【BL】存在がファンタジーな俺、このたび魔法使いの使い魔として異世界に召喚されてしまいましたとさ(悲)

しーやん

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 体が思うように動かない。起きなければと思うのに、そう思えば思うほど、全身のどこにも力が入らない。

 人間だった頃は、そういう時は吸血鬼の誰かに蹴り起こされたりしたっけ。そんな所で寝るな、とか、見窄らしいガキが、とか。憂さ晴らしに蹴られたり殴られたりして、気が済むと首筋を噛まれて血を吸われて、いつも意識が曖昧だった。あんな環境でよく生きていたな、と今になって思うけれど、吸血鬼たちも殺さないように最低限の管理はしていたのだろう。

 そこに上手く適応してしまったせいで、十数年も奴隷だったわけだけど。さっさと死んでおけば、今もまだ夢に見てうなされるなんてことにはならなかったのに。

 また嫌な夢を見始めて、夜上手く眠ることができなくなっていた。

 この世界に召喚された最初の頃と同じだ。ただこれは、精神的に不安定になるといつも起こることなので、特に気にすることではない。元の世界にいた時も、住む場所や職を変えたり、人付き合いに疲れると眠れなくなっていた。それで眠れても人間だった頃の夢を見て、余計に精神が疲弊する。本当に悪夢だ。

 そんな時はいつもだけれど、本当に何もする気が起きない。前回いつ風呂に入ったかも、着替えたかも覚えてない。お腹が空かないから時間の感覚も曖昧だ。

 いつも通り定期的に飢えは感じる。でもそれも、夢に見る自分勝手な吸血鬼たちが脳裏をチラついて、血を飲む行為に嫌悪を感じる。

 眠っていたい。それで、このまま目が覚めなければいいのに。

 そんなことを考えているけれど、目が覚めた時に部屋に差し込む日差しを見てホッとする。もし死後の世界が真っ暗闇だったら、俺はすぐに気が触れてしまうだろう、なんて想像してゾッとする。

「ハズキ、おはよう。調子はどうかな…?」

 ノックと共に部屋に入ってきたアレインが優しげに言う。俺は枕に沈んだまま、答える気力もない。だけどそれじゃダメだ。アレインに捨てられてしまったら、俺は生きていけない。使い魔として必死に縋っておかないと。

「ん、平気……待って、すぐに起きるから」

 緩慢な動きで上半身を起こす。そのまま勢い任せにベッドから降り立つ。フラフラするのを我慢して、一応は真っ直ぐ立った、と思う。

「今日……あれ?何日経ったの?」
「十日、君は自室から出てないよ」
「ああ、そう……」

 アレインが心配そうな顔をして俺の肩を支える。アレインから甘い血の匂いがしたけれど、いつものように飢えを感じてはいるが欲しいとは思えなかった。しかしアレインは気にしていたようで、俺をソファまで誘導して座らせると、目の前にティーカップを用意した。

「僕の血を飲めば、少しは元気になってくれる?もう随分と飲んでないでしょう?」
「……うん。でもいらない。欲しくない」

 しゅんと肩を落とすアレインに、俺もなんだか申し訳ないなと思った。

「でも君は血を飲まないと生きられないんでしょう?」

 言外に、死にたいの?と聞かれているようだった。それで思い出したけれど、俺が死ねばアレインも道連れになるんだった。

「そういえば俺が死ぬとアレインも困るんだよね。じゃあ、ちょっとだけ貰おうかな」
「そういうことじゃないんだ。僕はただ、君に元気になって欲しいだけだよ」
「……わかった。元気になればいいんだね?じゃあ今から元気になるように努力する」

 笑えばいい?何か、面白いことでも言えばいい?その前に身嗜みを整えなければいけない気がする。アレインのそばに居ても大丈夫なように、綺麗にしていなければならないんじゃなかったっけ?

「アレイン、学院は?俺、一緒に行くって言ったのに、約束守れてないや……ごめんなさい」
「そんなこと気にしなくていいんだよ。とりあえず今のところはハズキが居なくても大丈夫な授業内容だから」

 俺がいなくても大丈夫、か。他意はないと理解しているけれど、心がズンと重くなる。モヤモヤしたものが広がって、途端に息苦しくなってくる。

 でも元気になるって言ったから、元気にならないといけない。

「多分だけど、何度も声かけてくれてたよね?俺、たまにこうやって落ち込んで何にもできなくなることがあるんだ。だから覚えてないんだけど、心配かけてごめんなさい」
「誰にだってそういう時はあるよ。だから気にしないで。謝ることじゃないよ」

 にっこりとキラキラした笑みを向けてくれるアレインに、俺はちゃんと笑い返すことができているのか甚だ疑問だが、とりあえず怒ってはいないようでホッとした。

「今日は、学院は?」
「講師の方が急用で授業がなくなってしまったんだ。だからせっかくハズキが起きてくれたから、何か焼き菓子を作って欲しいなって」
「いいよ。ちょっと待ってて。さっと風呂入って着替えてくる」

 アレインがゆっくりでいいよと言ったけれど、俺はすぐに浴室に向かった。経験から立ち止まると動けなくなることを知っているので、思い立った時にすぐに行動しないとならない。

 宣言通り最短で身嗜みを整えて、俺はアレインと厨房へ向かった。朝食の時間が終わり、厨房では昼食を仕込んでいるところだった。料理長のクレイグは俺の顔を見てニッと笑い、ライリーも同じく笑みを浮かべて歓迎してくれた。

「久しぶりですね!体調が良くないって聞いてたんすけど、もう大丈夫なんですか?」
「うん。ごめんね、心配かけて」
「いえいえ、全然!ま、料理長は寂しそうだったっすけどね!」
「おい!寂しそうだったのはお前もだろう、ライリー!!」

 などといつもの厨房の賑やかさが懐かしい。

「アレイン、何が食べたい?なんでも作るよ?」

 じゃあ、とアレインがリクエストしたのは、チョコレートを使った焼き菓子だった。簡単にできるものをと、俺はチョコレート味のパウンドケーキを焼いた。

 チョコレートがオーブンで加熱されて、香ばしい匂いが広がる。いつもなら真っ先に味見をするのだが、やっぱり今日は食べたいと思えなかった。

 厨房にある椅子とテーブルで、アレインと厨房のみんなが美味しそうにパウンドケーキを食べている姿を眺めた。美味しい焼き菓子と紅茶と、楽しげな笑い声。

 急激に過去の記憶が蘇った。

 楽しげに焚き火を囲んで談笑する吸血鬼たち。俺はその焚き火にあたることも許されていなくて、寒くて暗い端っこの木の下で、いつも賑やかな彼らを見ていた。

 どうして自分は彼らとは違うのか?

 ただの食糧としてここにいるのはわかってる。それでも、少しだけ、もう少しだけ、暖かいところへ入れて欲しかった。たまにでいいから、普通の会話がしたかった。おはようとか、おやすみとか、そんな一言でもよかったんだ。

 吸血鬼たちにとって、俺はただの食糧だった。会話する必要もない。適当に世話をして、死んだらそれでしまいだ。

 ここでも同じなんだろうな。俺は彼らと同じにはなれない。なんて、思考がぐちゃぐちゃでまた暗いことを考えている。嫌な奴だな、俺って。少なくともアレインたちは、俺を無視したり暴力を振るったりしないのに。

 贅沢な悩みなのかもしれない。

 というか、俺は何を得たら満足するんだろう?

 吸血鬼になって、結構な自由は手に入れた。それまで出来なかったことをやった。人間の時には叶わなかったから、人間みたいな暮らしを手に入れて、人間の友達も作った。人間らしく働いて、休日を過ごした。

 まさかこんなことになるとは思わなかったけれど。

「ハズキ、このケーキすごく美味しい。また作ってくれる?」
「うん。いつでも、アレインが欲しい時に作るよ」

 屈託のないアレインの笑みに、上手に笑顔を返せたかはわからない。でも彼が満足そうならそれでいいや。美味しいなら、別に、自分で味が分からなくてもそれでいい。
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