13 / 34
13
しおりを挟む俺には両親の記憶はない。
物心ついた頃には小さな吸血鬼のコミュニティにいて、彼らが飢えを感じたときに噛まれて、血を吸われるためだけに存在した。
本当に必要最低限の食事だけを与えられ、川や井戸水で清潔を保ち、死なない程度の環境を与えられ、ただ生きる食糧として存在が許されていた。
大人ではダメだった。すでに知っているものを手放せない。不平不満に溢れて反抗するから。
その点子どもは従順だ。それまでの環境しかしらないのだから、不平不満の申しようがないのだ。
だから俺は、最低限の生活の中で生きて、何も文句は言わずに過ごした。吸血鬼たちは気まぐれで、ちょっと気に触ることをすれば暴力を振るわれた。でも美味しいものをくれる時もあった。当時は高価だった甘い菓子も、従順にしていれば与えてくれることがあった。
ただ、移動の時に入れられる狭い木箱だけは嫌だった。
胎児のような体勢でしかいられない、暗くて狭い空間は本当に辛かった。だから俺は今でも、暗くて狭いところがだめなのだ。あの頃の窮屈さを思い出すから。
そんな生活の中で、俺は成長していった。もちろん満足に食えない中だから、人並みよりも小柄に育った。でもあの戦前戦中の時代に、ちゃんと育つことができたのだから幸いだ。吸血鬼たちは気まぐれで恐ろしかったけど、普通に生きている人たちが飢えと戦争で死んでしまう中、俺はそこそこ育ててもらったような気もする。当然徴兵されることもないし、強い彼らは割とちゃんと、俺という食糧を維持するために食べ物を調達してくれた。面倒を見てくれた。
十代半ば頃、大半の青少年と同じく精通すると、俺の負担は一気に増えた。男の吸血鬼ばかりのコミュニティだったこともあるけれど、それらの欲求の捌け口にされた。
血を飲まれるのと、性行為をするのとで、かなりの疲労が蓄積していった。それまでより明らかに弱って、そこで俺は死を覚悟した。
それまでにも俺と同じようにこうやって吸血鬼たちに飼われている人間はいたけど、長くは保たなかった。大人はうるさくてすぐに殺される。子どもも体力が落ちると足手纏いだと言って殺される。
そんななかで、俺はけっこう長く生きた方なんじゃないか?
長く生きたって、変わらないのだから死んでも後悔はない。
ただその死が、苦しくて痛くて辛いものだったら嫌だなって、漠然と考えていた。死は楽になるためのものだと思っていたのに、命尽きる直前まで苦しいのは嫌だと勝手に思っていた。
目を開ける。暗い室内を視界に映して、慌ててカーテンを開けに窓へ向かった。サッと開いた分厚いカーテンの向こう、月明かりが目に入ってホッとした。
バルコニーに続く窓のそばで、昼間の出来事を思い出した。
アレインの失墜を望む誰かが、この屋敷にスパイを潜り込ませていた。それ自体は多分、アレインも薄々気付いていたと思う。この屋敷にはたくさんの視線があった。そこに明確な悪意があるかは別として。
俺はその片鱗を暴いたけど、上手くアレインに伝わったかはわからない。俺は他者から見れば血に狂った化け物に見えていたことだろう。
だからアレインは俺に契約魔法のひとつを使った。アレインの意に反することをした時、罰を受ける戒めだ。この首の契約印が反応したんだと今ならわかる。
別に本気で血に狂ったわけじゃなかったんだけどな。
でもそんなこと、あの場に駆けつけた人間たちには判断しようがない。だから仕方ない。俺が痛い目に遭ったのは、俺という存在が招いたことだ。
結局。
結局のところ、普段どれだけ親密に接していようとも、アレインは容赦なく契約の魔法を使うのだ。どれだけ親しくしていても、俺を飼っていた吸血鬼たちにとって、俺は食糧以上にはなれなかった。
アレインもそうなのだろう。どれだけ親交を深めても、俺はやっぱり魔法という恐ろしい力で捻じ伏せられる存在にしかなりえない。
そのことを改めて思い知った。
57
あなたにおすすめの小説
公爵子息だったけど勘違いが恥ずかしいので逃走します
市之川めい
BL
魔王を倒した英雄によって建国されたグレンロシェ王国。その後は現在までに二人、王家の血を引く者から英雄が現れている。
四大公爵家嫡男、容姿端麗、成績優秀と全てにおいて恵まれているジルベールは、いつか自分も英雄になると思い、周りには貴公子然とした態度で接しながらも裏では使用人の息子、レオンに対して傲慢に振る舞い性的な関係まで強要していた。
だが、魔王の襲来時に平民であるはずのレオンが英雄になった。
自分とレオンの出生の秘密を知ったジルベールは恥ずかしくなって逃走することにしたが、レオンが迎えに来て……。
※性描写あり。他サイトにも掲載しています。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
腐男子♥異世界転生
よしの こひな
BL
ある日、腐男子で新卒サラリーマン・伊丹トキヤの自室にトラックが突っ込む。
目覚めたトキヤがそこで目にしたのは、彼が長年追い続けていたBL小説の世界――。しかも、なんとトキヤは彼が最推しするスパダリ攻め『黒の騎士』ことアルチュール・ド・シルエットの文武のライバルであり、恋のライバルでもあるサブキャラの「当て馬」セレスタン・ギレヌ・コルベールに転生してしまっていた。
トキヤは、「すぐそばで推しの2人を愛でられる!」と思っていたのに、次々と原作とは異なる展開が……。 ※なろうさん、Caitaさん、PIXIVさんでも掲載しています。
劣等アルファは最強王子から逃げられない
東
BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。
ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。
贖罪公爵長男とのんきな俺
侑希
BL
異世界転生したら子爵家に生まれたけれど自分以外一家全滅という惨事に見舞われたレオン。
貴族生活に恐れ慄いたレオンは自分を死んだことにして平民のリオとして生きることにした。
一方公爵家の長男であるフレドリックは当時流行っていた児童小説の影響で、公爵家に身を寄せていたレオンにひどい言葉をぶつけてしまう。その後すぐにレオンが死んだと知らされたフレドリックは、以降十年、ひたすらそのことを悔いて生活していた。
そして十年後、二人はフレドリックとリオとして再会することになる。
・フレドリック視点は重め、レオン及びリオ視点は軽め
・異世界転生がちょいちょい発生する世界。色々な世界の色々な時代からの転生者の影響で文明が若干ちぐはぐ。
・世界観ふんわり 細かいことは気にしないで読んでください。
・CP固定・ご都合主義・ハピエン
・他サイト掲載予定あり
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【ご報告】
2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。
また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。
引き続きよろしくお願いいたします。
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!
モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。
その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。
魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。
その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?!
ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる