ゴーレムマスターの愛した人型兵器

お化け屋敷

文字の大きさ
38 / 143
第5話:陸の王者

Bパート(3)

しおりを挟む
 空港の側にある研究所の格納庫では、アルテローゼの周りに多くの作業員が集まり出撃準備が行われていた。急遽きゅうきょ出撃の決まったアルテローゼには、連邦軍から武装が提供され、装備のために連邦軍の整備兵も手伝いに駆けつけてきていた。
 また、巨人の時にレイフが作り出したグランドフォームも作業員の手によって再現されていた。グランドフォームはそのまま再現したのではなく、ヴィクターを含め研究員と機体の整備主任であるおやっさんの監修の元で改善が行われていた。その甲斐もあり、グランドフォームは、レイフが作り出した物よりパワーや走破性は格段と上がっていた。
 それに加え新しい機能として、アルテローゼの機体が完全に仰向けになれば、より高速な移動が可能となる戦車形態が追加されていた。18メートルの車体に追加された武装を含めると、正に陸の王者という姿であった。

 レイフもその出来映えを見て、『うーん、これはすばらしい物だ』と、感心するほどだった。

 その、アルテローゼの側で、ピチピチのパイロットスーツに身を包んだレイチェルとヴィクターが、出撃前の最後の確認を行っていた。

「レイチェル、結局オッタビオ少将に押し切られた形になってしまったが、本当に戦いに行くのかね。嫌ならまだ断れるのだよ」

 ヴィクターは、心配そうな顔でレイチェルに翻意を促すが、

「ええ、お父様。私が、いえアルテローゼが戦わないと、また連邦軍の兵士さんや一般市民の方が大勢死ぬことになりますわ」

 レイチェルは、巨人との戦いの後、大シルチス高原の戦いや首都攻防戦で多くの人が亡くなった事を知ってしまった。そして、大シルチス高原の戦いあの時アルテローゼレイフが参加していれば、多くの人が死なずに救われたのではと、ずっと考えていたのだ。もちろんたられば・・・・ではあるのだが、レイチェルはそれを考えてしまう性格だった。

アルテローゼレイフにしかできないことがあり、そのアルテローゼを動かせるのが私だけなのです。私は、自分ができることをやらずに後で後悔するの…そんなことは嫌なのです」

 パイロットスーツに身を固めたレイチェルは、キリッとした表情でヴィクターに告げた。

『(ほぇ~。キリッとしたレイチェルはかっこいいの~)』

 一方、もう一人の当事者であるレイフは、そんな凛々しいレイチェルの姿をぼーっと眺めてRECしていた。

「アルテローゼを動かせる軍人が他にいれば、レイチェルお前を戦いに出す必要は無いと言うのに…。レイフ君、どうしてレイチェルでなければ駄目なのだ?」

 ヴィクターは、レイフにレイチェルしかアルテローゼが動かせない理由を尋ねる。この質問は、レイチェルしかアルテローゼを動かすことが出来ないと分かってから、何度も繰り返された問答だった。

『同じ答えを繰り返すが、それはレイチェルが操縦しないと、機体の制御システムが正常に動かないからだ。その理由は、儂にも良く分からないのだが、恐らく制御コアとパイロットの魔力の相性問題らしいのだ』

 レイチェルしかアルテローゼを動かせない。これに関しては、レイフにも説明の付かない現象であった。ヴィクターとレイフは、アルテローゼの制御コアに問題があるのだろうと言うところまで分析した。では制御コアを調査すれば良いとなるのだが、最高機密である制御コアの解析を行うとすると、ブラックボックスを分解して取り出す必要がある。その場合レイフは当然眠りにつくことになるが、原因を突き止めた後再びレイフが目覚めるとは言えなかった。その為、ヴィクターも制御コアを解析する別な手段が見つかるまで、この現象については放置するしかないとあきらめていた。

「今更それを言い出しても仕方ありませんわ。それよりレイフ、アルテローゼの出撃の準備はよろしくて?」

 レイチェルはヘルメットを被りアルテローゼの車体の上によじ登ると、コクピットを覗きこんだ。

『後は予備バッテリーを搭載するだけだ。それが終われば、出撃準備は完了だ』

 レイフは、レイチェルのためにモニターにアルテローゼの準備状況を表示する。モニターそこには、50ミリ16連装ミサイルランチャーや90ミリ・レールキャノン戦車砲、対人レーザー機銃といった兵装が表示されていた。そして射撃武器が無効化されていた時のための装備として、盾と槍という格闘武装がレイフによって準備されていた。

 レイチェルは、機体の至る所に凶悪な兵器が搭載されたアルテローゼの機体を眺めて、大きくため息をついた。

「…人を殺すための兵器ですわね」

 軍事オタクなら嬉しがるだろう兵器も、人が死ぬのが嫌いなレイチェルにとっては、重荷にしか感じられないのだった。

『レイチェルは、兵器が嫌いなのだな』

「ええ、そうですわ。人を殺したくもないし、人が死ぬのも嫌ですわ」

 レイフの問いかけに、レイチェルは吐き捨てるようにそう言った。

『分かった。優しいレイチェルが嫌がるのであれば、儂もなるべく人は殺さないように心がけよう。この兵器も儂が制御すれば、無駄な殺生はしなくて済む。レイチェルは、儂を信頼してトリガーを引けばよいのだ』

「そう…ですの? レイフは、前と随分と変わりましたわね。しゃべり方も『のじゃ』とか言わなくなりましたし、嫁というのも止めたのですか?」

 レイチェルは、不思議そうにアルテローゼレイフを見上げた。

『…そうだな。巨人を倒して意識を失った時に、儂は何かを失ったのかもしれないな。それとレイチェルは人間であって儂の嫁ではない。それが分かったからもう嫁と呼ぶのは止めようと思ったのだ』

 レイフに人の体があったなら、彼は遠くを見ていただろう。そんな雰囲気がアルテローゼから漂っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

炎光に誘われし少年と竜の蒼天の約束 ヴェアリアスストーリー番外編

きみゆぅ
ファンタジー
かつて世界を滅ぼしかけたセイシュとイシュの争い。 その痕跡は今もなお、荒野の奥深くに眠り続けていた。 少年が掘り起こした“結晶”――それは国を揺るがすほどの力を秘めた禁断の秘宝「火の原石」。 平穏だった村に突如訪れる陰謀と争奪戦。 白竜と少年は未来を掴むのか、それとも再び戦乱の炎を呼び覚ますのか? 本作は、本編と並行して紡がれるもう一つの物語を描く番外編。 それぞれに選ばれし者たちの運命は別々の道を進みながらも、やがて大いなる流れの中で交わり、 世界を再び揺るがす壮大な物語へと収束していく。

処理中です...