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第二章 淡い文通、淡いあなた
24.
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主寝室の広い部屋にはベッドと机だけでなく、ソファやローテーブルやテレビまである。ほぼ、一人暮らしの部屋のようであった。
ソファに座れば、すぐに葵のおばあちゃんがお菓子とジュースを持ってきてくれた。
「じゃあ、ごゆっくり」
おばあちゃんはとても嬉しそうにそう言って部屋をあとにした。
「きらら、俺のせいで辛い思いさせてごめん」
「え? 葵のせいじゃないでしょ?」
「俺がきららのこと、いとこって嘘ついたから……」
「いとこじゃなくても、葵といるだけであの人達はやっかむんだよ。むしろ、葵がいとこって言ってくれたから、一学期は平穏に過ごせたよ。ありがとう」
「じゃあ……なんで避けるの?」
葵の質問に言葉が詰まってしまった。
「……避けてない」
「じゃあさ、また一緒に勉強できる?」
「それは……やめとこ」
「ほら、避けてる」
沈黙という息苦しい時間が始まってしまった。
臆病な私には、女子の目が気になって葵と堂々と一緒にいるなんて出来ない……。
葵は拗ねた顔で、少し意地悪く物を言う。
「なんか……いじめられてる子の気持ちがわかるかも」
「人気者の葵が?」
「一緒にいるといじめられるからって、自分から友達が離れて行く」
「あ……」
まさに、今私が葵にしていることだ。
葵は両手で顔を伏せ、今の発言を後悔している様子だった。
「ごめんな。きららの気持ちは、本当はわかる。俺だって大切な人が俺のせいでいじめられるなんて耐えられない……意地悪く言ってごめん。うん、以前のように距離を保つよ」
「……ごめん」
私は葵の気持ちが痛いほどわかるし、自分が友達に最低なことしているのがわかっている。
なのに、葵と一緒にいる選択ができなかった。最低だ。私は、最低だ。
そのまま葵の家をあとにすると、私は苦しくて、ただ無心になって歩きたくて、とぼとぼと二時間くらいかけて歩いて帰った。
家に着いた頃にはもちろん汗だくで、肌はべたべたし、気持ち悪く、なんだか頭痛と眩暈もしてきた。
「た……ただいま」
キッチンから出てきたお母さんが駆け寄ってきたけど、耳も遠くてぼやけた声しか聴こえない。
「カオガアカイワヨ」
お母さんの声を遠くに感じ、そして、そのまま意識を失った。熱中症にかかっていたようだ。
✳︎
目が覚めるまでの間、私はずっと夢を見ていた。
小学生の弦史が私に向かって言い放つ。
「味噌おにぎり!? まじかよ、どんなセンスだよ」
弦史の言葉に深く傷ついた私は、葵のために準備してた味噌おにぎりを、ラッピングしていた袋ごとゴミ箱に捨てた。
「え? 捨てることないだろ? 今日渡すものなくなるじゃん! きららは葵が好きなんだろ?」
ランドセルの肩ベルトを握っていた手にギュッと力が入る。そんなこと、何でみんなの前で言うのだろう。
私は顔を真っ赤にして大きな声で否定した。
「葵なんて好きじゃない!」
すると偶然教室に入ってきた葵に聞かれてしまった。
本当は……葵が初恋だった。
パニックになった私は弦史に向かって半泣き状態で「弦史なんて大嫌いっ!!」と叫んでしまう。
弦史は——そう、弦史は王子様タイプではなく、ちょっとデリカシーに欠ける、でも友達思いで活発な明るい男の子だった。
王子様はいつだって葵だった。
優しくて、頭が良くて、礼儀正しい。それは、葵だった。
幼稚園から小学生の頃の私の恋心は、常に葵に向かっていた。
ソファに座れば、すぐに葵のおばあちゃんがお菓子とジュースを持ってきてくれた。
「じゃあ、ごゆっくり」
おばあちゃんはとても嬉しそうにそう言って部屋をあとにした。
「きらら、俺のせいで辛い思いさせてごめん」
「え? 葵のせいじゃないでしょ?」
「俺がきららのこと、いとこって嘘ついたから……」
「いとこじゃなくても、葵といるだけであの人達はやっかむんだよ。むしろ、葵がいとこって言ってくれたから、一学期は平穏に過ごせたよ。ありがとう」
「じゃあ……なんで避けるの?」
葵の質問に言葉が詰まってしまった。
「……避けてない」
「じゃあさ、また一緒に勉強できる?」
「それは……やめとこ」
「ほら、避けてる」
沈黙という息苦しい時間が始まってしまった。
臆病な私には、女子の目が気になって葵と堂々と一緒にいるなんて出来ない……。
葵は拗ねた顔で、少し意地悪く物を言う。
「なんか……いじめられてる子の気持ちがわかるかも」
「人気者の葵が?」
「一緒にいるといじめられるからって、自分から友達が離れて行く」
「あ……」
まさに、今私が葵にしていることだ。
葵は両手で顔を伏せ、今の発言を後悔している様子だった。
「ごめんな。きららの気持ちは、本当はわかる。俺だって大切な人が俺のせいでいじめられるなんて耐えられない……意地悪く言ってごめん。うん、以前のように距離を保つよ」
「……ごめん」
私は葵の気持ちが痛いほどわかるし、自分が友達に最低なことしているのがわかっている。
なのに、葵と一緒にいる選択ができなかった。最低だ。私は、最低だ。
そのまま葵の家をあとにすると、私は苦しくて、ただ無心になって歩きたくて、とぼとぼと二時間くらいかけて歩いて帰った。
家に着いた頃にはもちろん汗だくで、肌はべたべたし、気持ち悪く、なんだか頭痛と眩暈もしてきた。
「た……ただいま」
キッチンから出てきたお母さんが駆け寄ってきたけど、耳も遠くてぼやけた声しか聴こえない。
「カオガアカイワヨ」
お母さんの声を遠くに感じ、そして、そのまま意識を失った。熱中症にかかっていたようだ。
✳︎
目が覚めるまでの間、私はずっと夢を見ていた。
小学生の弦史が私に向かって言い放つ。
「味噌おにぎり!? まじかよ、どんなセンスだよ」
弦史の言葉に深く傷ついた私は、葵のために準備してた味噌おにぎりを、ラッピングしていた袋ごとゴミ箱に捨てた。
「え? 捨てることないだろ? 今日渡すものなくなるじゃん! きららは葵が好きなんだろ?」
ランドセルの肩ベルトを握っていた手にギュッと力が入る。そんなこと、何でみんなの前で言うのだろう。
私は顔を真っ赤にして大きな声で否定した。
「葵なんて好きじゃない!」
すると偶然教室に入ってきた葵に聞かれてしまった。
本当は……葵が初恋だった。
パニックになった私は弦史に向かって半泣き状態で「弦史なんて大嫌いっ!!」と叫んでしまう。
弦史は——そう、弦史は王子様タイプではなく、ちょっとデリカシーに欠ける、でも友達思いで活発な明るい男の子だった。
王子様はいつだって葵だった。
優しくて、頭が良くて、礼儀正しい。それは、葵だった。
幼稚園から小学生の頃の私の恋心は、常に葵に向かっていた。
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