【BL】存在がファンタジーな俺、このたび魔法使いの使い魔として異世界に召喚されてしまいましたとさ(悲)

しーやん

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 俺には両親の記憶はない。

 物心ついた頃には小さな吸血鬼のコミュニティにいて、彼らが飢えを感じたときに噛まれて、血を吸われるためだけに存在した。

 本当に必要最低限の食事だけを与えられ、川や井戸水で清潔を保ち、死なない程度の環境を与えられ、ただ生きる食糧として存在が許されていた。

 大人ではダメだった。すでに知っているものを手放せない。不平不満に溢れて反抗するから。

 その点子どもは従順だ。それまでの環境しかしらないのだから、不平不満の申しようがないのだ。

 だから俺は、最低限の生活の中で生きて、何も文句は言わずに過ごした。吸血鬼たちは気まぐれで、ちょっと気に触ることをすれば暴力を振るわれた。でも美味しいものをくれる時もあった。当時は高価だった甘い菓子も、従順にしていれば与えてくれることがあった。

 ただ、移動の時に入れられる狭い木箱だけは嫌だった。

 胎児のような体勢でしかいられない、暗くて狭い空間は本当に辛かった。だから俺は今でも、暗くて狭いところがだめなのだ。あの頃の窮屈さを思い出すから。

 そんな生活の中で、俺は成長していった。もちろん満足に食えない中だから、人並みよりも小柄に育った。でもあの戦前戦中の時代に、ちゃんと育つことができたのだから幸いだ。吸血鬼たちは気まぐれで恐ろしかったけど、普通に生きている人たちが飢えと戦争で死んでしまう中、俺はそこそこ育ててもらったような気もする。当然徴兵されることもないし、強い彼らは割とちゃんと、俺という食糧を維持するために食べ物を調達してくれた。面倒を見てくれた。

 十代半ば頃、大半の青少年と同じく精通すると、俺の負担は一気に増えた。男の吸血鬼ばかりのコミュニティだったこともあるけれど、それらの欲求の捌け口にされた。

 血を飲まれるのと、性行為をするのとで、かなりの疲労が蓄積していった。それまでより明らかに弱って、そこで俺は死を覚悟した。

 それまでにも俺と同じようにこうやって吸血鬼たちに飼われている人間はいたけど、長くは保たなかった。大人はうるさくてすぐに殺される。子どもも体力が落ちると足手纏いだと言って殺される。

 そんななかで、俺はけっこう長く生きた方なんじゃないか?

 長く生きたって、変わらないのだから死んでも後悔はない。

 ただその死が、苦しくて痛くて辛いものだったら嫌だなって、漠然と考えていた。死は楽になるためのものだと思っていたのに、命尽きる直前まで苦しいのは嫌だと勝手に思っていた。

 目を開ける。暗い室内を視界に映して、慌ててカーテンを開けに窓へ向かった。サッと開いた分厚いカーテンの向こう、月明かりが目に入ってホッとした。

 バルコニーに続く窓のそばで、昼間の出来事を思い出した。

 アレインの失墜を望む誰かが、この屋敷にスパイを潜り込ませていた。それ自体は多分、アレインも薄々気付いていたと思う。この屋敷にはたくさんの視線があった。そこに明確な悪意があるかは別として。

 俺はその片鱗を暴いたけど、上手くアレインに伝わったかはわからない。俺は他者から見れば血に狂った化け物に見えていたことだろう。

 だからアレインは俺に契約魔法のひとつを使った。アレインの意に反することをした時、罰を受ける戒めだ。この首の契約印が反応したんだと今ならわかる。

 別に本気で血に狂ったわけじゃなかったんだけどな。

 でもそんなこと、あの場に駆けつけた人間たちには判断しようがない。だから仕方ない。俺が痛い目に遭ったのは、俺という存在が招いたことだ。

 結局。

 結局のところ、普段どれだけ親密に接していようとも、アレインは容赦なく契約の魔法を使うのだ。どれだけ親しくしていても、俺を飼っていた吸血鬼たちにとって、俺は食糧以上にはなれなかった。

 アレインもそうなのだろう。どれだけ親交を深めても、俺はやっぱり魔法という恐ろしい力で捻じ伏せられる存在にしかなりえない。

 そのことを改めて思い知った。
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