私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

文字の大きさ
2 / 21
私の婚約者は

第二話 兄と皇太子殿下

しおりを挟む



 皇太子である彼に、公の場での正式なカーテシーをする。


 頭を上げるように言われ、顔をあげると、そこにはいつも通り笑みを浮かべた彼。でも、その瞳には、隠しきれない怒りが宿っている。


 彼はそのまま私の隣へ来て、私を抱き寄せ、『リア』と私の愛称を耳元で甘く囁き、自身の愚弟に代わり謝罪をする。

 (うぅ。私がエディック殿下の声好きだってわかってやってる!)


 「すまない。嫌な思いをさせたな。アレクは馬鹿だ馬鹿だとは思っていたが、ここまでとは思っていなかったんだ」


 第三皇子たる彼の腹違いの弟をそう軽く貶しながら、謝罪を口にし、彼は私を離さない。しかし、それを許さない者がいた。
 その人物は、わざとらしく、咳払いをしたかと思うと、力づくでエディック殿下を私から引き離した。


 「殿下。過度な接触はおやめ下さい」


 ニッコリと目が笑ってない笑顔でそう言った、エディック殿下を私から引き離した人物。その人物とは私の実の兄、ヴィンセント・レンドールだ。
 私が桜色の髪にエメラルドのような深い緑色の瞳を持ち、母様そっくりな儚げ系美少女なのに対して、ヴィンセント(ヴィンス兄様)は父様に似ていて、銀髪にアイスブルーの瞳の冷たい美貌の持ち主だ。父様も同じ色の冷たい美貌を持ち、自身の懐に入れた者達以外には冷酷になれるが故に、氷の宰相と恐れられているのだが、ヴィンス兄様はそんな父様の遺伝子を受け継いでいるのがよく分かる性質と容姿だ。
 ヴィンス兄様はエディック殿下の側近候補(ほぼ確定)だ。幼い頃から、将来皇帝になるための教育を受けていたエディック殿下に対して、ヴィンス兄様はその側近になるための教育を受けていた。元々生まれた時から側近候補だったヴィンス兄様なので、幼い頃から、信頼関係を育むために2人(ヴィンス兄様とエディック殿下)はよく一緒に行動していた。そして、私は、前世を思い出した後には、ヴィンス兄様に引っ付いて皇宮について行き、前世の時から大好きだったエディック殿下(とついでにヴィンス兄様)の後をちょこちょこ雛鳥のようについて回ったというわけだ。だから、ヴィンス兄様とエディック殿下は主従という関係だけでなく、幼馴染みで気の置けない仲だ。



 「これは周りへの牽制だよ。リアを私のものだとアピールしておかないと、また勘違いしたものが出てくるかもしれない。だから、いいだろう?ヴィンス」


 いつも正式な場では私のことをアメリア嬢と他人行儀な呼び方をする彼。だが、今は普段呼ぶように私のことを『リア』と愛称で呼び、再び私を自らの腕の中に収め、にっこりと笑顔でそうヴィンス兄様に告げるエディック殿下。


 (これは、かなり頭にきてるな)

 ヴィンスが真っ先に思ったのはそれだ。ヴィンスは、エディック殿下の表情を見て、表情とは裏腹に、普段リアを見る時には甘く妖しげな色気を携えているそのアメジストのような綺麗な深い紫色の瞳は、今は完全に冷えきっていることに気づいたからだ。そして、ヴィンスはこれは殿下を止めるのは無理だと諦めた。ご愁傷さま、アレキシス殿下。まあ、リアに迷惑かけた罪は重いし、俺も許すつもりはないけどな。そう思いつつも、ヴィンスはエディック殿下から目をそらす。


 「兄上!?こいつが兄上のものってどういうことですか!?それに、馬鹿って、何でですか!?」


 アレキシス殿下のその言葉を聞いて、エディック殿下の彫刻のように整ったその顔から、一瞬、先程まで貼り付けていた笑みが消え、表情という表情全てが消えたように見えたが、ほんの僅かな瞬きの間には、既に元のような、いや、先程よりも深い笑みを浮かべている。


 (あれ?今、一瞬だけ、笑顔が消えた…?気の所為?)

 全く気の所為ではないが、ついそう思いたくなる程には、今、エディック殿下は怒っている。
 ぶっちゃけこわい。

 普段のエディック殿下を知るものは、きっと私に賛同してくれるだろう。現に、ヴィンス兄様はアレキシス殿下を哀れむような目で見つつも、ってあれ?ヴィンス兄様も怒ってる?いやいや、ここでヴィンス兄様が止めなきゃ一体誰がエディック殿下を止めるの!?
 あ、やっぱりそうだよね!?父様の直属の部下さん!(マリウスさん。27歳既婚者。苦労人なイケメンさん。来月第一子が生まれるらしい)彼も、エディック殿下の普段の姿をある程度知っている1人だが、顔を青くして、今にも倒れそうなのが遠目でも分かる。


 「さっき言った通りだ」


 そうエディック殿下に言われても、納得出来ないような表情を浮かべているアレキシス殿下。


 (これは、お前、絶対分かっていないだろう)


 私はそう思ったが、エディック殿下もそう思ったからか、呆れながらもわざわざ、だいぶ端折って説明をしてあげるエディック殿下。


 「自分のしていることが馬鹿だと気づかないから、お前は馬鹿なんだ。あと…」



 そこまで言って、エディック殿下は、サラサラなプラチナブロンドの髪を揺らしながら、父様と陛下がいる方を振り返る。


 (?エディック殿下何するつもりなんだろう?)




しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

処理中です...