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君のための新食感
灼熱酒場
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「お袋は早くに亡くなっちまってよ。俺が飯をよく作ってたんだ。親父は病気であんまり肉は食えなかったからさ、なるべく食いやすいように工夫してよ」
次第にヒートレオンは飲食店を持つことが夢となった。しかし、家名によって職業が決まるこの世界においてなりたい職業になるのは難しく、ヒートレオンは商家の養子となって下働きを続けたらしい。
その努力の先に与えられたのが中心街から離れた場所にある辺鄙な土地で、街に住む人々が日常使いにこの店を選ぶことはないのだった。僕たちのような土地勘のない冒険者が、たまたま立ち寄る以外に灼熱酒場が利用されることはない。
そして客が他地域の冒険者だからこそリピーターにはならない。
「商家の手伝いも借りてたんだが、あんまり客がこなくてよ。帰って貰ったから部屋が空いてたってわけだ」
人を使うにも土地を使うにも、商家に金を払わなければならないという。
ヒートレオンは下働き時代の貯金を切り崩しながら、店が軌道に乗るまで耐えているとのことだった。
「でももう大丈夫だ! アジノ乇卜さえあれば、きっとそれ目当てに客が押し寄せるに違いねーだろ」
無邪気なヒートレオンの裏には大きな苦労がある。まるで悪徳フランチャイズ本部に搾取されるように、定期的な商家への支払いの発生。
商家からすればヒートレオンが儲かろうが儲かるまいがどちらでもよく、支払いが滞れば追い出すまで。絶対に失敗しない商売だ。ヒートレオンが失敗しても良いからこそ、こんな辺鄙な場所を貸し出せる。
飲食店をやる上で、もっとも重要なのは土地だ。
例えばアミューズメントパーク内の飲食店は食事のクオリティが低くても売れる。いかに人通りが多く、食事を必要とした人々が往来する場所に出店するかということこそが飲食店成功の鍵である。
良い料理を作ったとしても、食べる人がいなければなんの意味もない。
「……なぁヒートレオン。店の場所を変えることはできないのか?」
「はぁ? そんなの無理に決まってんだろ。俺が出店場所を選べるとでも思ってんのか? そんなことよりやるぞ! 最高のレシピの開発だ!」
◆ ◆ ◆
僕はキッチンで、改めてわずかばかりのアジノ乇卜を生み出した。
「ピクルスもうまかったが、こっちはどうよ」
ヒートレオンは茹でられたジャガイモ(のような芋)をカットし、そこに塩とアジノ乇卜を振りかけた。さらにそこに油のような液体をかけ、それを摘んで一口。
「……おい、これもとんでもねぇな」
続いて僕もそれを口にした。
「うん。うまい」
ホクホクの芋と塩気とアジノ乇卜の旨味が口の中いっぱいに広がる。よく噛んで嚥下すると、喉の感じるねっとりとした快感。味も感覚も素晴らしい一品だ。
今度はヒートレオンは干し肉を取り出し、それを細かくカットした。そこにアジノ乇卜を振りかけて食べてみる。
「これは意味ねぇな」
干し肉はすでに旨味が凝縮されており、アジノ乇卜を使ったところで変化は薄い。ヒートレオンの感覚は相変わらず正しい。
「もしアジノ乇卜を使うのであれば、生肉に使った方がいいよ。生肉はないの?」
すると、ヒートレオンは怪訝な表情を浮かべた。
「そんなもんあるわけねーだろ。俺が魔法使いに見えるか?」
言葉の意図がわからない。
「あ、ええとですね、シロさん。たぶん、保存ができないってことだと思いますよ」
「そりゃそうだろ。ここは俺一人だぞ? 氷魔法がねーのにどうやって肉を冷やすんだよ」
ヒートレオンによれば、ミーチュリアで飲食店を出店するにはミーチュリア商掟に従わなければならないらしい。その中で、生肉を扱うには二つの方法がある。
一つは家畜を店舗で管理し、捌いたら当日中に使い切ってしまう方法。もう一つが、氷魔法による温度管理だ。どちらかができない場合は生肉は扱えず、王立商監査官に見つかれば出店停止である。
なるほど、この世界には冷蔵庫は存在しないから魔法で代替しているのだ。
「じゃ、じゃあ、この店で出せるものって……」
「野菜と干し肉だ。十分じゃねーか」
あっけらかんとした言葉。干し肉にかじりついて「うめぇ」と口に出すのも嘘じゃないはずだ。
しかし、僕は背筋が凍った。
「ちょっとさ、出かけても構わないかな。他店の偵察に行きたいんだ」
「ああ? 構わねぇが」
◆ ◆ ◆
街の中心地の方へ歩いていけば、いくつかの酒場や定食屋が目にはいる。露店でファストフードを売っている店もある。 僕とサラサは目についた店を片っ端から尋ね、メニューを聞いた。
ほとんどの飲食店には生肉から調理したと思われる料理があり、いくつか口にしたがそれぞれが旨かった。
当たり前だ。
何せ肉は旨味の塊。塩を振って焼けばそれだけでご馳走なのだ。
そしていよいよ中心街で一際人の出入りが多い店に入ると、僕とサラサは奥の席に通された。薄暗い店内には冒険者が数多くたむろしていた。
「ここはギルドに近いので、冒険者が多いですね」
「ギルド?」
「冒険者ギルドでは、冒険依頼がたくさんあるんです。そこでお仕事を探して、依頼をこなせばお金ももらえるしパーティランクが上がっていくんですよ。パーティメンバーがSまで到達すれば、魔王討伐パーティに任命されるかもしれません!」
本当にゲームの世界のような説明に、僕は少しワクワクした。
そういえば僕をこの世界に召喚したテレコも僕をパーティメンバーにするために呼んだのだっけ。結果僕は捨てられたのだけれど、もう少し良いスキルがあって魔王討伐に参加できたとしたら、それはそれで面白そうだ。
どうせ一度失った命なのだし。
セントラル・バルと呼ばれるこの店内はタバコの煙が立ち込め、皆アルコールを飲んでいるためあちこちで大声が上がる。ウェイターは皆女性で、水着のような格好で給仕している。
立地が抜群で、肉を提供でき、さらにはサービスもヒートレオン一人が切り盛りする店とは比べるべくもないだろう。
「さっきからずいぶんと視線が釘付けですねぇ。シロさん」
「……え、そんなことはないと思うよ。うん。ぜんぜん。僕は現代日本に生きていたから、すごくコンプライアンスとかハラスメントとか、ポリコレには敏感なんだ。ぜんぜん、女性店員を凝視しているだなんて、そんなことあるわけないよ」
「何言ってるかわからないです。女性店員とか私は言ってないですが、何を凝視してたんですか?」
僕はその後ずっとサラサに足を踏まれていたので、視線をテーブルに固定せざるを得なかった。
「あ、きましたよ、シロさん」
そしていよいよ運ばれてきた骨付き肉のステーキ。
「これ、食べ方とか決まってる?」
「ここは冒険者の集う大衆店なので、豪快にそのままが一番です!」
漫画のようなその骨を手で掴み、そのまま口に運んだ。
「……うん。旨いな」
「……そうですね」
ジューシーな肉は、干し肉とはまったく違う。素材本来の味を活かした自然な味で、ただし強い塩気が強烈な印象を与える外食肉だ。
二人で完食し、店を出た。
「またのご来店を」という給仕の笑顔が、灼熱酒場では絶対に勝てないと笑っているように見えた。
次第にヒートレオンは飲食店を持つことが夢となった。しかし、家名によって職業が決まるこの世界においてなりたい職業になるのは難しく、ヒートレオンは商家の養子となって下働きを続けたらしい。
その努力の先に与えられたのが中心街から離れた場所にある辺鄙な土地で、街に住む人々が日常使いにこの店を選ぶことはないのだった。僕たちのような土地勘のない冒険者が、たまたま立ち寄る以外に灼熱酒場が利用されることはない。
そして客が他地域の冒険者だからこそリピーターにはならない。
「商家の手伝いも借りてたんだが、あんまり客がこなくてよ。帰って貰ったから部屋が空いてたってわけだ」
人を使うにも土地を使うにも、商家に金を払わなければならないという。
ヒートレオンは下働き時代の貯金を切り崩しながら、店が軌道に乗るまで耐えているとのことだった。
「でももう大丈夫だ! アジノ乇卜さえあれば、きっとそれ目当てに客が押し寄せるに違いねーだろ」
無邪気なヒートレオンの裏には大きな苦労がある。まるで悪徳フランチャイズ本部に搾取されるように、定期的な商家への支払いの発生。
商家からすればヒートレオンが儲かろうが儲かるまいがどちらでもよく、支払いが滞れば追い出すまで。絶対に失敗しない商売だ。ヒートレオンが失敗しても良いからこそ、こんな辺鄙な場所を貸し出せる。
飲食店をやる上で、もっとも重要なのは土地だ。
例えばアミューズメントパーク内の飲食店は食事のクオリティが低くても売れる。いかに人通りが多く、食事を必要とした人々が往来する場所に出店するかということこそが飲食店成功の鍵である。
良い料理を作ったとしても、食べる人がいなければなんの意味もない。
「……なぁヒートレオン。店の場所を変えることはできないのか?」
「はぁ? そんなの無理に決まってんだろ。俺が出店場所を選べるとでも思ってんのか? そんなことよりやるぞ! 最高のレシピの開発だ!」
◆ ◆ ◆
僕はキッチンで、改めてわずかばかりのアジノ乇卜を生み出した。
「ピクルスもうまかったが、こっちはどうよ」
ヒートレオンは茹でられたジャガイモ(のような芋)をカットし、そこに塩とアジノ乇卜を振りかけた。さらにそこに油のような液体をかけ、それを摘んで一口。
「……おい、これもとんでもねぇな」
続いて僕もそれを口にした。
「うん。うまい」
ホクホクの芋と塩気とアジノ乇卜の旨味が口の中いっぱいに広がる。よく噛んで嚥下すると、喉の感じるねっとりとした快感。味も感覚も素晴らしい一品だ。
今度はヒートレオンは干し肉を取り出し、それを細かくカットした。そこにアジノ乇卜を振りかけて食べてみる。
「これは意味ねぇな」
干し肉はすでに旨味が凝縮されており、アジノ乇卜を使ったところで変化は薄い。ヒートレオンの感覚は相変わらず正しい。
「もしアジノ乇卜を使うのであれば、生肉に使った方がいいよ。生肉はないの?」
すると、ヒートレオンは怪訝な表情を浮かべた。
「そんなもんあるわけねーだろ。俺が魔法使いに見えるか?」
言葉の意図がわからない。
「あ、ええとですね、シロさん。たぶん、保存ができないってことだと思いますよ」
「そりゃそうだろ。ここは俺一人だぞ? 氷魔法がねーのにどうやって肉を冷やすんだよ」
ヒートレオンによれば、ミーチュリアで飲食店を出店するにはミーチュリア商掟に従わなければならないらしい。その中で、生肉を扱うには二つの方法がある。
一つは家畜を店舗で管理し、捌いたら当日中に使い切ってしまう方法。もう一つが、氷魔法による温度管理だ。どちらかができない場合は生肉は扱えず、王立商監査官に見つかれば出店停止である。
なるほど、この世界には冷蔵庫は存在しないから魔法で代替しているのだ。
「じゃ、じゃあ、この店で出せるものって……」
「野菜と干し肉だ。十分じゃねーか」
あっけらかんとした言葉。干し肉にかじりついて「うめぇ」と口に出すのも嘘じゃないはずだ。
しかし、僕は背筋が凍った。
「ちょっとさ、出かけても構わないかな。他店の偵察に行きたいんだ」
「ああ? 構わねぇが」
◆ ◆ ◆
街の中心地の方へ歩いていけば、いくつかの酒場や定食屋が目にはいる。露店でファストフードを売っている店もある。 僕とサラサは目についた店を片っ端から尋ね、メニューを聞いた。
ほとんどの飲食店には生肉から調理したと思われる料理があり、いくつか口にしたがそれぞれが旨かった。
当たり前だ。
何せ肉は旨味の塊。塩を振って焼けばそれだけでご馳走なのだ。
そしていよいよ中心街で一際人の出入りが多い店に入ると、僕とサラサは奥の席に通された。薄暗い店内には冒険者が数多くたむろしていた。
「ここはギルドに近いので、冒険者が多いですね」
「ギルド?」
「冒険者ギルドでは、冒険依頼がたくさんあるんです。そこでお仕事を探して、依頼をこなせばお金ももらえるしパーティランクが上がっていくんですよ。パーティメンバーがSまで到達すれば、魔王討伐パーティに任命されるかもしれません!」
本当にゲームの世界のような説明に、僕は少しワクワクした。
そういえば僕をこの世界に召喚したテレコも僕をパーティメンバーにするために呼んだのだっけ。結果僕は捨てられたのだけれど、もう少し良いスキルがあって魔王討伐に参加できたとしたら、それはそれで面白そうだ。
どうせ一度失った命なのだし。
セントラル・バルと呼ばれるこの店内はタバコの煙が立ち込め、皆アルコールを飲んでいるためあちこちで大声が上がる。ウェイターは皆女性で、水着のような格好で給仕している。
立地が抜群で、肉を提供でき、さらにはサービスもヒートレオン一人が切り盛りする店とは比べるべくもないだろう。
「さっきからずいぶんと視線が釘付けですねぇ。シロさん」
「……え、そんなことはないと思うよ。うん。ぜんぜん。僕は現代日本に生きていたから、すごくコンプライアンスとかハラスメントとか、ポリコレには敏感なんだ。ぜんぜん、女性店員を凝視しているだなんて、そんなことあるわけないよ」
「何言ってるかわからないです。女性店員とか私は言ってないですが、何を凝視してたんですか?」
僕はその後ずっとサラサに足を踏まれていたので、視線をテーブルに固定せざるを得なかった。
「あ、きましたよ、シロさん」
そしていよいよ運ばれてきた骨付き肉のステーキ。
「これ、食べ方とか決まってる?」
「ここは冒険者の集う大衆店なので、豪快にそのままが一番です!」
漫画のようなその骨を手で掴み、そのまま口に運んだ。
「……うん。旨いな」
「……そうですね」
ジューシーな肉は、干し肉とはまったく違う。素材本来の味を活かした自然な味で、ただし強い塩気が強烈な印象を与える外食肉だ。
二人で完食し、店を出た。
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