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しおりを挟むちゅっと聞こえたリップ音に、身体が反応してしまう。
下半身に落ちる、欲に直結した切ない感覚に身を捩りたくなる。
……駄目だ、このままだと抗えなくなってしまう。
何に?
本能か? 、運命か?……冗談じゃない。
「……自分で、出来る 」
思うより、冷たい声が出た。
「真祝さん? 」
拒絶を孕んだ声音に、巻かれた腕が固まる。
「離せよ 」
緩んだ央翔の腕を振り解いて、キッチンへ向かう。
棚の引き出しをガタガタと開け、目当てのものを見つけると、開け放しにしたまま、蛇口を上げた。
勢いよく、放出される水。
今更、慌てても仕方がないけれど、不安は出来るだけ早く取り除きたかったし、正直、怖かった。
震える手で銀色のシートを破って薬を押し出し、1錠だけ口に放り込む。
直接迸る水に口を近付け、ごくんと薬を飲んだ。 喉を冷たい水が落ちてゆくのを感じる。
喘いで枯れた喉はひどく乾いていたらしく、真祝はごくごくと続けて水を飲んだ。
自分には必要無いかも知れないが、何があるか分からないと、高校の時にαに襲われたことを考えて、いざという時の為、処方してもらっていた。
12時間以内に内服すれば、99%以上の確率で避妊出来る……。
「……いいか、久我 」
きゅっと水を止めると、真祝は手の甲で水を拭い振り返った。
「はい 」
心配そうな顔で、真祝の直ぐ後ろに付いて来ていた央翔の目を睨むように見つめる。
「これは、事故だ 」
見ていて分かるくらいに、央翔の瞳が大きく見開かれた。
「お前はΩのフェロモンにあてられただけだ。責任を感じる必要なんかないからな。これは事故なんだから 」
よく言う。あんな快感を与えられ、抱かれて、よがって、うなじを噛まれて、番にされた。事故も何も無いもんだ。もう、他の誰ともセックス出来ない身体にさせられたというのに……。
ポツリとそう思って、ゾッとした。
本当に、好きな人と抱き合っても、拒否反応は辛いのだろうか? 二海人に嫌悪感を感じるんだろうか。
思わず、冷たくなった指先でうなじに触れた。
ドッと押し寄せる不安に、噛まれた場所と胸がギリギリと痛みを増してくる。
でも、今それを考えても仕方がないのだ。噛まれてしまったのは、覆しようの無い事実なのだから。
真祝はふぅっと息を吐いた。
「俺もお前に責任取れなんて言わないし、安心していいよ。このことはお互いに無かったことにし…… 」
そう言って緩く笑うと、央翔がその整った顔を子どものように歪める。
泣きそうな顔だと思った次の瞬間、真祝はきつく抱き締められていた。
「そんなこと……、そんなこと出来る訳ないでしょう!! 」
「く、が……? 」
「何度も言ってるじゃないですかっ! 僕は、……俺はアンタを愛してんです!! 責任取れって言ってくださいよ! 」
「俺には、言えないし、……言わない 」
ふるっとかぶりを振れば、動きを止めるように後頭部を押さえられる。
「言ってください! 俺はそんなの喜んで取りますよ! あなたは俺の番だ! やっと見付けた運命なんだ!! 」
「く……! ? 」
髪を後ろに引っ張られ、奪うみたいに口付けられる。
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