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第5話:陸の王者
Bパート(1)
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レイフが目覚めてから既に一週間が経過していた。その一週間の間にアルテローゼの機体はヴィクターの懸命の努力により、修理を終えていた。そして機体の修理が終わるまでの間、レイフは自分が生まれ変わったこの世界の知識や常識をレイチェルやネットから学んでいた。
そう、不思議なことにアルテローゼはストレージと接続しなくてもAIとして動作しており、それに生まれ変わる前の記憶を持っていた。
レイフが制御コアだけでAIとして動作していることを不思議に思ったレイチェルは、父親でありAI研究の第一人者であるヴィクターに訪ねたのだが、
「アルテローゼのAI制御コアは特殊なのだよ。詳しくは知らないが、何でも火星の衛星フォボスで見つかった特殊な結晶体を使った画期的な制御コアらしいのだ。いや、私も制御コアを作った技術者からそう教えられただけで、誰も制御コアを動作させられなかったのだよ。ハードウェアに問題が無ければソフトウェアが問題だということで、私が火星に呼ばれたのだよ。…まあ結局私も制御コアを動作させられなかったのだがね。本当にレイチェルはどうやってレイフ君を起動したのか…私が教えて貰いたいぐらいだよ」
と肩をすくめるだけだった。
「お父様。そんな怪しい制御コア使ったAIをロボット兵器に組み込んで大丈夫なのでしょうか?」
レイチェルは心配そうに整備用ハンガーに座っているアルテローゼを見上げた。
『儂の一体どこが怪しいのかね?』
そう言って、アルテローゼのカメラがチュイーンと焦点を合わせ、レイチェルの姿を捉える。どうやらレイフはネットでの情報収集に飽きて、レイチェルとヴィクターの会話に参加するつもりのようだった。
「何もかもが怪しいですわ。ストレージを持たないAIが、突然『自分は異世界の魔道士で、死んでしまったらロボット兵器のAIに転生したんだ』とか言い出すんですのよ。そんなAIを誰が信じるのですか? お父様もそう思いますわよね」
レイチェルは、金髪ドリルをギュルギュルとふるわせてレイフに抗議した。
「ああ、確かに転生という非科学的な話は信じられないな。しかし、あの機体を作り出した超常現象やコクピットに施されたフォーリングコントロールとかいう慣性制御技術。『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』と昔のSF作家が言ったが、現代の科学で説明できない現象だった。つまりあれは、今のところ魔法と言うしかないのだよ。では、魔法が存在するとなると、レイフ君の言っていることも本当なのかもしれないのだよ。本当に、こんな状況でなければ、もっと詳しく調査できるのに…」
ヴィクターは、アルテローゼが使った魔法現象を調査できない事にストレスが溜まっているのか、頭をガリガリと掻きむしった。
『魔法を知らないとは、この世界の人は無知なものだ。科学技術は誰もが使えて便利ではあるのは認めるが、魔法は科学技術ではできないことも可能なのだよ。儂の魔法を見れば、儂が魔道士だと言うことは一目瞭然ではないか』
レイフは自慢げにそういうが、彼のいた世界でも魔法を使えるのは限られた人間だけであった。それに帝国では、魔法を使える一部の人によって独裁的に民衆が支配されていたのだ。決して今の世界より魔法が支配する世界の方が良いとは言えないだろう。
『強者が弱者を支配するのは当然ではないか?』
「レイフ、誰に言っているのですか」
ナレーションに突っ込んだレイフに対して、レイチェルが不思議そうな顔をする。
『いや、こっちのことだ。それより、もう一度確認するが、レイチェルは本当にゴーレムではないのだな?』
「何度も私は正真正銘の人間ですわ。お母様と私の子供の頃の写真も見せましたでしょ」
『それはそうなのだが』
レイフはアルテローゼのセンサーを使い、何度もレイチェルの体をスキャンする。レイフは、レイチェルの心臓の鼓動や体温、体重やスリーサイズと体の隅々まで計測して、結論として彼女が人間だと確認するのだった。
『しかし、レイチェルは本当に儂が前世で製作したゴーレムにソックリなのだ。名前、顔、そして体の全てのサイズまで同じとは、どんな奇跡が起きればそんな事になるのか…魔法より不思議ではないか。まさに神の奇跡ではないか』
「…サイズですって?」
レイチェルは、自分の体を見て、そしてレイフが自分の体のサイズを計測していたことに気付くと、顔を真っ赤に染めた。
「レイフ、貴方にはデリカシーという物がないのですわね。…お父様、やはりレイフ…いえ、このデリカシーのないAIは、今すぐ消去すべきですわ」
レイチェルは、顔を真っ赤にして金髪ドリルをグルグルと回しヴィクターに詰め寄った。
「いやいや、レイフ君の知識は私にとって非常に魅力的なのだよ。魔法やゴーレムという技術の知識がデータとしてストレージに存在しない以上、その知識はレイフから直接聞くしか無いのだよ。それが終わるまで、レイフを消すのは研究者として認められぬのだよ」
「お父様は、研究と私の精神の安定のどちらが大切なのですか?」
「それは、研究の方が大切な…。おっと、軍の司令部から連絡があったようだ、研究所に戻らないと。ではレイフ君、また話を聞かせてくれたまえ」
ヴィクターは、研究の方が大切と言いかけて、レイチェルが怒りの表情を浮かべていることに気付いた。これは不味いと思ったヴィクターは、丁度かかってきた通信にかこつけて、慌てて研究所の方に逃げ出した。
「お父様。一人娘より研究の方が大事だなんて、どういうことですの?」
レイチェルは、逃げ出したヴィクターを追いかけていくのだった。
そう、不思議なことにアルテローゼはストレージと接続しなくてもAIとして動作しており、それに生まれ変わる前の記憶を持っていた。
レイフが制御コアだけでAIとして動作していることを不思議に思ったレイチェルは、父親でありAI研究の第一人者であるヴィクターに訪ねたのだが、
「アルテローゼのAI制御コアは特殊なのだよ。詳しくは知らないが、何でも火星の衛星フォボスで見つかった特殊な結晶体を使った画期的な制御コアらしいのだ。いや、私も制御コアを作った技術者からそう教えられただけで、誰も制御コアを動作させられなかったのだよ。ハードウェアに問題が無ければソフトウェアが問題だということで、私が火星に呼ばれたのだよ。…まあ結局私も制御コアを動作させられなかったのだがね。本当にレイチェルはどうやってレイフ君を起動したのか…私が教えて貰いたいぐらいだよ」
と肩をすくめるだけだった。
「お父様。そんな怪しい制御コア使ったAIをロボット兵器に組み込んで大丈夫なのでしょうか?」
レイチェルは心配そうに整備用ハンガーに座っているアルテローゼを見上げた。
『儂の一体どこが怪しいのかね?』
そう言って、アルテローゼのカメラがチュイーンと焦点を合わせ、レイチェルの姿を捉える。どうやらレイフはネットでの情報収集に飽きて、レイチェルとヴィクターの会話に参加するつもりのようだった。
「何もかもが怪しいですわ。ストレージを持たないAIが、突然『自分は異世界の魔道士で、死んでしまったらロボット兵器のAIに転生したんだ』とか言い出すんですのよ。そんなAIを誰が信じるのですか? お父様もそう思いますわよね」
レイチェルは、金髪ドリルをギュルギュルとふるわせてレイフに抗議した。
「ああ、確かに転生という非科学的な話は信じられないな。しかし、あの機体を作り出した超常現象やコクピットに施されたフォーリングコントロールとかいう慣性制御技術。『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』と昔のSF作家が言ったが、現代の科学で説明できない現象だった。つまりあれは、今のところ魔法と言うしかないのだよ。では、魔法が存在するとなると、レイフ君の言っていることも本当なのかもしれないのだよ。本当に、こんな状況でなければ、もっと詳しく調査できるのに…」
ヴィクターは、アルテローゼが使った魔法現象を調査できない事にストレスが溜まっているのか、頭をガリガリと掻きむしった。
『魔法を知らないとは、この世界の人は無知なものだ。科学技術は誰もが使えて便利ではあるのは認めるが、魔法は科学技術ではできないことも可能なのだよ。儂の魔法を見れば、儂が魔道士だと言うことは一目瞭然ではないか』
レイフは自慢げにそういうが、彼のいた世界でも魔法を使えるのは限られた人間だけであった。それに帝国では、魔法を使える一部の人によって独裁的に民衆が支配されていたのだ。決して今の世界より魔法が支配する世界の方が良いとは言えないだろう。
『強者が弱者を支配するのは当然ではないか?』
「レイフ、誰に言っているのですか」
ナレーションに突っ込んだレイフに対して、レイチェルが不思議そうな顔をする。
『いや、こっちのことだ。それより、もう一度確認するが、レイチェルは本当にゴーレムではないのだな?』
「何度も私は正真正銘の人間ですわ。お母様と私の子供の頃の写真も見せましたでしょ」
『それはそうなのだが』
レイフはアルテローゼのセンサーを使い、何度もレイチェルの体をスキャンする。レイフは、レイチェルの心臓の鼓動や体温、体重やスリーサイズと体の隅々まで計測して、結論として彼女が人間だと確認するのだった。
『しかし、レイチェルは本当に儂が前世で製作したゴーレムにソックリなのだ。名前、顔、そして体の全てのサイズまで同じとは、どんな奇跡が起きればそんな事になるのか…魔法より不思議ではないか。まさに神の奇跡ではないか』
「…サイズですって?」
レイチェルは、自分の体を見て、そしてレイフが自分の体のサイズを計測していたことに気付くと、顔を真っ赤に染めた。
「レイフ、貴方にはデリカシーという物がないのですわね。…お父様、やはりレイフ…いえ、このデリカシーのないAIは、今すぐ消去すべきですわ」
レイチェルは、顔を真っ赤にして金髪ドリルをグルグルと回しヴィクターに詰め寄った。
「いやいや、レイフ君の知識は私にとって非常に魅力的なのだよ。魔法やゴーレムという技術の知識がデータとしてストレージに存在しない以上、その知識はレイフから直接聞くしか無いのだよ。それが終わるまで、レイフを消すのは研究者として認められぬのだよ」
「お父様は、研究と私の精神の安定のどちらが大切なのですか?」
「それは、研究の方が大切な…。おっと、軍の司令部から連絡があったようだ、研究所に戻らないと。ではレイフ君、また話を聞かせてくれたまえ」
ヴィクターは、研究の方が大切と言いかけて、レイチェルが怒りの表情を浮かべていることに気付いた。これは不味いと思ったヴィクターは、丁度かかってきた通信にかこつけて、慌てて研究所の方に逃げ出した。
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