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第10話:救出

Aパート(2)

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 スカイフォームに換装したアルテローゼレイフは、滑走路で発進準備を行っていた。
 ヴィクターから「準備が整い次第すぐに出発してくれ」と命令・・があったので、研究所員も作業員も懸命に準備を進めていた。

 アルテローゼレイフも、整備用ロボットを操って出発準備を手伝っていた。何しろ試験飛行の時と異なり、今度の離陸ではロケットブースターを背負って飛ぶのだ。万が一の事があってはいけないと、おやっさんが念入りにブースター接合部の強度をチェックしている。




 ここでアルテローゼ・スカイフォームの概要を説明すると、
 アルテローゼ・スカイフォームは、当然のごとくアルテローゼを飛行させるための装備である。今までのフォームと同様に、背面のランドセル部分にそのための機能が詰め込まれている。スカイフォームのランドセルには、二機のジェットエンジンと翼だけでなく、空気抵抗を減らすためのカウル・パーツも含まれている。言ってみれば飛行機のパーツが全てランドセルの部分に集まっているような形状であった。

 アルテローゼは、このランドセルを背負って飛行するのだが、背負っている状態ではバランスが悪く普通に飛ぶことはできない。この状態では、アルテローゼレイフがレビテートの魔法とフォーリングコントロールの魔法を使うことで、ようやく飛行することが可能となっている。
 魔法を併用して飛んでいるため、ランドセル状態では余り高度が取れないし、アルテローゼの胴体がむき出で空気抵抗もあるため速度は出ない。しかし手足が自由なため、地上に降りて戦い、そのままジャンプして飛び立てるといった、低空~地上付近で戦うのに向いた形態である。

 また、ランドセルを変形させると、アルテローゼはうつぶせの状態で飛行機のような形状となる。ランドセルからカウル・パーツが飛び出し、手や足を覆ってしまう。コレによって空気抵抗が最小限となり、スカイフォームは音速を超えることも可能となる。
 当然この形態では手足が使えないため、格闘はできず通常の飛行機のような空中戦しかできない。飛行速度も上がることから、この形態は中~高高度での空戦を行うのに向いた形態である。




「おう、ロケットブースターの装着は終わったぜ」

 おやっさんは、アルテローゼの背中から滑走路に降りてきた。

『おやっさん、ありがとう。じゃあ、直ぐに発信する出るので、離れていてくださいよ』

 レイフは整備用ロボットでおやっさんが降りるのを手伝い、彼を滑走路の端まで送り届けた。

『管制塔、アルテローゼ・スカイフォームは今から離陸するぞ』

 レイフは、空港の管制塔に離陸の許可を求めると、

『アルテローゼのAIか? 今から発進する? 先ほど試験飛行は終わったんじゃないのか?』

 連邦軍の管制官は、アルテローゼが飛び立つ理由を誰何してきた。連邦軍にはアルテローゼレイフがレイチェルを救出に向かうという計画を伝えていないので、当然この様な展開になるだろうと、レイフは予想していた。。

『今から極秘任務で出撃するのだ。離陸許可をくれ』

『極秘任務だって? 聞いてないぞ。作戦司令部に確認するから待て』

 もちろん管制官が離陸許可を出すわけもない。これも想定内である。

『(革命軍の進行が分かってから、飛行機は全便キャンセルだ。このまま飛び立っても問題はないな)了解、今からアルテローゼ・スカイフォームは離陸する』

『な、何を言っている。そこは誘導路だぞ。そんなとこから離陸するつもりか。AIじゃなく、アルテローゼのパイロット、応答しろ』

『離陸するぞ!』

 管制官がわめき立てるが、レイフはそれを無視して、離陸を開始する。誘導路は普通の飛行機が飛び立つのには短く細いが、魔法を使えば問題なく離陸できる。
 アルテローゼ・スカイフォームを包み込むように魔法陣が展開され、垂直離着陸機でもないのに機体が浮かび上がった。そして背中の二つのジェットエンジンとロケットブースターが火を噴いた。

『なかなかのGだな。アイラ、舌を噛まないように注意しろよ』

「……」

 アルテローゼレイフは、無言の・・・アイラを無視してジェットエンジンの出力を上げていった。炎の尾を引いて機体は一直線に上昇していく。こうなればもう誰もアルテローゼを止めることはできない。

『レイチェル、待っていろ』

 レイフがそう叫び、それに答えるようにロケットブースターがアルテローゼを弾道軌道に押し上げていった。




 ちなみに、何故アイラが無言だったかというと。それは試験飛行での出来事が理由だった。

 最初空を飛べると聞いたアイラは、ものすごく興奮していた。

「空を飛べるのか。楽しみだな~」

『まあ、空中での操作は全て儂が行うからな。アイラはスティック操縦桿を握っているだけだぞ』

「りょーかいだよ」

 アイラは、空を飛ぶのが楽しみだと、わくわくしていた。子供心に空を飛んでみたいと思っても、スラム育ちの彼女は飛行機に乗れるわけもない。そんな空を飛ぶという夢が今かなうのだ。

 そして、アルテローゼ・スカイフォームの試験飛行が始まった。

 まずは上昇性能試験と、レイフは離陸から高度六千メートルまで急上昇する。スカイフォームはシミュレーション通りの性能を発揮してくれた。

『ここまで三十秒。データベースにある有人戦闘機とほぼ同じか。魔法を使わないで、この性能なら及第点だな。どうだアイラ?』

「うぁー、これが空なの? あれって絨毯? 雲の絨毯だよね」

 残念な事にアルテローゼには窓はない。しかしモニターに映る大空の映像に、アイラは大喜びであった。レイフはアイラがもし高所恐怖症だったらどうしようかと思っていたが、それはいらぬ心配であった。

『ふふ、そうだな。よし今からあれに突っ込むぞ』

「ほんと? 雲の中って、一体どうなっているんだろう」

 アイラは、好奇心いっぱいのキラキラの目をしていた。しかしアイラが飛行を楽しんでいたのもここまでであった。

『雲の中は以外と揺れるな。これが乱気流という奴か』

「きゃー、レイフ、揺れるよ。うぁっ、落ちちゃうよ」

 雲の中は乱気流だらけであり、アルテローゼは上下左右に風によって揺さぶられた。時には百メートル程ストンと高度が落ちたりもする。
 レイフとしては空を飛ぶ上での貴重なデータが収集でき楽しめたのだが、アイラはそうではなかった。
 ガオガオに乗っていたときは、縦横無尽に駆け回った彼女の平衡感覚は素晴らしいモノだが、飛行機で味わう奇妙な感覚は別物だったらしい。

「うう、気持ち悪いよ~」

 フォーリングコントロールの魔法でGは押さえられているが、完全にゼロとなるわけではない。少しはGを残しておかないとモニターに映る光景と感覚が一致しないのだ。
 今回の雲の中の飛行では、そのGがアイラに悪さを仕掛けていた。モニターに映る光景は雲ばかりで上下左右が分からない。その中でランダムにGがかかるのだ、気持ち悪くなるのも当然であった。

 アルテローゼが雲から出て試験飛行を終える頃には、アイラは気持ち悪くなってダウンしてしまった。そんな状況でもアイラは吐いたり、スティック操縦桿から手を離すことはなかった。

 地上に降りて直ぐに発信することになったが、アイラの調子は優れないままだった。それがアイラが無言で会った理由であった。
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