私はあなたの婚約者ではないんです!

凪ルナ

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女神の審判と婚約者

第七話 婚約者の真の制裁の始まり・下

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 私と共に振り返ったエディック殿下は、真っ直ぐにカレン嬢を見据え、ゆっくりと口を開く。


 「申し訳ないが、リアを傷つけると言うなら、私はたとえ女性と言えども許すことはできない」


 一言。エディック殿下はそれだけ言い、その形のいい唇からは聞き慣れない呪文のようなものが紡がれる。エディック殿下は簡単そうに呪文を唱えているが、その実、かなりこの呪文の言語が難しいことを私は知っているため、エディック殿下すごいなーかっこいいなーと思いながら、どこを見ても完璧な容姿の彼を眺め、現実逃避に走る。カレン嬢は目をぱちくりと瞬きをすることしか出来ていない。アレキシス殿下の顔色は呪文が進むごとに可哀想なくらい青白くなっていく。


 最後、大昔の言語で恐らく『女神の審判』を意味する力あることばをエディック殿下が口にした時、長いようで短いその呪文が終わった。


 その瞬間、辺りが白い眩い光に包まれ、目を瞑った一瞬で、私とエディック殿下、アレキシス殿下、そして、カレン嬢の四人は、さっきまでいた場所とは切り離された空間にいた。こちらからは向こう側は認識出来るが、向こうからこちらを認識出来るかは分からない。


 『わたくしを呼び出したのは貴方ね?エディック』

 「ああ。久しぶりだな?女神」


 エディック殿下を認識し、ゆったりと微笑む緑色の新緑を思わせる瞳を持ち、波打つ金糸の髪を背中に流している美しい女性。彼女こそがこの世界の女神、エレーナだ。


 『そうね。まさかこんなところでび出されるなんて思ってなかったわ』


 女神エレーナの言葉にそうでしょう、と頷くエディック殿下。そんなエディック殿下に、親しみやすい雰囲気で接していた女神は、その雰囲気を真剣なものに変えた。二人のやり取りを見守ることしか出来ない私は、女神を直視しないように二人の様子を伺う。エディック殿下はこれからの事を想像しているのか、とても機嫌が良さそうに見える。


 『それで?わたくしを女神の審判で喚び出すってことは、それだけの理由があるのよね?』

 「それはもちろん」


 女神エレーナの言葉にエディック殿下は待ってましたと言わんばかりに深い笑みを浮かべてみせた。アレキシス殿下が小さくヒィと悲鳴をあげた。顔色はもう青白いを通り越し土色だ。カレン嬢はそもそも状況についていけてない。私?私はアレキシス殿下に哀れみの目を向けることしか出来ないよ。もうここまで来て、エディック殿下をとめるとか無理無理。私が関わる彼の暴走は、私の意見無視で進んでいくから私はとめられないよ。一度、私に迷惑というかちょっかいをかけてくる男がいて私が困っていた時、エディック殿下が対処してくれたんだけど、その時も、エディック殿下がブチ切れちゃって、私はむしろとめる側に回ったんだけど、その時、エディック殿下がなんで怒らないんだって聞いてきたことがあったの。その問いに、私はエディック殿下が私の事で怒ってくれること自体嬉しいからって言ったら呆れた顔をされたんだよね。それ以来、私の意見は聞かれなくなった。と、まあ、そんなわけで、私がとめることは不可能なわけ。


 『なるほど、アメリアのことね。貴方が他のことにこれを使うなんて考えられないもの』


 エディック殿下の笑みに、ふむと少し考えた様子の女神は、私をちらりと視界に入れるとすぐに自身が喚び出された理由をさとり、彼女も微笑む。エディック殿下は女神の答えにあえて何も言わない。


 『ふふ。そうね。アメリアはそのことでそんなに怒らなかったんでしょう?でも、貴方にとってそれは許されることではなかった。違うかしら?』


 しかし、女神は確信したように、今までの成り行きを見てきたかのようにスラスラと自身の考察を述べる。私はあまりにもドンピシャな答えに、思わずパチパチと拍手をする。そんな私にエディック殿下は甘く微笑み、女神に「そうだな。合ってますよ」と肯定を示した。やっぱり、と自分の考えが当たっていることに女神は、両の手のひらを合わせて喜んだ。エディック殿下は、「私はリアを傷つけるものは許せないからな」と私の耳元で囁いてきた。相変わらず彼の声に弱い私は、思わず顔を赤らめさせ、そんな私を愛しくて仕方ないといった目で、顔で見つめてくるエディック殿下にさらに私は顔だけでなく耳まで真っ赤になる。


 『それにしても…。本当にあの子達とそっくりね』


 そんな私達の様子を実は見ていて、そう、思わずといった様子で小さく零した女神エレーナの言葉は、見つめ合っている私達の耳には入っていなかったのだった。


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