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しおりを挟む瞳を見開いた二海人が、真祝から視線を反らし考え込む様に口許に手をやる。
黙っている二海人に、真祝は確信した。
「……なんで、だよ 」
そのせいでどれだけ悲しい想いをさせられたか、傷付けなくてもいい人達を傷付けたか。 やるせない気持ちが、胸を締め付ける。
「俺言ってたよね、お前のことずっと好きだって言ってたよね? どうしてだよ、あんなに言ったのに、俺の気持ち、信用出来なかったのかよ? 」
「まほの気持ちを疑ったことなんてないよ 」
「じゃあ、どうして……?! 」
すると、二海人が自分の胸ポケットを探り、とっくにやめた煙草を探す動作をした。無いと気付くと、ふっと苦笑いを浮かべ、肩を竦める。そして、荒っぽく髪をかき上げた。
「真祝、お前、検査前に話したあの日のこと、覚えてるか? 」
「それは…… 」
忘れる筈がない。息をするだけで肺が焼け付きそうな夏の終わり、蜩の鳴く声。体に纏わりつくひんやりとした汗と湿度まで思い出すことが出来る。
二海人が続ける。
「笑えるよ、あんなことを言いながら、検査結果が出るまで俺は自分がαだって殆んど疑ってなかった。万が一と思った時もあったが、万が一は万が一だと思っていた。うちは両親共にαだし、少しばかり、他の子供より出来がいいことの自覚はあったからな 」
全く、嫌なガキだったよ……と、二海人が自嘲的に吐き出した。
「でも子供は子供なりに考えてたんだぜ? 分かったら、まだ発情期を迎えてないお前に、どうやって将来の約束を取り付けようかとかさ 」
それが、全て打ち砕かれたあの日。
「だから、紙切れに『β』の字を見た時は、まさかと思ったよ。目の前が真っ暗になったね。親は泣くし、自分の力の及ばない所で重大なことが決まってしまう恐怖っていうか。まぁ、スタートラインにも立てないんだからな 」
「そんなの……っ、俺だって!! 」
ずっと予感があったとしても、自分がΩだと知った時に全くショックが無かったかと言えば嘘になる。でも、これで大好きな二海人と番になれる、一生側に居られるとの喜びも確かにあった。だから、その二海人がαじゃなかったなんてにわかには信じられなかったし、そんなことがあってたまるかとも思った。
だが、直ぐに思い直した。自分がΩなのだから、それは大した問題ではない、小さな頃の夢は叶えることが出来るのだと。
「でも、二海人がαだって、βだって、好きだったら関係ないじゃないか!」
「俺はお前を好きだったからこそ、そんな楽観的に考えることは出来なかったよ 」
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