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しおりを挟む初めて真剣に告白したのは14歳の時。 学校で受けた、近く行なわれる性別検査の説明会での帰り道だった。
それまでにもずっと事あるごとに、冗談めかして「好き」とは言ってはいたが、自分が思うよりもずっと、性別での社会的地位の差があるという現実を知って焦ったのだ。
αは子どものうちから、有能さにおいて他の子と異なると言われている。
親の性別も大きく関係はしていたが、二海人は小さな頃から頭脳、体格は勿論、身体能力も高く、全てにおいてαの兆候を示していた。
それに比べて真祝は、相変わらず女の子のような顔、体つきは華奢で、自分と良く似ている母の性別のことも考えたら、間違いなくΩな気がしていた。その予感は残念なことに当たってしまうのだけれど。
今は二海人と同じ学校へ行きたくて、付いて行けるように頑張って勉強をしているが、もし本当に二海人がαであれば、努力ではどうにも出来ない壁が生じてしまう。
大抵の進学校では、普通科の他に、α専用のコースが設けられており、α性はそちらに通うことになっているからだ。
あれは、まだ暑さが残る残暑の夕方だった。
カナカナカナと、蜩が鳴いていた。
「二海人 」
顔を見ることが出来なくて、二海人の白いシャツの半袖からスラリと延びた、筋の浮かんだ腕を見つめながら名前を呼ぶ。
「ん、何? 」
「もし僕がΩだったら……。 二海人、僕と番になってくれる? 」
運命の番というものが、本当にあるのかなんて知らない。
でも、例え自分がΩだとしても、誰よりも大好きな二海人と番になれるのであれば、それは意味のあることだと思った。
「まだ検査も受けてないのに、気が早いな 」
「早くないよ。 もうすぐの事だもん 」
足を止めた真祝に合わせて、並んで歩いていた二海人が半歩先で立ち止まる。
「僕は、ずっと二海人と一緒にいたい……っ 」
返事が怖くて、ぎゅっと目を瞑った。すると、ポンポンと、頭の上に大きな手を乗せられる。
「だから、まだ決まった訳じゃないだろ? 」
「結果なんか決まってるだろっ! 二海人はαで、僕はΩで……?!」
はぐらかされた気がして、真祝が大きな声をあげると、立てた人差し指を口唇に当てられた。
「分かってる、ちゃんと考えてるよ 」
間近な声に顔を上げると、目の前に二海人の顔があって自分の心臓の跳ねる音が聞こえた。
瞳の光があまくて、ドキドキする。 ずっと見詰めていることが出来なくて真祝が視線を逸らすと、二海人が微かに笑った気がした。
「考えてるからこそ、今は返事しない。 何事にも《絶対》なんてことは無いから 」
優しい声は凛としていて、二海人の何かしらの決意を感じた。 きっと、頭の良い二海人は、自分なんかの想像が及ばないことまで考えている。
真祝の方はというと、単純で明快だ。 ただ、二海人からの「これからもずっと一緒にいる」という言葉と、恋人としての「好き」という気持ちが欲しいだけ。
けれど二海人がそう言うなら、どんなに駄々を捏ねたとしても今日は返事は貰えないだろう。
小さな時からそうだ。 二海人は大抵のことでは自分が引いてくれるけれども、こうと決めたことには頑固で、真祝がどんなに怒っても宥めても譲らない。
二海人の言っていることも分かるが、こっちも、もしかしたら今までの様に側に居られなくなることも覚悟して、一大決心で告白したのに答えを先延ばしにされ、不完全燃焼で胸の奥で何かがぶすぶすと燻る。
「でもさ、二海人。 たぶん、僕の言うことは合ってると思うよ? 」
嘴みたいに尖らせた口に、二海人がぷっと吹いた。
目許に寄せたしわさえ格好良くて、ずるいなと思う。 こうやって、真祝に何も言えなくさせてしまうから。
「俺は、『たぶん』とか『もしも』とか、仮定の話は嫌いなんだよ。」
そう言うと二海人は、眼差しを真っ直ぐなものへと変えた。
「まほのことは、誰よりも大切だ。とても大事に思ってる。 それだけは確かだから。 」
その時の、熱を帯びた瞳を真祝は忘れられない。
諦められないのは、告白めいたこの言葉が忘れられないからだ。
例えそれが、友達へ向けられた言葉だったとしても。
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