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14. 証人
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朝から王宮は大騒ぎだった。それもそのはず、王太子の身体が成長したのだ。
ルイーザ王女は慌ただしく侍女や王宮の使用人達に指示を出している。
「すぐに王都の私の所有するタウンハウスに行って、バラド国王陛下を迎えに行ってきて。今ならまだ滞在されているはずです。ああ、そこの貴方は枢密院の高官に至急王宮に来るように伝達をして」
朝食をとるため廊下を歩いていたルイス王子が、王宮内の騒がしさに気が付き、ひと際騒がしいルイーザの部屋が気になり中に入った。
「姉上、どうかなさいましたか?」
「ああ! ルイス! 王太子殿下の身体が成長したのよ!」
「はっ……何ですって?」
ルイス王子は大急ぎで王太子の部屋まで走って行った。
王太子の部屋の扉を叩き、逸る気持ちが抑えきれず、中から返事がきたのと同じタイミングで扉を開く。
「あ……兄上……」
ルイス王子の目に飛び込んで来たのは、嬉しさで目を潤ませているシルビアの姿と、その横に立つシルビアよりも僅かに背の高くなった、サイズの合わない寝間着姿の王太子の姿だった。
「ああ、ルイス! 見てくれ! まだ少年だが、成長した」
王太子は満面の笑顔でルイス王子に抱き着いて喜びを表現した。
「お……おめでとうございます。お声はまだ……変声されていないですね」
「そうか、成長期に声も変わるのだったな。このまま声も変わってくれたらいいが」
「ほ、本当に……」
ルイス王子は動揺した様子で、返事もたどたどしかった。
「ルイス? 喜んでくれないのか?」
王太子はルイス王子を見上げながら首を傾げていた。
「そんな事は……そうだ、兄上、いつまでも寝間着姿ではいけません。確か私の昔の服があったはずなので、使用人に探させて持ってこさせます」
「ああ、助かる。ありがとう、ルイス」
ルイス王子は急いで部屋を出て行った。
廊下を早歩きで突き進むルイス王子は、表情に出ている以上に動揺していた。
午後には来客を招く為のドローイングルームにて、ルイーザ王女、ルイス王子、枢密院のメンバー、隣国アウルム国の国王が集められており、皆ソファに腰を掛けていた。
静けさに包まれていたドローイングルームの扉が開くと、その場にいる全員が一斉に開いた扉の方向に注目した。
部屋に入って来た王太子を見て、ルイーザ王女とルイス王子以外の人々は驚きの声を上げる。
「お……王太子殿下が……」
「……成長されている」
「これは……世継問題にも影響……?」
「妃選びのやり直しが必要になるのでは?」
枢密院のメンバーの言葉が聞こえ、王太子は十五歳の姿とは思えない威圧感で彼らを睨みつける。同時にルイーザ王女も刺すような視線を送り、一同静まり返った。
「皆様、急なお呼び立てにも関わらず集まってくださりありがとうございました。御覧の通り、王太子殿下の成長が始まりました。まずはご尽力くださったアウルム国バラド国王陛下に心からお礼申し上げます」
ルイーザ王女はバラド国王に視線を向け、丁寧に頭を下げた。
だがバラド国王は口元に手を当てて、戸惑いを見せながら王太子を凝視していた。
「バラド国王陛下、私からも礼を」
王太子がバラド国王に頭をさげようとすると、バラド国王は首を横に振った。
「いや、これは私ではない。僅かなきっかけは与えたかもしれないが、こんなに早く成長するはずが……」
バラド国王は立ち上がり、王太子の元に行く。
「……王太子、体に触れても良いか?」
王太子は頷く。
バラド国王はアロイスの胸に手をあてた瞬間、目を見開いた。
「これは……昨日誰かと過ごされましたか?」
「あ、ああ、高熱の私を婚約者が看病してくれた」
「婚約者? その者はこの国の人間か?」
「もちろんだ。アウルム国へ派遣しようと思っていたウェリントン家出身の女性だ」
「王太子、ぜひあなたの婚約者に会わせていただけないだろうか?」
「ああ、もちろん。ではこの後ご紹介いたしましょう」
王太子とバラド国王の会話をよそに、枢密院のメンバーはひそひそと王室メンバーには聞こえないように話を続けていた。
「今年の社交シーズンもあとひと月程で……」
「そろそろ皆がタウンハウスに戻ってくる頃だ」
「年頃の令嬢がいる家が慌てふためく様子が目に浮かぶ」
「今年は荒れるな」
そしてもう一人、誰にも目を向けず、一人思いつめている者がいる。ルイス王子だ。
(兄上が成長した……私の罪はこれでなくなるのに、何だこの胸騒ぎは……)
バラド国王は王太子と何やら話をまとめたようで、立ち上がって部屋に居る全員に目を向けて話し出した。
「王太子だが、もしかしたらこれから急速に成長するかもしれない。更に背は高くなり、顔つきは幼さを失い、身体はより筋肉質で厚みが出て、声も変わるだろう。現状よりも本人かの見極めが難しくなる。だからその時に彼がまぎれもなくアロイス王太子である事がわかる印を、今ここで浮かばせる」
そう宣言すると、バラド国王は王太子に上半身の前をはだけるように言う。王太子は立ち上がり、上着やシャツのボタンを外していき、まだ細い胸板をさらけ出した。
バラド国王は王太子の胸に手をあてて呪文を唱え始めると、青白い光を放つ古代文字のような模様が浮かび上がる。
その場にいる者達は皆その不思議な光景に息を呑んで驚いていた。
バラド国王が王太子の胸から手を離すと、光は止んでタトゥーのような状態になった。
「個々の魂には名前が刻まれている。本来は私の様にマナを移動させたり、可視できる強いマナの持ち主にしかこの名を見る事は出来ないが、それを今王太子の身体に浮かび上がらせて、誰でも見れる状態にした。この文字は唯一無二、王太子の魂にしか刻まれていない」
王太子は不思議そうに自分の胸元を見ている。
「これが、私の魂の名前……」
バラド国王は頷く。
「そうだ。生まれ変わっても、魂の名は変わらない。今はタトゥーのような状態になったが、強いマナの保持者に触れられればまた青白く発光する。王太子が突然成長してもこれで本人だと証明が出来るだろう」
その場にいた者全員が、王太子の証人となった。
最後にルイーザ王女が全員に緘口令を敷く。
「王太子殿下の成長の件、まだ他の貴族には内密に」
ルイーザ王女は慌ただしく侍女や王宮の使用人達に指示を出している。
「すぐに王都の私の所有するタウンハウスに行って、バラド国王陛下を迎えに行ってきて。今ならまだ滞在されているはずです。ああ、そこの貴方は枢密院の高官に至急王宮に来るように伝達をして」
朝食をとるため廊下を歩いていたルイス王子が、王宮内の騒がしさに気が付き、ひと際騒がしいルイーザの部屋が気になり中に入った。
「姉上、どうかなさいましたか?」
「ああ! ルイス! 王太子殿下の身体が成長したのよ!」
「はっ……何ですって?」
ルイス王子は大急ぎで王太子の部屋まで走って行った。
王太子の部屋の扉を叩き、逸る気持ちが抑えきれず、中から返事がきたのと同じタイミングで扉を開く。
「あ……兄上……」
ルイス王子の目に飛び込んで来たのは、嬉しさで目を潤ませているシルビアの姿と、その横に立つシルビアよりも僅かに背の高くなった、サイズの合わない寝間着姿の王太子の姿だった。
「ああ、ルイス! 見てくれ! まだ少年だが、成長した」
王太子は満面の笑顔でルイス王子に抱き着いて喜びを表現した。
「お……おめでとうございます。お声はまだ……変声されていないですね」
「そうか、成長期に声も変わるのだったな。このまま声も変わってくれたらいいが」
「ほ、本当に……」
ルイス王子は動揺した様子で、返事もたどたどしかった。
「ルイス? 喜んでくれないのか?」
王太子はルイス王子を見上げながら首を傾げていた。
「そんな事は……そうだ、兄上、いつまでも寝間着姿ではいけません。確か私の昔の服があったはずなので、使用人に探させて持ってこさせます」
「ああ、助かる。ありがとう、ルイス」
ルイス王子は急いで部屋を出て行った。
廊下を早歩きで突き進むルイス王子は、表情に出ている以上に動揺していた。
午後には来客を招く為のドローイングルームにて、ルイーザ王女、ルイス王子、枢密院のメンバー、隣国アウルム国の国王が集められており、皆ソファに腰を掛けていた。
静けさに包まれていたドローイングルームの扉が開くと、その場にいる全員が一斉に開いた扉の方向に注目した。
部屋に入って来た王太子を見て、ルイーザ王女とルイス王子以外の人々は驚きの声を上げる。
「お……王太子殿下が……」
「……成長されている」
「これは……世継問題にも影響……?」
「妃選びのやり直しが必要になるのでは?」
枢密院のメンバーの言葉が聞こえ、王太子は十五歳の姿とは思えない威圧感で彼らを睨みつける。同時にルイーザ王女も刺すような視線を送り、一同静まり返った。
「皆様、急なお呼び立てにも関わらず集まってくださりありがとうございました。御覧の通り、王太子殿下の成長が始まりました。まずはご尽力くださったアウルム国バラド国王陛下に心からお礼申し上げます」
ルイーザ王女はバラド国王に視線を向け、丁寧に頭を下げた。
だがバラド国王は口元に手を当てて、戸惑いを見せながら王太子を凝視していた。
「バラド国王陛下、私からも礼を」
王太子がバラド国王に頭をさげようとすると、バラド国王は首を横に振った。
「いや、これは私ではない。僅かなきっかけは与えたかもしれないが、こんなに早く成長するはずが……」
バラド国王は立ち上がり、王太子の元に行く。
「……王太子、体に触れても良いか?」
王太子は頷く。
バラド国王はアロイスの胸に手をあてた瞬間、目を見開いた。
「これは……昨日誰かと過ごされましたか?」
「あ、ああ、高熱の私を婚約者が看病してくれた」
「婚約者? その者はこの国の人間か?」
「もちろんだ。アウルム国へ派遣しようと思っていたウェリントン家出身の女性だ」
「王太子、ぜひあなたの婚約者に会わせていただけないだろうか?」
「ああ、もちろん。ではこの後ご紹介いたしましょう」
王太子とバラド国王の会話をよそに、枢密院のメンバーはひそひそと王室メンバーには聞こえないように話を続けていた。
「今年の社交シーズンもあとひと月程で……」
「そろそろ皆がタウンハウスに戻ってくる頃だ」
「年頃の令嬢がいる家が慌てふためく様子が目に浮かぶ」
「今年は荒れるな」
そしてもう一人、誰にも目を向けず、一人思いつめている者がいる。ルイス王子だ。
(兄上が成長した……私の罪はこれでなくなるのに、何だこの胸騒ぎは……)
バラド国王は王太子と何やら話をまとめたようで、立ち上がって部屋に居る全員に目を向けて話し出した。
「王太子だが、もしかしたらこれから急速に成長するかもしれない。更に背は高くなり、顔つきは幼さを失い、身体はより筋肉質で厚みが出て、声も変わるだろう。現状よりも本人かの見極めが難しくなる。だからその時に彼がまぎれもなくアロイス王太子である事がわかる印を、今ここで浮かばせる」
そう宣言すると、バラド国王は王太子に上半身の前をはだけるように言う。王太子は立ち上がり、上着やシャツのボタンを外していき、まだ細い胸板をさらけ出した。
バラド国王は王太子の胸に手をあてて呪文を唱え始めると、青白い光を放つ古代文字のような模様が浮かび上がる。
その場にいる者達は皆その不思議な光景に息を呑んで驚いていた。
バラド国王が王太子の胸から手を離すと、光は止んでタトゥーのような状態になった。
「個々の魂には名前が刻まれている。本来は私の様にマナを移動させたり、可視できる強いマナの持ち主にしかこの名を見る事は出来ないが、それを今王太子の身体に浮かび上がらせて、誰でも見れる状態にした。この文字は唯一無二、王太子の魂にしか刻まれていない」
王太子は不思議そうに自分の胸元を見ている。
「これが、私の魂の名前……」
バラド国王は頷く。
「そうだ。生まれ変わっても、魂の名は変わらない。今はタトゥーのような状態になったが、強いマナの保持者に触れられればまた青白く発光する。王太子が突然成長してもこれで本人だと証明が出来るだろう」
その場にいた者全員が、王太子の証人となった。
最後にルイーザ王女が全員に緘口令を敷く。
「王太子殿下の成長の件、まだ他の貴族には内密に」
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