財閥造って少女を救う

のらしろ

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第二章 知らぬ間に

創造の「魔法」と静かなる力、そして新たな問題

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 ~創造の「魔法」と静かなる力、そして新たな問題~

 幸の顕微鏡のデモンストレーションが終わると、俺は桜たちを外に誘導した。

「次はこちらです」

 俺が最初に取り出したのは、卓上型のミニ旋盤だった。
 金属の塊を削り出し、精密な部品を作るための機械だ。
 この時代の旋盤といえば、大型で人力か水力、あるいは蒸気機関で動かすものが主流。

 しかし、俺が取り出したそれは、片手で持ち運べるほどコンパクトでありながら、複雑な金属加工を可能にするという。
 俺は、発電機からケーブルを繋ぎ、電源を入れた。

 静かな電子音が響き、旋盤の刃が「シュイーン」という細い金属音を立てて回転を始める。
 そして、小さな金属の棒をセットし、スイッチを入れると、みるみるうちに金属が削られ、美しい円柱形に加工されていく。
 削りカスが舞い、独特の金属の匂いが漂う。

「これは……!一体、どういう仕組みで……」

 桜は、その精密な作業に目を奪われた。
 続いて、俺はミニフライス盤のデモンストレーションを行った。
 フライス盤が金属の表面を平らに削り、「ガリガリ」と微かな音を立てながら複雑な溝を刻んでいく様子は、まさに「形を変える魔法」だった。

「信じられませんわ!このような小さな機械で、これほど精巧な品を……」

 桜の口から、感嘆の声が漏れた。
 彼女の冷たい印象は鳴りを潜め、純粋な驚きと興奮に満ちた表情になっていた。

「これがあれば、どのようなものでも、望む形に作り出せるのでしょうか?」

「はい。原理的には可能です。設計図さえあれば、様々なものを製造できます」

 俺の言葉に、桜の瞳がギラリと光った。
 彼女の頭の中では、すでにこれらの技術を使って何ができるか、具体的なビジョンが生まれ始めていた。
 新しい道具、機械、そして、まだ誰も見たことのない産業の萌芽。

(……なんか、俺たち、歴史を大きく変えようとしてないか?もしかして、俺、この時代の産業革命の立役者になっちまうのか!?)
 工作機械のデモンストレーションが終わると、俺は再び桜たちを車内へと案内した。

「最後に、こちらを」

 俺が取り出したのは、三次元プリンターだった。
 俺はPCで簡単なデータを開き、プリンターを起動する。
 **ウィーン、カチカチ、ジー……**と、まるで生き物のような複雑な駆動音が響き、樹脂を熱で溶かしながら、設計図通りに立体的な物体を形作っていく様は、彼らにとってまさに「無から有を生み出す」魔法そのものだった。
 ゆっくりと、しかし確実に形を成していく小さなギアの模型に、桜の目は釘付けになった。

「これは……!これほどのものが、このようにして……!」

 デモンストレーションが進むにつれ、家人たちの表情にも変化が見られた。
 最初は警戒していた近藤も、その卓越した技術に感嘆の声を漏らし、庭師の後藤田は静かに、しかし熱心に俺の手元を見つめていた。

 料理長の山方は、興奮した様子で由美や愛に話しかけている。
 彼らは、目の前で繰り広げられる「未来の魔法」に、純粋な好奇心を抱いていた。

 ~静かなる力の正体、そして新たな課題~

 一通りのデモンストレーションが終わり、俺は機材の電源を落とし始めた。
 幸に「悪いが、機材の片付けを頼む」と声をかけ、自分は桜たちの方へ向き直った。
 その時、桜の視線が、庭に置かれた、もう一つの機械に釘付けになった。
 それは、デモンストレーション中、ずっと静かに稼働していた、箱型の機械だ。

「瓶田様。あの機械は何でございましょうか?先ほどから、ずっと動いているようでしたが、音もせず、煙も出ていないように見えますが……」

 桜が指差したのは、会社の環境意識をアピールするために導入された、静音型ディーゼル発電機だった。
 廃食油を加工した軽油で稼働する、最新鋭の小型発電機だ。
 この時代の発電機といえば、蒸気機関や水力を使った大型で騒がしいものが一般的。
 電気そのものも、まだごく一部でしか使われていない時代だ。

「あれは、『発電機』です。電気を作る機械で、先ほどの旋盤や顕微鏡も、あれから電気を供給していました」

 俺は簡単に説明した。桜の瞳が、さらに大きく見開かれる。

「電気を……?しかも、これほど静かに、ですか……?」

「はい。そして、この機械を動かす燃料は、『軽油』というものです。ガソリンとは異なりますが、この時代の灯油や、あるいは植物油に近い成分です」

 俺の言葉に、桜は深く考え込んだ。
 ガソリンも電気も一般的でないこの時代において、「軽油」という新たな燃料と、それを効率的に電気に変える「発電機」は、まさに画期的な情報だった。
 この技術が、いかにこの時代の産業に革命をもたらしうるか、彼女は瞬時に理解したのだ。

(……やべぇ、この女、頭の回転が速すぎる。下手すると俺よりヤバいな)

 桜の鋭い眼差しが、俺の顔に注がれた。
 彼女の脳裏には、すでにこの静音型発電機と、その「軽油」という未知の燃料をどうにか手に入れるための計画が、具体的な形を帯びていたに違いない。

「瓶田様。その『軽油』とやらは、この時代でも生産できるものなのでしょうか?」

 その言葉は、まるで俺の思考を読んだかのようだった。
 この時代に安定した燃料を供給できるかどうかが、未来の技術を普及させる上での最大の課題となる。

 俺は、軽く冷や汗をかきながらも、新たな課題に直面していることを自覚した。
(よし、ここからが俺の『チート童貞魔法使い』の腕の見せ所だ!未来知識チートを駆使して、この時代の産業革命を、そして桜の野望を、俺がプロデュースしてやる!)

 ~燃料残量と未来への不安、そして迫りくる現実~

 俺が桜に発電機の説明を終えた頃、幸が荷台の片付けを終えて、俺たちの元に歩み寄ってきた。

「主任、片付け終わりました!あの、発電機の燃料、確認したんですけど、まだ満タンに近いですね。ほとんど減ってないみたいです」

 幸は、デモ時の規則に従って燃料残量を確認していた。
 確かに、あの程度のデモンストレーションでは、それほど消費しないはずだ。

「ああ、そうか。ありがとう」

 俺はそう答えたが、その瞬間、ある不安が俺の心をよぎった。
 それはEV車の燃料のことだった。
 会社の環境意識をアピールするために導入された、廃食油を加工した軽油で走る最新鋭のモデル。

 この時代には、その燃料を製造する設備も、ましてや供給網も存在しない。
 車に積んできた予備の燃料も、いつかは尽きる。
 そして、発電機もまた、同じ燃料で動くのだ。

(くそっ、俺の『未来知識チート』も、燃料切れには勝てねぇのか!?)

 このままでは、俺たちの未来の切り札が、ただの鉄くずになってしまう。
 俺は、幸に気づかれないように、さりげなくEV車のダッシュボードにある燃料計に目をやった。

 俺たちが晴海の展示会場を出た時、すでに燃料計の針は半分をわずかに切ったあたりを指していたはずだ。
 由比のパーキングエリアを出てからも、かなりの距離を走ってきた。
 この時代の道の悪さや、濃霧での低速走行なども影響したのだろう。

「……っ」

 俺の顔色が変わったのを、幸は見逃さなかった。

「主任、どうかしましたか?」

「いや……なんでもない」

 俺は努めて平静を装ったが、声が僅かに震えているのを自覚した。

「主任、まさか、車の燃料のことですか?」

 幸の鋭い指摘に、俺はごまかせないことを悟った。
 俺は重い口調で頷いた。

「ああ。発電機の燃料は問題ないが、車の燃料が、晴海を出た時よりも、さらに減っている。この時代の軽油は、成分が異なるだろうから、そのまま使えるかどうかもわからない」

 幸の顔から、みるみるうちに血の気が引いた。
 彼女は車のボディにそっと手を触れた。
 このEV車こそが、俺たちが令和の技術と繋がる唯一の手段なのだ。

 バッテリーが尽きれば、この車はただの鉄の塊になる。
 発電機も、燃料がなければただの箱だ。

「そんな……」

 幸の唇が小さく震えた。
 彼女の瞳には、再び不安の色が大きく広がっていた。
 この世界で生きていくことの現実が、重くのしかかってくる。

(まさか、俺の『童貞魔法』が、こんな形で足元を掬われるとは……!未来の技術は万能じゃないってことか!?俺の『チート能力』にも、こんな致命的な弱点があったとは、完全に盲点だったぜ)


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