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しおりを挟む「海音、寝たのか? 」
まだ濡れた髪を、タオルで拭きながら言うと二海人が頷く。
「まほのこと待ってるって頑張ってたけど、今さっき落ちたよ 」
開いた襖の奥、リビングからの光だけが差す薄暗がりの部屋。
すやすやと敷かれた布団で眠る海音の側で、肘を付きながら一緒に横になる二海人がそう言った。ポンポンとリズム良くあやす手を止めて、身体を起こす。
家に帰る前、ショッピングセンターに寄って買ったパジャマ姿にドキドキしてしまい、真祝は目を逸らした。
「あ、あっという間に懐いたな。あまり人見知りはしない子だけど驚いた。ずっと会ってなくたってお前が父親だってこと、分かるんだよな 」
「違うよ、これまでお前が素直ないい子に育ててくれたからだよ。それにずっと俺が父親だって教えてくれてたから……、真祝 」
名前を呼ばれてそちらを見ると、ふんわりと優しく微笑う二海人が「おいでよ 」と言って立てた片膝をぽんと叩いた。
「うん……」
真祝は二海人に近付くと膝を付いて、その首にほっそりとした腕をたおやかに回した。
「本当に俺で、いいの? 」
「……お前がいいよ 」
洗いざらしなのにサラリとした前髪の間から覗く瞳が、柔らかく細められる。
「嘘……、だ」
「ん? 」
口を付いて出た言葉に自分で驚き、慌てて首を振る。
「ううん、何んにも 」
向けられる眼差しを信じたいのに、納得しきれない感情が凝る。一緒に居てくれると言ったことは嬉しい、だけどあんなに好きだった人のことはどうなったの?
でも、それはきっと聞いちゃいけないことなんだ。
「……髭、剃ったんだね 」
あの時、自分を抱いてくれた時、二海人は荒れていたみたいだった。髪も、今も以前より短くはないが、あの時はいかにも切っていない風でさっぱりとした好青年とは程遠かった。
二海人がもう髭の無い顎を指先で触る。
「そうだな、こっちに帰って来た時にな。ナニ? お前、あった方が好き? 」
「いや、カッコ良かったけど…… 」
そう、アレはアレでワイルドで格好良かった。煙草も好きじゃないけれど、二海人が吸っている姿はどこか色っぽくて胸がときめいた。
ゴニョゴニョと口籠る真祝に、二海人がクスッと笑う。
「まほが好きなら、又、生やしてもいいよ。髪だって、本当はもっと短い方が好きだろ? 」
「え? 俺は二海人がどんな格好してても好きだけど? 」
「そうなのか? 」
「うん、今の髪型も好き。かき上げる仕種にドキドキする、って俺、何言って…… 」
ふぅん……と言って、二海人が真祝の髪に手を伸ばす。
「キス、したくなった 」
「へっ? はっ?! 」
「しっ 」
思わず大きくなった声に、「ふぇ 」と海音が寝返りを打つ。
「……あっ 」
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