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しおりを挟むずっ……と、体を引き摺って二海人に近付く。潤んだ瞳で上目遣いに見詰めると、二海人がゴクリと息を飲んだのが分かった。
「お前、何言ってるのか分かってるのか? さっき襲われたばかりなんだぞ? 」
「分かってる。だから僕は、他の奴のものにされてしまう前に、先に二海人のものになりたい 」
二海人しか好きじゃない、二海人しかいらない。 二海人のものになるのは、小さな頃からの夢だったのだ。
他の奴のものになんか、死んでもなりたくない。
「二海人だって、僕のこと、欲しいって思ってくれてるでしょう? 」
泣きそうな声で訴えれば、少しの沈黙の後、「ああっ!もうっ!! 」と二海人が自分の頭をぐしゃぐしゃと掻いた。
「いいから、さっさと薬を飲め! 」
鞄を拾うと、中を明けてごそごそと薬を探す。
「嫌だよ、二海人が僕のこと抱いてくれればいいんじゃん 」
「どれだよ、……あぁ、これか? 」
フェロモンにあてられてるのは明らかなのに、真祝の言葉を無視して、二海人は取り出した袋から、ピルケースの中に入っているPTPシートに包まれた抑制剤を取り出した。
「2錠、だな? 」
説明を流し読みして、プラスチック部分を押しアルミを破る。
「ほら、口開けろ 」
飲みかけのペットボトルの水の蓋を回しながら言われて、真祝は首を振った。
「ねぇっ、聞いてるのっ? 僕のこと、二海人のものにしてってば! 」
「……バカなこと言うなよ 」
「バカなことじゃない 」
「いいから、薬飲んだら、すぐに服着ろ。俺だって、堪えてんの、少しは分かれ 」
「堪えてくれなくたっていいよ! 流されてくれればいいじゃ…… 」
すると、話の途中で二海人が大きなため息を吐いた。
「真祝 」
低い声で名前を呼ばれて、ビクッとする。身体が熱いのだ。どうして、二海人は分かってくれないのだろう。
真祝は、口唇をきゅっと噛み締めた。
「まほ 」
すると、今度はいつもの呼び方で真祝のことを優しく呼ぶ。
「薬を飲んだら、少し落ち着くから。 そしたら、その後、家に送って行くよ。 ……それにまほは、こんな、いつ誰が来るか分からない所でなんていいの? 」
そう言うと、倒れている教師に視線を流した。二海人らしくない、艶めいた台詞にドキンと胸が跳ねる。
しかし、もしかしてと期待させた途端、二海人は意味あり気なことを言ったのだ。
「それに、俺がまほのこと抱いたって根本的な解決にならないのは分かるだろ? 俺は一生、まほのことを自分のものになんか出来ないんだよ 」
「それ、どういう……意味? 」
「分からない振りをするなら、それでもいい。どうしたって変わらない事実は、お前の代わりに俺が忘れないでいてやるから 」
そう言うと、腕を伸ばして真祝の頬に優しく触れた。
そのまま身体を寄せた二海人は、ペットボトルを持つ腕で真祝の後頭部を支えると、くいっと反対の手で頤を持ち上げる。
大事なことを言われているのに、ヒートのせいで、思考が泥濘に浸かったみたいに定まらない。
ただ、欲情を堪えた、揺れる瞳に見詰められて、吸い込まれそうだと思う。
「二海…… 」
うっとりと少し開いた口に、その時、コロリと何かを入れられた。
「……?! 」
後ろに重心を下げられた頭を引き上げると、口元にペットボトルをあてがわれる。
注がれた温い水が、固形物と一緒に流れ、こくんと喉元が上下する。
「ごめんな、まほ 」
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