6 / 143
第2話:宣戦布告
Aパート(1)
しおりを挟む
火星の赤道付近に広がるタルシス地方。その地名は聖書から世界の西の果てにある土地であるタルシシュから名付けられた。そしてタルシス地方には火星、いや太陽系最大と言われるオリンポス山がそびえている。標高25,000メートルとエベレストの三倍以上の高さを誇るオリンポス山は休火山であり、その高さから周囲には雲が発生し雨が降るため、その麓は溶岩台地ではあったが、植物が生い茂るのにふさわしい条件が整っていた。またオリンポス山から流れ出す豊富な水は、火星を縦横に走る運河に供給されていた。
そのオリンポス山から少し南に下がったところにあるタルシス三山と呼ばれる三つの火山との間に、火星最大の鉱山都市オリンポスが存在する。
火山であるオリンポス山は地中から様々な鉱物資源をはき出しており、それが巨大な鉱床となって存在している。オリンポスはその鉱床から稀少な金属を掘り出し、加工して地球へ送り出すためにできた都市である。地球資本の企業が多数存在し、火星資本の企業は鉱山開発に入れないという、地球から最も搾取されていると実感できる都市であった。
そんな都市であるからこそ、反地球連邦政府組織は、そこを拠点としたのであった。
オリンポスの中央には、火星最大のオフィスビルと呼ばれる巨大な建造物…オリンポス行政ビルがそびえ立っていた。そのビルの外観は独特で、正五角形と正六角形が集まった三十二面体であり、オリンポス市民は、ビルのことをサッカーボールの愛称で呼ぶのだった。
そのサッカーボールの地下に火星革命戦線の司令部が置かれていた。反地球連邦の組織の拠点が、地球資本企業も入っている行政ビルの地下に存在していることは、もの凄く非常識な話であり、またその存在が地球連邦政府に漏れていない事が、火星の人々がいかに地球連邦政府を嫌っての証明であった。
そして現在、火星革命戦線の司令部には火星革命戦線の主要メンバーが集まり、ヘリウム攻略作戦の状況確認が行われていた。
黒縁眼鏡をかけた、神経質そうなアジア系の男性。年の頃は三十半ばと思われるその男性が、火星革命戦線のリーダー、サトシ・チーバであった。
火星革命戦線というべたなネーミングは、彼が強固に主張した物であり、他のメンバーの猛烈な反対があったにもかかわらず、リーダー権限で強引に決めた物だった。
予想通り、そのネーミングは火星住民に受けは良くなかったが、その反地球連邦政府の過激な活動とサトシの妙なカリスマによって、オリンポス住民の支持を集めていた。
「おだまりっ! 火星革命戦線は我々マーズリアンというプロレタリアートが、地球連邦政府というブルジョアに対して、我らのリビドーを知らしめるための魂のネーミングなのだ。それを馬鹿にする物には制裁あるのみなのよ…」
…ナレーションに訳の分からない理屈とオカマ口調で突っ込みを入れるサトシだった。
そんなサトシの正面に座るヘルメットを被っているような角刈り頭で、いかにも軍人といった顔つきである小太りな男は、サトシの訳の分からない演説を呆れた顔で見ていた。
「メガ…いやチーバ、毎回思うんだけど、お前って、それ誰にに突っ込んでるんだ?」
角刈りの男の名は、イスハーク・ムハマンド。オリンポス自警団のトップで、見た目通り火星革命戦線の軍事面を仕切っている人物であった。
ちなみにイスハークが、サトシのことをメガネと呼びそうになったのは、彼が現在では近視の矯正が簡単な手術で治るのにメガネをかけているためである。
火星革命戦線が地下組織時代、サトシは仲間内からは親しみを込めてメガネと呼ばれていたのだが、オリンポス住民の支持を得て、ある意味表の組織となった現在、あだ名で呼ばれることを禁止したのだ。
「誰でも良いだろ。それでイスハーク、ヘリウム攻略部隊の進行状況はどうなっているんだ?」
サトシは、三週間前に送り出したヘリウム攻略部隊の状況について、イスハークに尋ねた。
「ヘルメットって呼ぶなよ。それで、攻略軍の進行状況だが、今のところ順調に進んでいるな。あと少しでヘリウムはこちらの手に落ちるだろう。そうなれば他の都市も抵抗を止めて、俺達の軍門に降るだろうな」
サトシはイスハークの言葉に頷き、
「ふむ、やはりアレを投入して正解だったな」
と独り言ちた。
しかしそんなサトシに対して、
「いや、攻略軍が勝っているのはアレのおかげだけじゃないぞ。各都市の反地球連邦組織が、なけなしの戦力を火星革命戦線に出してくれたおかげだからな。彼等のおかげで、火星にいる地球連邦軍を圧倒できる数をそろえられたんだ。そこは感謝しないと…。確かに俺もアレは凄いと思うが、やっぱり戦いは数だよ。お前もそう思うだろアフロ?」
イスハークが言うように、火星に来ている地球連邦軍人の数は非常に少なかった。火星が遠いこともあるが、火星には碌な軍事力がないため、それなりの数のロボット兵器とそれを操る軍人さえいれば十分というのが地球連邦政府の軍事戦略だった。実際それで今まで火星の統治は問題がなかったのだ。
「誰がアフロだ! 俺の名はジョージだ! それに彼奴ら戦力を出すのに見返りを要求してきたんだ、ありゃ同士じゃなくて傭兵だろ」
テーブルをバンと叩いて「アフロ」呼ばわりを抗議したのは、アフロヘアの馬面な白人男性だった。もちろんアフロはあだ名で、本名はジョージ・バイロン。主に火星革命戦線の財政、経済面を支えていた。
「いやいや、戦いは数じゃなくて質だろ?」
アフロ、いやジョージに替わってイスハークに異を唱えたのは、隣にいるジョージの肩より背が低い小柄な男だった。
「いや、戦いは数だって、有名な名言があるだろ。ズールイ」
「またイスハークの古典の蘊蓄が始まったな。なら、鋼の城のスーパーロボットの方も覚えておけよ。あと、次にチビと言ったら殺すぞ」
そう言いながら、ズールイはイスハークにナイフをちらつかせて凄むのであった。
ズールイは、中国系移民であり、オリンポスの裏組織をまとめる犯罪グループの大幹部である。他の三人と異なり、火星革命戦線には最近になって参加したメンバーである。
ズールイはその小柄な体格にコンプレックスを持っており、チビと言われるのを最も嫌っており、彼の背の低さを馬鹿にした物は、火星の運河に浮かぶか沈むと言われている。
またズールイは、地球の古典メディアである巨大ロボット物や巨大怪獣物の映像マニアであり、同じ古典メディアでもリアル路線ロボットや軍事映像マニアであるイスハークとは良くその趣味の方向性の違いで喧嘩となっていた。
そのオリンポス山から少し南に下がったところにあるタルシス三山と呼ばれる三つの火山との間に、火星最大の鉱山都市オリンポスが存在する。
火山であるオリンポス山は地中から様々な鉱物資源をはき出しており、それが巨大な鉱床となって存在している。オリンポスはその鉱床から稀少な金属を掘り出し、加工して地球へ送り出すためにできた都市である。地球資本の企業が多数存在し、火星資本の企業は鉱山開発に入れないという、地球から最も搾取されていると実感できる都市であった。
そんな都市であるからこそ、反地球連邦政府組織は、そこを拠点としたのであった。
オリンポスの中央には、火星最大のオフィスビルと呼ばれる巨大な建造物…オリンポス行政ビルがそびえ立っていた。そのビルの外観は独特で、正五角形と正六角形が集まった三十二面体であり、オリンポス市民は、ビルのことをサッカーボールの愛称で呼ぶのだった。
そのサッカーボールの地下に火星革命戦線の司令部が置かれていた。反地球連邦の組織の拠点が、地球資本企業も入っている行政ビルの地下に存在していることは、もの凄く非常識な話であり、またその存在が地球連邦政府に漏れていない事が、火星の人々がいかに地球連邦政府を嫌っての証明であった。
そして現在、火星革命戦線の司令部には火星革命戦線の主要メンバーが集まり、ヘリウム攻略作戦の状況確認が行われていた。
黒縁眼鏡をかけた、神経質そうなアジア系の男性。年の頃は三十半ばと思われるその男性が、火星革命戦線のリーダー、サトシ・チーバであった。
火星革命戦線というべたなネーミングは、彼が強固に主張した物であり、他のメンバーの猛烈な反対があったにもかかわらず、リーダー権限で強引に決めた物だった。
予想通り、そのネーミングは火星住民に受けは良くなかったが、その反地球連邦政府の過激な活動とサトシの妙なカリスマによって、オリンポス住民の支持を集めていた。
「おだまりっ! 火星革命戦線は我々マーズリアンというプロレタリアートが、地球連邦政府というブルジョアに対して、我らのリビドーを知らしめるための魂のネーミングなのだ。それを馬鹿にする物には制裁あるのみなのよ…」
…ナレーションに訳の分からない理屈とオカマ口調で突っ込みを入れるサトシだった。
そんなサトシの正面に座るヘルメットを被っているような角刈り頭で、いかにも軍人といった顔つきである小太りな男は、サトシの訳の分からない演説を呆れた顔で見ていた。
「メガ…いやチーバ、毎回思うんだけど、お前って、それ誰にに突っ込んでるんだ?」
角刈りの男の名は、イスハーク・ムハマンド。オリンポス自警団のトップで、見た目通り火星革命戦線の軍事面を仕切っている人物であった。
ちなみにイスハークが、サトシのことをメガネと呼びそうになったのは、彼が現在では近視の矯正が簡単な手術で治るのにメガネをかけているためである。
火星革命戦線が地下組織時代、サトシは仲間内からは親しみを込めてメガネと呼ばれていたのだが、オリンポス住民の支持を得て、ある意味表の組織となった現在、あだ名で呼ばれることを禁止したのだ。
「誰でも良いだろ。それでイスハーク、ヘリウム攻略部隊の進行状況はどうなっているんだ?」
サトシは、三週間前に送り出したヘリウム攻略部隊の状況について、イスハークに尋ねた。
「ヘルメットって呼ぶなよ。それで、攻略軍の進行状況だが、今のところ順調に進んでいるな。あと少しでヘリウムはこちらの手に落ちるだろう。そうなれば他の都市も抵抗を止めて、俺達の軍門に降るだろうな」
サトシはイスハークの言葉に頷き、
「ふむ、やはりアレを投入して正解だったな」
と独り言ちた。
しかしそんなサトシに対して、
「いや、攻略軍が勝っているのはアレのおかげだけじゃないぞ。各都市の反地球連邦組織が、なけなしの戦力を火星革命戦線に出してくれたおかげだからな。彼等のおかげで、火星にいる地球連邦軍を圧倒できる数をそろえられたんだ。そこは感謝しないと…。確かに俺もアレは凄いと思うが、やっぱり戦いは数だよ。お前もそう思うだろアフロ?」
イスハークが言うように、火星に来ている地球連邦軍人の数は非常に少なかった。火星が遠いこともあるが、火星には碌な軍事力がないため、それなりの数のロボット兵器とそれを操る軍人さえいれば十分というのが地球連邦政府の軍事戦略だった。実際それで今まで火星の統治は問題がなかったのだ。
「誰がアフロだ! 俺の名はジョージだ! それに彼奴ら戦力を出すのに見返りを要求してきたんだ、ありゃ同士じゃなくて傭兵だろ」
テーブルをバンと叩いて「アフロ」呼ばわりを抗議したのは、アフロヘアの馬面な白人男性だった。もちろんアフロはあだ名で、本名はジョージ・バイロン。主に火星革命戦線の財政、経済面を支えていた。
「いやいや、戦いは数じゃなくて質だろ?」
アフロ、いやジョージに替わってイスハークに異を唱えたのは、隣にいるジョージの肩より背が低い小柄な男だった。
「いや、戦いは数だって、有名な名言があるだろ。ズールイ」
「またイスハークの古典の蘊蓄が始まったな。なら、鋼の城のスーパーロボットの方も覚えておけよ。あと、次にチビと言ったら殺すぞ」
そう言いながら、ズールイはイスハークにナイフをちらつかせて凄むのであった。
ズールイは、中国系移民であり、オリンポスの裏組織をまとめる犯罪グループの大幹部である。他の三人と異なり、火星革命戦線には最近になって参加したメンバーである。
ズールイはその小柄な体格にコンプレックスを持っており、チビと言われるのを最も嫌っており、彼の背の低さを馬鹿にした物は、火星の運河に浮かぶか沈むと言われている。
またズールイは、地球の古典メディアである巨大ロボット物や巨大怪獣物の映像マニアであり、同じ古典メディアでもリアル路線ロボットや軍事映像マニアであるイスハークとは良くその趣味の方向性の違いで喧嘩となっていた。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える
ハーフのクロエ
ファンタジー
夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。
主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる