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しおりを挟む泣くのを我慢した喉奥から、ぐぅっと変な音が出る。
「自分ばかりが正しいと思うなっ! 正しければ何をやっても許されると思うなっ!たまには、自分が折れることも覚えろよ! 」
「それをお前が言うのか? 俺の思い通りになったことなんかないくせして 」
悔しさに、溜まっていた思いをぶつけたつもりだった。なのに、呆れた声で冷静に返される。
「それより、『女』ってなんだよ? 」
相手にもされていないのか、しろを切るつもりなのか。
「そんなの、お前が1番よく知ってるだろっ! お前がずっと好きだった…… 」そこまで言って、言い直す。
「今でも好きな女だよっ!」
もう、我慢が出来ない。ぶわぁっと溢れてくる涙に、二海人がぎょっとしたのが分かった。
「無神経過ぎんだよ! 俺はお前の何? 俺達結婚してんだよな? 」
「まほ……? 」
「子どものために結婚したとしたって、幾ら他に好きな女が居たって、マナーってもんがあんだろ?! 」
「お前、何言って……」
「俺がどんなにお前の事好きか、知ってるくせに!! 」
「おい、まほ聞けよ 」
「やだよっ、聞きたくないっ! これ以上、そいつが好きだって言うつもり? 他のヤツが好きだって、何で俺が何回も聞かされなきゃならないの? 」
「……っ! だから、話を聞けって!」
大きくなった声に、身体が小刻みに揺れた。
長めの前髪から覗く瞳が、ギラリとした抜き身の刀の様な光を放つ。強い目力に圧倒され、漆黒の中に引き摺り込まれそうになる。
それでも嫌だとぶんぶんと顔を横に振れば、二海人に両手で頬を挟まれた。
「聞けっ! 」
「やだっ!!」
「いいから聞けよっ! 俺が好きなのは、昔も今もお前だけだ! お前しかいねぇよっ! 」
信じられない言葉に、両耳を塞ぐ手が離れる。
「へ……? 」
好き? 二海人が? 誰を?
でも、真剣な表情と声で訴えてくる二海人が嘘を言っているとは思えない。……というか、怒ってる二海人、恐い筈なのに見惚れてしまうくらいにカッコいい。
ぽわんと目許を染めた真祝を見て、二海人が「……だよな 」と意味の分からないことを言って溜め息を吐いた。
「兎に角、想像以上にお前が盛大な勘違いをしてるってことは理解した。お陰で俺も要らないことで悩んでたことが分かった。まぁ、元はと言えば俺のせいなんだが 」
摘ままれた鼻に、ギュッと目を瞑る。
「あのなぁ、俺の何処にそんな女の影があんだよ? 」
「で、でも、ずっと好きな人がいるってっ 」
そう、確かに二海人はあの時言った。自分より大事だと思う程好きなのに、想いを伝えていない子がいると。
「だから、それがお前 」
「う、嘘だ……っ、だって俺、一応男だしっ 」
「俺が何時、『女 』って言った? 」
……言われてみれば確かに言ってない、気がする。
「だから、居ねぇ女に妬かれても困んだよ 」
真祝は、グッと喉を詰まらせた。
「で、でも、二海人っ、俺のこと『好き 』なんて言ったことないじゃん! 」
「いつも『可愛い』って言ってるじゃないか」
確かに可愛いとは言ってくれる。だけど……っ。
「『可愛い 』と『好き 』は違うっ! 全然違うっ!! 」
「俺は好きでなきゃ、男に『可愛い 』なんて言わねぇよ 」
「そんなの、解んないよっ! 大事なことじゃないかっ! 」
すると、二海人があからさまに嫌そうな顔をした。
「お前がそう言うから、さっき言ったんじゃないか 」
ーーー『好きだ、愛してる 』
二海人がさっき言った言葉を思い出して、ボンッと顔が熱くなった。
「あれ、まさか、俺に言ったの? 」
「逆に聞いてやろうか? お前以外に誰が居るんだ? 」
《オレ様キング》だと思っていた男がここまで言っているというのに、真祝はまだ信じきることが出来ない。
染み付いた不幸体質な考えからか、次の疑問を二海人に投げる。
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