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しおりを挟む二海人が席に戻って来るなり、央翔ははっきりと言い放った。
「さっきの鍵、貰います 」
チャリ、と手の平の鍵を音を立てて握り直す。
席を離れる前と戻って来た後の央翔の態度の変わり様に驚いたのか、二海人が瞳を見開きまじまじと見てくる。
「僕は勘違いしていたようです。あなたが真祝さんに持っているのは、親子の様な、兄弟の様な親愛の情なのですね 」
それを信じろと言うなら、信じる振りをしてやる。くれるというのなら、貰うまでだ。奪う手間が省けて助かると思えばいい。
「安心して下さい、僕が幸せにしますよ。……あなた以上に 」
何といっても、自分達は《運命》だ。抗うことなんて出来る訳がない。真祝さんだって、分かってくれる。
その時、アンタが後悔したって遅いんだよ。
湧き上がる何かを抑えて央翔が微笑むと、何故か二海人も笑いを溢した。
「お前、流石俺が見込んだだけあるよ 」
腕を伸ばして、テーブル越しにぽんと肩を叩かれる。
露骨に眉間に皺を寄せれば、「そんな顔すんなって 」と更に笑って、もっと強く叩かれた。
「もう、お前のものだ。任せたからな 」
「だから、真祝さんは物ではないので、そんな言い方は…… 」
きっと、コイツには分からない。
けれど、聞かないと分かっていても、何度でも言わずにはいられない。
Ωには、αに所有物扱いされてきたという不遇の歴史がある。現在はその地位が向上したとはいえ、世の中で全ての権利が認められているとは言い難い。
今でも、αだけではなくβでさえも、Ωを侮蔑の対象として見る輩は多いのだ。未だに「子を生むだけの性」と公言して憚らない者もいるし、本当にそう考えている者もいる。
悲しいことだが、それがこの世の中の事実だ。
小さくため息を漏らすと、「それでな、御曹司 」と呼ばれた。
……いちいち、腹の立つ言い方をする男だ。
「……何んですか?」
「だから、そんな顔すんなって 」
アンタがさせてんだろう?!
思いながら、何かが引っ掛かる。嵐柴 二海人と会ったのは今日で2度目だ。
幾ら真祝さんが自分のことを話しているとしても、この見透かされ感はなんだ?
ふっ……と微かな笑い声が聞こえた気がして、央翔はハッと顔を上げる。
「あ…… 」
けれど、投げ掛けようとした疑問は、二海人によって遮られた。
「早速だが、これからまほん所に行って貰いたい 」
「は? 」
うーんと、演技じみた困った顔をする。
「アイツ、今日体調が悪いみたいなんだよ。きっと、風邪かなんかだと思うんだが。しかし、俺はこの後用事があるから行ってやれない。そこでだ 」
「嵐柴さん、アンタ…… 」
やっぱり、先程脳裏を掠めた考えは気のせいだ。コイツの思惑は読めた。
「丁度、鍵もやったことだし、頼むわ 」
「ホント、アンタ最低だな 」
片手で拝む仕草をする二海人に、呆れた声で言い放つ。
「その為に、僕に渡したんでしょう? 」
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