6 / 12
白い彼岸花
しおりを挟む
杉林が開けて、一面に彼岸花の群生が広がっていた。びっしりと密集し夕暮れ前の光を浴び、燃え上がっているよう。
その真ん中に、一輪だけ白い彼岸花がある。幻みたい。
「毎年、一輪だけ白い花が咲くんだ」
振り返ると、彼は静かに頷いた。近くで見てもいいみたい。
アルビノなのか品種なのか。私はかつて動画で見た白い孔雀を思い浮かべていた。
白い彼岸花は、赤の中で映える花を左右に広げ悠々と咲き誇っていた。
さく、と花畑に踏み込んできた周也が呟く。
「僕みたいだと思ってきた。形は同じなのに色が抜けていて、この赤の中に混ざれない」
かける言葉が見つからない。
村で神と同じ扱い、人の営みから外された孤独が空気伝いに流れてくるよう。
戸惑っている私の前で、躊躇いもなく白彼岸花が手折られる。
「あ……」
茎を短くしたそれを、周也は私の髪に挿した。
「いいの……? たった一輪なのに」
「君は特別だから、この花が似合う」
「そんな……私、そんな資格ない」
「いいや、あるよ。僕はずっと君を待っていた」
「え……」
疑問に固まる私の前で、周也はお面をずらす。
(素顔は見せられないんじゃなかったの……!?)
「神錆びの巫女と二人きりのときは、外すことが許される」
私の方をまっすぐ向いた周也は、メインヒーローの守直とよく似た──もっと静かで繊細な面立ちの美青年だった。
その美形が、熱っぽく私を見てくる。
「上磨の神主は生涯清らかでいなければならないけれど巫女は──」
「巫女は別?」
「うん……巫女は清らかだから、交わっても汚れない。巫女が選んでくれた時だけ、神主は結婚を許される」
「そうだったんだ……」
「幼い頃に教えられて」
周也の乾いた手のひらが、私の頬を包む。
「ずっと夢に見ていた。そしたら、やってきた君は清らかに気高くて。あの座敷で君が僕を見た一瞬で、君がいいって思った。君が、僕を選んでくれて本当に良かった……」
……いいんだろうか。そんな重い積年の想いを受け取ってしまって。
これまでの人生で思い描き続けてきた唯一妻になれる人、なんて。
目を合わせているとその真剣な想いに吸い込まれてしまいそうだから、私は彼岸花たちに視線を落とす。
──そこで強く抱き締められた。
「急でごめんね。結婚式も……明日にはすることになっているし」
急というなら、この抱擁のほうが急……!
でも、不思議と不快感がない。
夕暮れの肌寒さに周也の体温が心地よい。シャツから香る彼の……杉や白檀みたいな落ち着く匂いですっぽり包まれ、このまま動かず、ずっとこうしていたいと思ってしまう。離れたくない。
さっき垣間見えた彼の孤独に、寄り添ってあげたい、という気持ちは私の中に確かにある。
つい顔を上げて周也を見た。
ああ──彼から目をそらせない。
静かに唇が近づいて、触れた。
その真ん中に、一輪だけ白い彼岸花がある。幻みたい。
「毎年、一輪だけ白い花が咲くんだ」
振り返ると、彼は静かに頷いた。近くで見てもいいみたい。
アルビノなのか品種なのか。私はかつて動画で見た白い孔雀を思い浮かべていた。
白い彼岸花は、赤の中で映える花を左右に広げ悠々と咲き誇っていた。
さく、と花畑に踏み込んできた周也が呟く。
「僕みたいだと思ってきた。形は同じなのに色が抜けていて、この赤の中に混ざれない」
かける言葉が見つからない。
村で神と同じ扱い、人の営みから外された孤独が空気伝いに流れてくるよう。
戸惑っている私の前で、躊躇いもなく白彼岸花が手折られる。
「あ……」
茎を短くしたそれを、周也は私の髪に挿した。
「いいの……? たった一輪なのに」
「君は特別だから、この花が似合う」
「そんな……私、そんな資格ない」
「いいや、あるよ。僕はずっと君を待っていた」
「え……」
疑問に固まる私の前で、周也はお面をずらす。
(素顔は見せられないんじゃなかったの……!?)
「神錆びの巫女と二人きりのときは、外すことが許される」
私の方をまっすぐ向いた周也は、メインヒーローの守直とよく似た──もっと静かで繊細な面立ちの美青年だった。
その美形が、熱っぽく私を見てくる。
「上磨の神主は生涯清らかでいなければならないけれど巫女は──」
「巫女は別?」
「うん……巫女は清らかだから、交わっても汚れない。巫女が選んでくれた時だけ、神主は結婚を許される」
「そうだったんだ……」
「幼い頃に教えられて」
周也の乾いた手のひらが、私の頬を包む。
「ずっと夢に見ていた。そしたら、やってきた君は清らかに気高くて。あの座敷で君が僕を見た一瞬で、君がいいって思った。君が、僕を選んでくれて本当に良かった……」
……いいんだろうか。そんな重い積年の想いを受け取ってしまって。
これまでの人生で思い描き続けてきた唯一妻になれる人、なんて。
目を合わせているとその真剣な想いに吸い込まれてしまいそうだから、私は彼岸花たちに視線を落とす。
──そこで強く抱き締められた。
「急でごめんね。結婚式も……明日にはすることになっているし」
急というなら、この抱擁のほうが急……!
でも、不思議と不快感がない。
夕暮れの肌寒さに周也の体温が心地よい。シャツから香る彼の……杉や白檀みたいな落ち着く匂いですっぽり包まれ、このまま動かず、ずっとこうしていたいと思ってしまう。離れたくない。
さっき垣間見えた彼の孤独に、寄り添ってあげたい、という気持ちは私の中に確かにある。
つい顔を上げて周也を見た。
ああ──彼から目をそらせない。
静かに唇が近づいて、触れた。
0
あなたにおすすめの小説
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
転生したら4人のヤンデレ彼氏に溺愛される日々が待っていた。
aika
恋愛
主人公まゆは冴えないOL。
ある日ちょっとした事故で命を落とし転生したら・・・
4人のイケメン俳優たちと同棲するという神展開が待っていた。
それぞれタイプの違うイケメンたちに囲まれながら、
生活することになったまゆだが、彼らはまゆを溺愛するあまり
どんどんヤンデレ男になっていき・・・・
ヤンデレ、溺愛、執着、取り合い・・・♡
何でもありのドタバタ恋愛逆ハーレムコメディです。
執着系狼獣人が子犬のような伴侶をみつけると
真木
恋愛
獣人の里で他の男の狼獣人に怯えていた、子犬のような狼獣人、ロシェ。彼女は海の向こうの狼獣人、ジェイドに奪われるように伴侶にされるが、彼は穏やかそうに見えて殊更執着の強い獣人で……。
【完結】大学で人気の爽やかイケメンはヤンデレ気味のストーカーでした
あさリ23
恋愛
大学で人気の爽やかイケメンはなぜか私によく話しかけてくる。
しまいにはバイト先の常連になってるし、専属になって欲しいとお金をチラつかせて誘ってきた。
お金が欲しくて考えなしに了承したのが、最後。
私は用意されていた蜘蛛の糸にまんまと引っかかった。
【この物語はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません】
ーーーーー
小説家になろうで投稿している短編です。あちらでブックマークが多かった作品をこちらで投稿しました。
内容は題名通りなのですが、作者的にもヒーローがやっちゃいけない一線を超えてんなぁと思っています。
ヤンデレ?サイコ?イケメンでも怖いよ。が
作者の感想です|ω・`)
また場面で名前が変わるので気を付けてください
憐れな妻は龍の夫から逃れられない
向水白音
恋愛
龍の夫ヤトと人間の妻アズサ。夫婦は新年の儀を行うべく、二人きりで山の中の館にいた。新婚夫婦が寝室で二人きり、何も起きないわけなく……。独占欲つよつよヤンデレ気味な夫が妻を愛でる作品です。そこに愛はあります。ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる