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しおりを挟む思い出したのは、2週間前に電車の中で助けた女の子のこと。 あの時も、何か知らない力が働いて、強制的に発情期の状態へと引っ張られた。
定期的な発情期以外にあんなふうになるのは初めてのことで、連絡先を知りたいと言う女の子の家から逃げるように飛び出した。
勿論、連絡先など教えていないし、2度と会うつもりもない。
それなのに、何故、またこんな状況になるのだろう。 あの家と女の子には、特に関係は無く、自分の体の問題だったのだろうか?
固まる真祝の前で、エレベーターが着いた音がする。
……っ?!
上行きのエレベーターのことばかりを考えて、降りてくるエレベーターのことを完全に失念していた。
しまっ……た!
顔を上げるとまさに今、エレベーターが開くところだった。
下に行くボタンは押してはいない。 この中からは必ず誰かが降りてくる筈で、もしそれがαだったら。
思い付いたらゾッとして、ドアが開き切る前に、真祝はその場から走り出した。
瞬間、ドアの隙間から見えたのは、スーツ姿の背の高い男と、そしてあの、身体の芯まで痺れさせるような……。
どこか……っ、どこか隠れる所っ!
足を縺れさせながら、廊下の端にある階段へ向かって走る。
「……真祝さんっ! 」
すると、知らない男の自分の名前を呼ぶ声が背後から追ってきた。 その声を聞いた途端、全身の肌が粟立つ。
「待ってください! 」
冗談じゃない! 待ってたまるか!
後ろから、追いかけてくる気配に真祝は叫んだ。
「何だよ……っ! 来るなっ!! 」
「真祝さんっ! 貴方が、真祝さんなんでしょう? 」
「知るかッ! ちげぇよっ! 」
どうして、俺の名前を知ってんだよ!?
「嘘だっ! 貴方は真祝さんだ! 貴方が僕の…… 」
「言うな!! そんな、馬鹿なことがあってたまるかっ! 」
あんなの、作り話だ! 都市伝説だ! 知り合いの知り合いの、そのまた知り合いの、みたいな奴等の話だ!
まだ顔も名前も何も知らない相手に、欲情するなんて、そんな話あってたまるか!
階段の、鉄製の扉に手を掛ける。 防火扉だからなのか、走って息切れしたからか、異様に重い。
やっと開けて、階段を降りようとした時だった。
「やっと、見付けた 」
少し掠れた声とともに、肩を捕まれてギョッとする。
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