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第九章 沙保里

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池袋の外れ、ビルの地下にライブハウスはあった。
普段は午後3時Openの店を、午前中だけ借り切った。
スタッフの手当、メンバーのギャラを考えれば赤字間違いなしの公演だ。

それでも踏み切ったのは、出雲沙織と月城美雪のデビューの為だと言われていた。
スタンディング300席、幻の公演間違いなし。
GWの真っ只中の午前10時、研究生ライブは始まった。

バレンタイン公演を成功させたメンバー10人がいる。
公演は順調に進み、新人二人も必死について行った。
ところがアンコール前の最後の曲で、アクシデントが起きた。
突然、電源が落ちて音楽、照明、エアコン全てが止まった。

その時、ステージではメンバーがアカペラで歌いながら、踊り続けた。
非常用照明の薄明かりの中、ステージが続く。
観客は手拍子とコーラスで音をアシストした。
混然一体の2分間だった。

一体化したステージが終わり、アンコールの休憩に入った。
すぐに電源トラブルは修復されて、アンコールの後、公演は無事に終了した。

「これがライブだ、何が起きても自分達で何とかする。
今日のメンバーは、一生忘れない体験をした。
観客もライブに参加した実感があっただろう。
これだけでも、無理をして公演をやった甲斐があった」
春木プロデューサーも、絶賛だった。

二日目はトラブルも無く、順調に終わった。
GWの最終日、研究生ライブは千秋楽だ。
出雲真凛はオタクの格好をして、メガネにキャップを被った。
もちろんノーメイクで、只の男の子だ。

ギュウギュウ詰めのフロアで、ステージを見ていた。
公演が始まり、爆発的な興奮状態でステージが始まった。

狭いステージにひしめき合う様に、メンバーがいる。
その最後列で、沙織と美雪が踊っていた。
オープニング4曲が終わり、自己紹介MCがあった。
その後、少人数のユニットになったが、3曲目と4曲目に連続して沙織が出た。
本来なら、4曲目だけのはずだった。
何が起きたか、アナウンスもなく公演は終了した。

沙織のデビュー公演を見届けて、俺はライブハウスを後にした。

「やれる、他のメンバーに負けてない」
そう俺には見えた。

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