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私とアレキシス殿下
第十一話 女神の審判・その④
しおりを挟む「ライ、様、が…?」
話を聞いて、つい、昔のようにライフォード殿下を愛称で呼んでしまった。
信じられない、と、確認するように呟く私に、アレキシス殿下は、「本当のことだ」と辛そうに答えた。その様子を見て、ああ、本当のことなんだ、とそう思えた。
ああ、今思えば、あの日の後から、あの時期、ライフォード殿下を遊びに誘おうとしたら、みんなからとめられていたなあ。
そっか。ほんとう、なんだ。わたし、なにもしらなかった…!
衝撃でそれ以上何も言えないで、泣きそうな私の肩を労わるように抱きよせ、自分の肩に私の頭を押し付けたエディック殿下。
思わずエディック殿下を見上げると、コクリと頷かれる。
これは、ーー泣いてもいい、のしるし。
エディック殿下の顔を見て、ダムが決壊したように涙が溢れる。
少し経つと、収まったが、まだグスグスと鼻を鳴らしている。
「なんでそんなに泣くわけ?死んじゃったわけじゃないんでしょう?」
ここで水を差してきた、空気が読めないのが、今まで大人しく話を聞いていたカレン嬢だ。
「知らない間に、幼馴染みとも言える友達が殺されかけていたんだ。悲しく思うのは当然だし、リアは知らなかったことに悔しさを覚えたんだよ」
すかさず、カレン嬢に私の心の中を代弁したかのように物申したのが、エディック殿下だった。さらには、女神エレーナにも、『この子、本当にそう思ってるのね…』と若干引き気味で言われてしまい、カレン嬢は何も言えずにぐっと押し黙ってしまった。私は、私の気持ちを分かってくれたのが嬉しくて、頬をゆるめた。そんな私に、伝えない、ということを選んだことに対してエディック殿下が謝る。エディック殿下はライフォード殿下のこと、知っていたんだな。
「リア。すまない。君に心配かけたくないという、ライの気持ちを優先させて、君が後で知った時の気持ちを考えずに、君にライが暗殺されかけたことを伝えなかった」
眉を下げ、怒られた子犬のような顔で私に謝るエディック殿下に、幼い頃のことを思い出す。
「いえ!この件については仕方ないです!皇族暗殺未遂なんて大事なこと、きっと重要機密事項でしょう?」
「だが、君には知る権利はあったから」
いやいや、そうは言っても漏らしちゃいけない情報だったと思うよ?え、でも、私も近い将来皇室に入るから大丈夫だって?そうかもねぇ。
「そうかもしれないけど、ライは私に心配されたくなくて、私に知って欲しくなかったんでしょう?それなら仕方ないですよ」
そう言っても、それでもなお、食い下がろうとするエディック殿下。
もう、仕方ないなあ。
ーー「だから、謝らないで?エディ」
エディック殿下の頬に手を添えて、そう伝える私に、「君には勝てないな」と眉を下げたまま微笑んだエディック殿下は、目を細めて、私を甘く蕩けそうな目で見つめた。「エディ」とは、私が幼い頃呼んでいたエディック殿下の愛称。
「兄上もリアも、二人の世界に入ってないで、話、続けますよ?」
ハァとため息をつきながらのアレキシス殿下の言葉に、ハッとなった私とエディック殿下はすぐに謝る。
「あー、何の話だったか?」
エディック殿下の言葉に、少々呆れながらもアレキシス殿下は続ける。まあ、エディック殿下は「何の話」なんて聞いているけど、たぶん本当は話の内容全部覚えているんだよなあ。
「では、私からカレン嬢に一つ聞きたいことがあるんですが、兄上、この場をお借りして聞いてもよろしいでしょうか?」
そう伺うアレキシス殿下にエディック殿下は軽く頷いて許可を出す。
「まず、私はライフォード兄上暗殺未遂の黒幕、ライ兄上の推測ですが、これを私の実の母上エイダとして捜査、証拠を掴むために動いていました」
「ああ。そうだったな」とエディック殿下が相槌をうち、私は「へぇー」と目を丸くして、驚きながら話を聞く。知らなかったー。って、ライフォード殿下が暗殺されかけたことも知らなかったから仕方ないのか…。
「そこで、捜査の途中、カレン嬢と接触、洗脳され、捜査は中断。その中で、カレン嬢、君は私の母上と接触していたよな?何を話していた?」
冷めた目でカレン嬢を見つめるアレキシス殿下に対して、カレン嬢は無表情で何も瞳に写していないまま何も言わない。堪えきれなくなったアレキシス殿下が、涙を滲ませ激情に任せて叫んだ。
「言えっ!!!」
それは、自分自身のやりきれなさと悔しさの入り交じった声だった。
───────
どうも、作者です。
さてさて、アレキシス殿下は、ライフォード殿下(アレクと同じ歳の異母兄)暗殺未遂事件の黒幕を追っています。というか、証拠を掴むために動いています。アレキシス殿下はライフォード殿下と仲が良かったです。
しかし、黒幕は自身の母。
苦悩も大きいのです。
何故か闇深いキャラになってしまった。
あと、一つ。
アレキシス殿下の母上は色々やらかしています。
これ以上ここで書くと多大なるネタバレになりかねないのでこれくらいで。
詳しいことは後々、明らかになるはず。
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