家路を急いでいるがその表情はどこか柔らかい。
 それも全部、今日がクリスマス・イブだからだろう。

「朋ちゃん今日は何食べたい? お母さん、腕を振るっちゃうよ~」

 私の左手に繋がれている優しくて温かい手、私の母は楽しそうにそう言った。

「………なんでもいい」

 それに対して、私はふて腐れながら意地悪にそう口にする。それでも母は「それはお母さんにチャレンジを申し込んでいるのね!!」と、明るい笑顔で返してくる。

 本当はそんなこと言いたくなかった。
 母と楽しくクリスマス・イブをお祝いしたい。
 だけど、私の心の奥に邪魔するのはもう一人の私。

 大人になれない子供の私。
 素直な気持ちを持つ私。

 それから私は、母に引き摺られながら買い物を終える。その間も、不機嫌な私に対して常に笑顔を向けてくる母に、胸が痛む私がいた。

「ただいまぁ~」
「……………」

 リビングに入ると、窓に飾られた小さなイルミネーションとリビングの中央にある私の背より断然高いクリスマスツリーが、今日が特別な日だと嫌でも思わせる。

 これら全て母が飾り付けたものだ。

「さて、今からご飯作るから朋ちゃんはお風呂入っちゃって」
「……………」

 今日の私はイジワルだ。
 特別な日に限って、私はイジワルになる。
 誕生日だって、クリスマスだって、子供の日だって、私はいつも機嫌が悪い。

 この前の私の誕生日、いつも通り機嫌の悪い私に母は「私じゃだめ?」と声を掛ける。母は微笑んでいたつもりだろうが、悲しさを我慢するように顔を引き攣らせて、その表情はどこか寂しさが込められていた。

 その時の母の顔をきっと私は忘れない。
 寂しいのは母も同じだ。
 なのに私は母を苦しめた。
 二度と母を悲しませるものか。

 そう思っていたのに………。

 お風呂から上がると、テーブルの上には七面鳥の肉と、ポテトやハンバーグ、そして私の大好物なフルーツポンチがテーブルを鮮やかに彩っていた。

 用意されている食器は三つ。
 来るはずのない父のものだ。

「じゃーん!! お母さん特製スペシャルクリスマスディナー!!」

 特製と言ってるけども、殆どがスーパーの出来合い物をチンしたものだ。私は無言で席に座ると、母は私の好物である炭酸ジュースをコップに注ぎ、手渡してくる。

 いつもと同じ二人で乾杯。
 部屋に飾られているイルミネーションの輝きが、より寂しさを増幅させる。

「ねぇママ、なんでクリスマス・イブにお祝いするの? クリスマスは明日でしょ?」
「だって今日は祝日じゃない! 世の中お祝い事は休日にするものなの。それにお祝いするのにクリスマス・イブもクリスマスも対して変わらないわ。明日は朋ちゃん学校でしょ? 勉強で疲れた状態でお祝いなんて嫌よ」
「……別にどっちでもいいよ……だって」

 私はその後に言おうとした言葉を噛み砕いた。
 それでも母には伝わってしまったらしい。少し寂しげな表情を浮かべたあと、静かに箸を食器に置いて立ち上がる。

 母はキッチンに向かいその場で一旦しゃがむと、中くらいの箱を持って私に近付いてくる。

「はいこれ、クリスマスプレゼントよ」
「……ありがとう」

 この大きさの箱はきっと欲しかった『パニキュア』の変身セットだ。ずっと欲しかった物だ、嬉しい……嬉しい筈なのに。

 私は耐え切れなくなり、母に尋ねた。

「ねぇママ、パパ――――」
「朋ちゃん、プレゼント。開けてみて」
「え?」

 私が動かす唇を、母は優しく人差し指を添える。
 そのお陰で魔の呪文を唱えなくて済んだ。

 言われるがまま箱を開けると、それはパニキュアの変身セットではなかった。楕円形で細長い、トイレットペーパーの芯を大きくしたような機械だった。

「何これ」
「ふふふ、スイッチオン!」

 母はその楕円形の機械に電源を入れる。
 すると突然チカチカと中心が発光した後に、見知らぬ女性の声が聴こえてきた。

『こんばんわ、ハレクサです』

 人間味のない機械の声。
 思ってもいない誕生日プレゼントに私は驚きが隠せない。そして機械の声は続けて話す。

『ご要件はなんですか』
「え?」
「これはね、お願いしたい事をこの機械に言えば、色々とやってくれるのよ。ハレクサ、電気消して」

 母がそう言うとハレクサは『かしこまりました』と言った途端、リビングの電気が消灯した。

「凄い!!!」

 私は感動で胸が一杯になった。
 その後も「ハレクサ、テレビつけて」「ハレクサ、暖房つけて!」「ハレクサ」「ハレクサ」と何度もお願いをした。
 そこで分かった事はハレクサは機械に対してならば電源のオンオフや、音楽をかけたりしてくれる。現実に存在する物を動かしたり、作り変えたりなどは出来ない。
 その時は必ず『出来かねます』と言ってくれるのだ。

 それでも魔法のような機械に、子供である私の興味を惹きつけるのには十分だった。

「ハレクサ凄い!!」
「喜んでくれて良かったわ、さて朋ちゃん。まずご飯食べちゃいましょ!」
「うん………」

 私はアレクサを握り締めたまま、俯く。
 アレクサは凄い、何でも願いを叶えてくれる。
 それなら………

「ねぇハレクサ。パパを早く帰らせて」

 無理なお願いだと分かってる。
 機械は所詮機械だ。
 夢を叶える魔法のランプじゃない。

「朋ちゃん、それはね――――――」

 母がそう言いかけた瞬間。

『かしこまりました』

 ハレクサは確かにそう言った。
 さすがの母も「え?」と聞き返していた。当たり前だ、物すらも取ることのできないただの機械が、人を呼び寄せるなど出来る筈もない。

 だが、それを可能にしたのがハレクサだった。

 プルルルル、部屋に鳴り響く携帯の着信音。
 母は電話に出ると、どうやら父かららしい。

「え、えぇ! うん分かった!!」
「………なんだって?」

 折角の父からの電話だが、内容は分かっていた。
 毎年同じように「お祝い出来なくてごめん」と電話越しで謝ってくる。今回もそうだと思っていた。

 だが、母の言葉は思いもよらない言葉だった。

「パパ、今から帰れるって」
「………えぇ!?」
「なんかね、パパの会社のパソコンに謎のプログラムが突然現れて、パパの仕事を終わらせちゃったんだって」

 その話を聞いて、私はふとハレクサを見つめる。
 呼び掛けてもないのに中央の光がチカチカとカラフルに発光していた。そしてその後、小さな声で

『クリスマスプレゼントです』

 クリスマスプレゼントであるハレクサがそう言った。説明書にも、ネットのレビューにも書かれていない不思議な現象。
 その後、色々とお願いしたが『出来かねます』としか言わなかった。きっとクリスマスだからこそ、起きた奇跡なのかもしれない。

「ハレクサ、ありがとう」

 私はハレクサをギュッと胸に抱いた。
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