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第一章 幼馴染
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そのハンカチで私の靴箱の中を隅々まで丁寧に拭いてくれた。私の靴箱を拭き終えるとハンカチを折りたたみ、綺麗な面で靴箱の扉を下の段まで手早く拭き上げ、すべての工程を終えた葵のハンカチは真っ黒になっていた。
一部始終見てた女子達は、はしゃいだ声を上げて葵を見ている。
「やば、葵君かっこよすぎ」
「槇村君のハンカチが触れたとこ! あそこ私の靴箱!」
ちょうど葵の男友達が集団で玄関にやって来た。このメンバーには葵同様女子に人気の男子が数名いる。女子達は彼らに気づくと、急に前髪をいじりだしたり、こそこそとスカートのウエストをひとつ折り上げたりしている。
男子達はそんな彼女たちの前を素通りして葵の近くまで来た。
「何してんの、葵?」
葵はいつもより僅かに声のボリュームを上げて返事をした。
「ああ、いとこ、の、靴箱がイタズラされてて、土とか蟻とか入れられてたんだよ」
「うっそ、マジで? ひでえな」
女子達が小声で「いとこ?」「うっそ、いとこなの?」「なぁんだ、いとこか」と話し合っているのが聞こえた。
葵は、自分を囲む男子達の肩越しから顔をのぞかせ、壱高さんら女子の集団に声を掛けた。
「ねえ、これやったの誰か知ってる?」
「え? ううん、知らない」
「雪平さん大丈夫だった?」
「びっくりしすぎて、私たちもパニックになっちゃったよぉ」
「雪平さんと葵君っていとこなんだね~」
彼女たちの手のひら返しに、私は呆然としてしまった。
葵の顔はあの仮面を被り、彼女達に極上の笑顔を振り撒く。
「自分の家族とかいとこに嫌がらせされると、自分にされたみたいでムカつかない?」
女子達は相づちをうちながら「うんうん、わかるぅ」と前のめりで葵と話している。その軽さと言ったら、風が拭いたらすべてなかったことになりそうだ。
「だから俺めちゃくちゃムカついてんだよね。売られた喧嘩にはちゃんと応えるから、きららに何かする奴見つけたら絶対教えて」
それから葵は、なぜか壱高さんを見てまっすぐに歩き出す。人だかりは、まるでモーセの海割りのように、男子も女子もサーッと葵が進む道を開けていった。
壱高さんの前で葵は立ち止まると、片手で拳を作り、その拳でまさかの壁ドンを決めた。
壱高さん含め女子の黄色い悲鳴と、大騒ぎしている心拍数がうるさいくらいに廊下に響いた。
葵は目を細めて壱高さんを見つめている。私には冷めきった視線にしか見えないが、注がれている当のご本人は確実に前向きにとらえている。だからこそのあのとろりとした表情と真っ赤な頬なのだ。
「いい? きららは俺のいとこだからね」
葵の声は穏やかだけど、やっぱり冷たい。
葵は壁と自分の身体で覆い囲った壱高さんを、そのままじーっと見つめ続ける。
葵を見上げる彼女の顔の赤みがどんどん増していき、しまいには過呼吸を起こすんじゃないかと思うほどにおかしな呼吸を始めていた。
「そぉ……なんだ」
あの腕の中には強力な磁場でもあるのだろう。彼女は今、葵の沼に引きずり込まれ、完全に落ちた。
壁ドンも受け取り方次第である。おそらく葵は威嚇したつもりだっただろうけど、壱高さんやその他女子達には胸キュンシチュエーションでしかなかった。
葵はゆっくりと手を壁から離すと、何事もなかったかのように私のもとに戻って来た。
「きらら、帰ろ」
「え? あ、うん」
葵が男子達に手を振ってから、私の腕を引っ張って玄関を出た。
もう彼女たちは私を睨みつけてはこなかった。
「ねえ、いつから私達いとこだったの?」
「今日」
「はあ?」
「いとこって言ったらいい。いとこ同士なら一緒にいても変な噂は出ないから。これで明日からは堂々と一緒にいられる」
「なるほど。いや、なるほどか?」
一部始終見てた女子達は、はしゃいだ声を上げて葵を見ている。
「やば、葵君かっこよすぎ」
「槇村君のハンカチが触れたとこ! あそこ私の靴箱!」
ちょうど葵の男友達が集団で玄関にやって来た。このメンバーには葵同様女子に人気の男子が数名いる。女子達は彼らに気づくと、急に前髪をいじりだしたり、こそこそとスカートのウエストをひとつ折り上げたりしている。
男子達はそんな彼女たちの前を素通りして葵の近くまで来た。
「何してんの、葵?」
葵はいつもより僅かに声のボリュームを上げて返事をした。
「ああ、いとこ、の、靴箱がイタズラされてて、土とか蟻とか入れられてたんだよ」
「うっそ、マジで? ひでえな」
女子達が小声で「いとこ?」「うっそ、いとこなの?」「なぁんだ、いとこか」と話し合っているのが聞こえた。
葵は、自分を囲む男子達の肩越しから顔をのぞかせ、壱高さんら女子の集団に声を掛けた。
「ねえ、これやったの誰か知ってる?」
「え? ううん、知らない」
「雪平さん大丈夫だった?」
「びっくりしすぎて、私たちもパニックになっちゃったよぉ」
「雪平さんと葵君っていとこなんだね~」
彼女たちの手のひら返しに、私は呆然としてしまった。
葵の顔はあの仮面を被り、彼女達に極上の笑顔を振り撒く。
「自分の家族とかいとこに嫌がらせされると、自分にされたみたいでムカつかない?」
女子達は相づちをうちながら「うんうん、わかるぅ」と前のめりで葵と話している。その軽さと言ったら、風が拭いたらすべてなかったことになりそうだ。
「だから俺めちゃくちゃムカついてんだよね。売られた喧嘩にはちゃんと応えるから、きららに何かする奴見つけたら絶対教えて」
それから葵は、なぜか壱高さんを見てまっすぐに歩き出す。人だかりは、まるでモーセの海割りのように、男子も女子もサーッと葵が進む道を開けていった。
壱高さんの前で葵は立ち止まると、片手で拳を作り、その拳でまさかの壁ドンを決めた。
壱高さん含め女子の黄色い悲鳴と、大騒ぎしている心拍数がうるさいくらいに廊下に響いた。
葵は目を細めて壱高さんを見つめている。私には冷めきった視線にしか見えないが、注がれている当のご本人は確実に前向きにとらえている。だからこそのあのとろりとした表情と真っ赤な頬なのだ。
「いい? きららは俺のいとこだからね」
葵の声は穏やかだけど、やっぱり冷たい。
葵は壁と自分の身体で覆い囲った壱高さんを、そのままじーっと見つめ続ける。
葵を見上げる彼女の顔の赤みがどんどん増していき、しまいには過呼吸を起こすんじゃないかと思うほどにおかしな呼吸を始めていた。
「そぉ……なんだ」
あの腕の中には強力な磁場でもあるのだろう。彼女は今、葵の沼に引きずり込まれ、完全に落ちた。
壁ドンも受け取り方次第である。おそらく葵は威嚇したつもりだっただろうけど、壱高さんやその他女子達には胸キュンシチュエーションでしかなかった。
葵はゆっくりと手を壁から離すと、何事もなかったかのように私のもとに戻って来た。
「きらら、帰ろ」
「え? あ、うん」
葵が男子達に手を振ってから、私の腕を引っ張って玄関を出た。
もう彼女たちは私を睨みつけてはこなかった。
「ねえ、いつから私達いとこだったの?」
「今日」
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「いとこって言ったらいい。いとこ同士なら一緒にいても変な噂は出ないから。これで明日からは堂々と一緒にいられる」
「なるほど。いや、なるほどか?」
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