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最高の夜食
出会ってはならない魔物
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立ち上がり、慌てて彼女の視線の先を見た。巨大な魔物が、僕たちを視界に捉えていた。あまりにも長居しすぎたのだ。
僕は急いで逃げようとしたが、サラサは座ったままだ。
サラサはガクガクと震えており、腰が抜けてしまったのかもしれない。
「サラサ、急いで!」
「無駄だな」
その声は、低い地鳴りのようだった。どこから聞こえたかわからなかったが、その魔物の口が動いていた。
「…………人語を話す……ハイウルフ……?」
「礼儀を知らぬ人の娘よ。我はロードウルフ。このダンジョンを統べる者」
ボスということだろうか。
僕は直感的に理解した。
これは——死ぬ。
今まで出会った魔物とは次元が違う。まるでその魔物の近くにモヤがかかるほど禍々しいオーラを放っている。
いつの間にか息を止めていたことに気がつき、酸欠で倒れそうになり咳き込んだ。
「は、早く逃げて、シロさん」
現実に引き戻され、僕はサラサの方を見る。しかし彼女は、まだ立ち上がれてさえいない。
「そんな、サラサが——」
それなのに、サラサは。
「ここは私に任せるんです!」
自信満々の言葉だった。
腰を抜かして動けもしないのにサラサは精一杯の虚勢を張って、僕に向かって言ったのだ。
「大丈夫ですよシロさん」
どうして君は、こんな場面でそんな笑顔で笑えるのだろう。
「だって私は、スーパー祓魔師ですから」
僕は、サラサのようになりたかった。
そばにいる人のために、何を捨ててでも立ち上がることのできるそんな人に。
だから僕はダガーを強く握り、ロードウルフとサラサの間に立った。
「ちょっと、シロさん!」
「さっきの作戦の通り、後方支援を頼むぞ」
気合を入れて大声をあげながら、ヒグマの倍ほどもあるロードウルフに突っ込んだ。
振り上げたダガーは、しかし巨大な魔物の爪の一振りで簡単に弾かれた。
瞬間、頭上から白くキラキラ輝く粉が飛来し、ロードウルフに降りかかった。
「魔力吸収!」
塩の結晶はまるで根を生やすようにロードウルフに光を伸ばす。
そのままサラサが魔力を吸収し続ければ——。
しかし、すぐにその希望は文字通り断ち切られた。魔物の体からオーラのようなモヤが吹き上がり、一瞬にしてサラサの塩を吹き飛ばした。
「諦めるな、続けてくれ、サラサ」
「——はい!」
僕たちの取り得る作戦は限られている。すでにどこかに弾かれたダガーのことは忘れ、僕は丸腰で突っ込んだ。
「愚かな」
僕は体ごとロードウルフにぶつかりにいくが、前足で蹴飛ばされるだけで僕は弾き飛ばされた。車にひかれたかのような衝撃で、胃の内容物をすべて吐き散らかした。
その間、何度もサラサの攻撃がロードウルフを襲う。が、魔物はサラサの攻撃を歯牙にもかけない。まるで小蝿でも払うかの如く、最小限の動きで塩を吹き飛ばすのだった。
それでも、何度でも向かっていった。
最初からわかっていたことではあるが、僕の攻撃はまったく魔物に通用しなかった。丸腰で突っ込むのはもちろんのこと、改めてダガーを拾って立ち向かってもその刃が魔物に届くことは一度もない。
最初はサラサを鼓舞していた。
きっと彼女はすごい祓魔師に違いないから、もしかするとこのロードウルフも倒してくれるんじゃないか。
そんな妄想を抱けたのも、二、三ぶつかりにいったところまで。この魔物は、化け物だ。おそらく僕が百人で挑んだとして、向こうが本気を出せば一撃で殺されてしまうだろう。
僕の叫びはすぐに、「諦めるな」から「逃げてくれ」に変わっていた。
「逃げてくれ、サラサ」
「僕のことはどうでもいいんだ」
「頼むから、君だけでも助かってくれよ」
自分の命なんてどうでもいい。
せめて彼女だけでも逃げてくれれば、僕がこの世界に召喚されたことに意味が生まれる。
決して主人公になれないし、ましてや勇者などでは一切なかったけれど。
それでも。
それなのに。
サラサはどうしたって逃げようとはしてくれなかった。
「まだ戦えますよ」
「大丈夫です」
「少しずつダメージは与えています!」
——命あっての冒険者ですからね!
そうやって慎重にダンジョン脱出を試みていた少女が、こんなにも勇敢に戦っているのだ。
僕は半ば泣きながら何度も何度もロードウルフに立ち向かった。
しかし僕の力では岩壁のようなロードウルフに傷ひとつつけることもかなわない。
それでも、何度でも。
何度でも。
何度でも何度でも。
何度でも何度でも何度でも。
何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。
——あれ?
僕はどうして、いまだに生きていられるのだろう。
僕は急いで逃げようとしたが、サラサは座ったままだ。
サラサはガクガクと震えており、腰が抜けてしまったのかもしれない。
「サラサ、急いで!」
「無駄だな」
その声は、低い地鳴りのようだった。どこから聞こえたかわからなかったが、その魔物の口が動いていた。
「…………人語を話す……ハイウルフ……?」
「礼儀を知らぬ人の娘よ。我はロードウルフ。このダンジョンを統べる者」
ボスということだろうか。
僕は直感的に理解した。
これは——死ぬ。
今まで出会った魔物とは次元が違う。まるでその魔物の近くにモヤがかかるほど禍々しいオーラを放っている。
いつの間にか息を止めていたことに気がつき、酸欠で倒れそうになり咳き込んだ。
「は、早く逃げて、シロさん」
現実に引き戻され、僕はサラサの方を見る。しかし彼女は、まだ立ち上がれてさえいない。
「そんな、サラサが——」
それなのに、サラサは。
「ここは私に任せるんです!」
自信満々の言葉だった。
腰を抜かして動けもしないのにサラサは精一杯の虚勢を張って、僕に向かって言ったのだ。
「大丈夫ですよシロさん」
どうして君は、こんな場面でそんな笑顔で笑えるのだろう。
「だって私は、スーパー祓魔師ですから」
僕は、サラサのようになりたかった。
そばにいる人のために、何を捨ててでも立ち上がることのできるそんな人に。
だから僕はダガーを強く握り、ロードウルフとサラサの間に立った。
「ちょっと、シロさん!」
「さっきの作戦の通り、後方支援を頼むぞ」
気合を入れて大声をあげながら、ヒグマの倍ほどもあるロードウルフに突っ込んだ。
振り上げたダガーは、しかし巨大な魔物の爪の一振りで簡単に弾かれた。
瞬間、頭上から白くキラキラ輝く粉が飛来し、ロードウルフに降りかかった。
「魔力吸収!」
塩の結晶はまるで根を生やすようにロードウルフに光を伸ばす。
そのままサラサが魔力を吸収し続ければ——。
しかし、すぐにその希望は文字通り断ち切られた。魔物の体からオーラのようなモヤが吹き上がり、一瞬にしてサラサの塩を吹き飛ばした。
「諦めるな、続けてくれ、サラサ」
「——はい!」
僕たちの取り得る作戦は限られている。すでにどこかに弾かれたダガーのことは忘れ、僕は丸腰で突っ込んだ。
「愚かな」
僕は体ごとロードウルフにぶつかりにいくが、前足で蹴飛ばされるだけで僕は弾き飛ばされた。車にひかれたかのような衝撃で、胃の内容物をすべて吐き散らかした。
その間、何度もサラサの攻撃がロードウルフを襲う。が、魔物はサラサの攻撃を歯牙にもかけない。まるで小蝿でも払うかの如く、最小限の動きで塩を吹き飛ばすのだった。
それでも、何度でも向かっていった。
最初からわかっていたことではあるが、僕の攻撃はまったく魔物に通用しなかった。丸腰で突っ込むのはもちろんのこと、改めてダガーを拾って立ち向かってもその刃が魔物に届くことは一度もない。
最初はサラサを鼓舞していた。
きっと彼女はすごい祓魔師に違いないから、もしかするとこのロードウルフも倒してくれるんじゃないか。
そんな妄想を抱けたのも、二、三ぶつかりにいったところまで。この魔物は、化け物だ。おそらく僕が百人で挑んだとして、向こうが本気を出せば一撃で殺されてしまうだろう。
僕の叫びはすぐに、「諦めるな」から「逃げてくれ」に変わっていた。
「逃げてくれ、サラサ」
「僕のことはどうでもいいんだ」
「頼むから、君だけでも助かってくれよ」
自分の命なんてどうでもいい。
せめて彼女だけでも逃げてくれれば、僕がこの世界に召喚されたことに意味が生まれる。
決して主人公になれないし、ましてや勇者などでは一切なかったけれど。
それでも。
それなのに。
サラサはどうしたって逃げようとはしてくれなかった。
「まだ戦えますよ」
「大丈夫です」
「少しずつダメージは与えています!」
——命あっての冒険者ですからね!
そうやって慎重にダンジョン脱出を試みていた少女が、こんなにも勇敢に戦っているのだ。
僕は半ば泣きながら何度も何度もロードウルフに立ち向かった。
しかし僕の力では岩壁のようなロードウルフに傷ひとつつけることもかなわない。
それでも、何度でも。
何度でも。
何度でも何度でも。
何度でも何度でも何度でも。
何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。何度でも何度でも何度でも。
——あれ?
僕はどうして、いまだに生きていられるのだろう。
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