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22.プルムの親
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週末にラミと一緒にラムセーレ養護施設に行くことになった。術を掛けた者が誰かわかる可能性が一番高い場所だからである。
ラミが私の家まで迎えに来てくれて、そのまま転移魔法でラムセーレまで連れて行ってくれた。
「のどかすぎて驚いた?」
「いいや、自然豊かで素敵だと思うよ」
「ラミは、ラムセーレは初めて?」
「一度だけ来たことがあるけど、随分前のことだから忘れちゃってるかな」
「そう。じゃあ、養護施設で話を聞いた後は、ラムセーレを私が案内してあげるね」
「はは、それは楽しみだ」
養護施設の玄関でチャイムを鳴らすと、懐かしいユグレが現れた。
「まあ、プルム! よく帰って来たわね」
ユグレは私を子供の時と同じように抱きしめてくれた。
「それで、こちらはラミさんね。今日いらっしゃることを事前に便りを送ってくださり、ありがとうございました」
「ラミ、ユグレに便りを送っていたの?」
「ああ、突然訪問するわけにも行かないかと思って、ここの施設長あてに一応手紙を送っていたんだ。初めまして、ユグレさん」
「ええ、初めまして」
ユグレに案内された部屋で、私達はソファに座って本題に入る。
「まず、プルムに掛けられている術に関しては正直何もわかりません。力になれず本当に申し訳なく思います」
ユグレは眉を下げて悲痛な表情で私を見る。
「ユグレが謝ることではないわ」
ラミは想定内の答えだったとばかりの表情で、ユグレに次の質問を切り出した。
「ユグレさん、プルムさんが周期性発熱症候群を発症したのはいつですか?」
ラミは何かを知っているのだろうか? 質問というよりも、ラミは答えありきでユグレがそれを答えるように仕向けている感じだ。
「ここに預けられた時にはすでに」
ユグレも淡々と答えた。
「じゃあ、プルムさんに掛けられた術はここに預けられる前に施されてます。プルムさんのご両親に会わせていただけませんか?」
ラミのお願いに、ユグレは俯いて首を横に振る。
「……出来ません。何も、言えません」
ユグレのこの答えに、私は衝撃を受けた。私はてっきり「親を知らない」と言うとばかり思っていた。
「ねえ、ユグレは、私の親を知っているの……?」
ユグレは私と目を合わせてくれない。
私は向かい合って座るユグレに身を乗り出して懇願した。
「知ってるのね? お願い、どんな親であろうと問題ない。私を捨てた理由が何であっても恨まない。だって、私はユグレと施設の兄弟姉妹たちのおかげで、笑顔いっぱいに育てて貰えて幸せだったから。だから、知ってるなら教えて。この病気から解放されたいの」
ユグレは深い溜息をつき、やはり首を横に振る。
「……出来ないのよ。完全匿名を守ってあげないと、勇気を出してここに子供を預けに来てくれる親がいなくなる危険があるから……」
そうか、教えて貰えないのは捨てられた私への配慮ではなく、親への配慮なのか……。
「プルム、ここに子供を預けに来る親は、本当は自分の力で我が子を育てたかったはずなの。だけど、不幸な人はそれすらも出来ない環境や精神状態に追い込まれてしまう。最悪なのは矛先を子供に向けてしまうこと。そうなる前に、最後の親心でここに助けを求めに来て、あなた達を託して行くの」
「うん……」
頭ではユグレが言いたいことは分かってはいるが、心がまだ追いついて行かない。
急に頭の中には、幼少期の学校で見た、親から愛情いっぱい注がれ大切にされる級友達の姿が浮かび出す。自分はこの施設で育って幸せだった。ユグレは私達を分け隔てなく愛し、大切にしてくれている。それは間違いない事実なのだけど、えもいわれぬ寂しさに襲われ、自分も親という存在から庇護されたい欲が内から溢れ出てきてしまう。私の親は、私を庇護してはくれず、こちらが会いたいと願っても簡単には会えない……。それが、私を守る方法だったとしても、それが親の残してくれた私への愛なのかもしれないけど、今は何を言われても沼に沈んでいく気分だった。
そんな私の感情をラミは気づいてくれ、優しく手を握ってくれた。
「ユグレさん、確かにここが匿名を破る施設とされたら、誰も助けを求めに来ないでしょうし、施設とはそういうものだと話が流れれば、他の同様の施設にも影響が出る可能性はあります。そうなると、行き場を失い、理性も失って矛先を子供に向ける親が出て来てしまう懸念は十分あり得る。ただ、ユグレさんが、プルムさんの親と連絡を取り、プルムさんの現状をお伝えする事も不可能なのでしょうか?」
「プルムの現状を伝える?」
「はい。ユグレさんがプルムさんの親に、術が施されている件と、周期性発熱症候群の話をしてもらえませんか? そのあとは、先方のご判断に委ねます」
「……私も、プルムの命が大事ですから、彼女の持病を治したいとも思っています……話を伝えるだけなら可能かもしれません。でも、それも規約には触れるので、少し上の者とも相談させてください。ただ、こういう場所に子供を託す人々はその時にすでに極限状態が多く、最初に渡された連絡先が嘘だったり、行方不明になってたりするものです。あまり、期待はせずに待っていてください」
ラミが私の家まで迎えに来てくれて、そのまま転移魔法でラムセーレまで連れて行ってくれた。
「のどかすぎて驚いた?」
「いいや、自然豊かで素敵だと思うよ」
「ラミは、ラムセーレは初めて?」
「一度だけ来たことがあるけど、随分前のことだから忘れちゃってるかな」
「そう。じゃあ、養護施設で話を聞いた後は、ラムセーレを私が案内してあげるね」
「はは、それは楽しみだ」
養護施設の玄関でチャイムを鳴らすと、懐かしいユグレが現れた。
「まあ、プルム! よく帰って来たわね」
ユグレは私を子供の時と同じように抱きしめてくれた。
「それで、こちらはラミさんね。今日いらっしゃることを事前に便りを送ってくださり、ありがとうございました」
「ラミ、ユグレに便りを送っていたの?」
「ああ、突然訪問するわけにも行かないかと思って、ここの施設長あてに一応手紙を送っていたんだ。初めまして、ユグレさん」
「ええ、初めまして」
ユグレに案内された部屋で、私達はソファに座って本題に入る。
「まず、プルムに掛けられている術に関しては正直何もわかりません。力になれず本当に申し訳なく思います」
ユグレは眉を下げて悲痛な表情で私を見る。
「ユグレが謝ることではないわ」
ラミは想定内の答えだったとばかりの表情で、ユグレに次の質問を切り出した。
「ユグレさん、プルムさんが周期性発熱症候群を発症したのはいつですか?」
ラミは何かを知っているのだろうか? 質問というよりも、ラミは答えありきでユグレがそれを答えるように仕向けている感じだ。
「ここに預けられた時にはすでに」
ユグレも淡々と答えた。
「じゃあ、プルムさんに掛けられた術はここに預けられる前に施されてます。プルムさんのご両親に会わせていただけませんか?」
ラミのお願いに、ユグレは俯いて首を横に振る。
「……出来ません。何も、言えません」
ユグレのこの答えに、私は衝撃を受けた。私はてっきり「親を知らない」と言うとばかり思っていた。
「ねえ、ユグレは、私の親を知っているの……?」
ユグレは私と目を合わせてくれない。
私は向かい合って座るユグレに身を乗り出して懇願した。
「知ってるのね? お願い、どんな親であろうと問題ない。私を捨てた理由が何であっても恨まない。だって、私はユグレと施設の兄弟姉妹たちのおかげで、笑顔いっぱいに育てて貰えて幸せだったから。だから、知ってるなら教えて。この病気から解放されたいの」
ユグレは深い溜息をつき、やはり首を横に振る。
「……出来ないのよ。完全匿名を守ってあげないと、勇気を出してここに子供を預けに来てくれる親がいなくなる危険があるから……」
そうか、教えて貰えないのは捨てられた私への配慮ではなく、親への配慮なのか……。
「プルム、ここに子供を預けに来る親は、本当は自分の力で我が子を育てたかったはずなの。だけど、不幸な人はそれすらも出来ない環境や精神状態に追い込まれてしまう。最悪なのは矛先を子供に向けてしまうこと。そうなる前に、最後の親心でここに助けを求めに来て、あなた達を託して行くの」
「うん……」
頭ではユグレが言いたいことは分かってはいるが、心がまだ追いついて行かない。
急に頭の中には、幼少期の学校で見た、親から愛情いっぱい注がれ大切にされる級友達の姿が浮かび出す。自分はこの施設で育って幸せだった。ユグレは私達を分け隔てなく愛し、大切にしてくれている。それは間違いない事実なのだけど、えもいわれぬ寂しさに襲われ、自分も親という存在から庇護されたい欲が内から溢れ出てきてしまう。私の親は、私を庇護してはくれず、こちらが会いたいと願っても簡単には会えない……。それが、私を守る方法だったとしても、それが親の残してくれた私への愛なのかもしれないけど、今は何を言われても沼に沈んでいく気分だった。
そんな私の感情をラミは気づいてくれ、優しく手を握ってくれた。
「ユグレさん、確かにここが匿名を破る施設とされたら、誰も助けを求めに来ないでしょうし、施設とはそういうものだと話が流れれば、他の同様の施設にも影響が出る可能性はあります。そうなると、行き場を失い、理性も失って矛先を子供に向ける親が出て来てしまう懸念は十分あり得る。ただ、ユグレさんが、プルムさんの親と連絡を取り、プルムさんの現状をお伝えする事も不可能なのでしょうか?」
「プルムの現状を伝える?」
「はい。ユグレさんがプルムさんの親に、術が施されている件と、周期性発熱症候群の話をしてもらえませんか? そのあとは、先方のご判断に委ねます」
「……私も、プルムの命が大事ですから、彼女の持病を治したいとも思っています……話を伝えるだけなら可能かもしれません。でも、それも規約には触れるので、少し上の者とも相談させてください。ただ、こういう場所に子供を託す人々はその時にすでに極限状態が多く、最初に渡された連絡先が嘘だったり、行方不明になってたりするものです。あまり、期待はせずに待っていてください」
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