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しおりを挟む分かってもらえない悲しい気持ちは、誰よりもよく分かるから。
重ねてこようとする口唇を、寸前で止める。
手の平に当たる、央翔の口唇の感触にゾクリとしたが、平然を装う。
合わさる視線。
煌めいた宝石のような瞳は、至近距離で見ると揺らめく焔を宿していることに気付いた。
それが自分に対するものだと思うと、身体が震える。自分を捕らえようとする男への恐れと甘い不安感。
駄目だと言いながら、求められる悦びを感じていないといったら嘘になる。
「……分かるなんて、簡単に言わないでよ 」
手の平にかかる吐息に思わず手を引こうとしたら、動かせないように手首を捕まれた。
「か、簡単になんて、言ってない 」
「…… 」
「俺だって、好きな奴がいるから、分か、る…… 」
央翔の見つめる視線が痛くて、顔を反らす。
すると、「……やっぱり何にも分かってない」と呟いた央翔がペロリと手の平を舐めた。
「えっ! ばっ、おまっ?! 」
慌てて手を奪い返すと、央翔が髪をかき上げながらクスクスと笑う。
「く……? 」
意味が分からなくて名前を呼ぼうとすれば、央翔がいつもの爽やかな笑顔でにっこりと笑った。
「真祝さん、ご飯食べに行きましょう 」
「え…… 」
突然の変わりように、真祝の頭は働かず、付いていけない。
けれども、央翔は「んーっ 」と言って、ぐうっと体を伸ばした後、何事も無かったみたいに時計を見た。
「わっ!! 大変ですよ、真祝さんっ! お昼休み、もうあんまりありません! 」
それを聞いた真祝も慌てて時計を見る。
「げっ! あと15分も無ぇじゃん! どうすんだよ、食わなきゃ持たねぇよ!! 」
言いながら、ガラリと変わった空気にホッとした。気持ちに応えてやることは出来ないから、あの状況は息苦しい。
「折角、真祝さんと美味しいものを食べに行こうと思ってたのに…… 」
「お前が色ボケしてたんだから、仕方ないだろ? 下のコンビニで何か買って、急いで食べるぞ 」
「いっ、色ボケなんて酷いです。 僕はお昼のデートだって…… 」
「何、馬鹿なこと言ってんだよ。ほら、時間無くなるからとっとと行くぞ 」
先に歩き出すが、央翔が付いてこない。
仕方なく戻って、しゅんと俯く央翔の背伸びして頭を撫でてやる。
「お前が俺に変なことせずに、普通に飯食べに行くって言うなら今度ちゃんと付き合ってやるよ 」
「夜でもいいですか? 」
すかさず聞いてくる央翔に笑ってしまう。少し考えてから、「ああ、いいよ 」と、真祝は頷いてしまった。
口説いてくるのは困るけれど、この年下の男は、弟のようでどうにも憎めないのだ。
「本当ですか?! 」
ぱぁっと明るくなった子供の様な表情に、ほらなと思う。
「そんなことに嘘なんかついてどうする…… 」
「じゃあ、今夜ですね! 」
「はぁ?!」
言い掛けた言葉を遮り、勝手に予定を決める央翔に、素っ頓狂な声が出た。
「良い店、予約しておきますからね! 」
「お、おい、今夜なんて急過ぎだろ? 俺はともかく、お前の予定だって…… 」
「どこにしよう、真祝さんは何が好きですか? 和食? イタリアン? 中華? 」
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