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グラス中隊、始動す
新兵の異動
しおりを挟む俺は詰所となっている『喫茶サリーのおうち』の前に小隊員全員を集めてもらった。
全員が詰所前に集合して俺の話を聞く格好ができた。
この詰所は実質サカキのおやっさんの部下たちの溜まり場となっており、ちょうど喫茶でお茶を楽しんでいたシノブ大尉やシバ中尉が何事かといった顔をしながら窓から俺らのことを注目していた。
ちょうど良かったので、お二人に出てきてもらい、先程レイラ中佐から聞かされた内容を皆に知らせた。
組織の大幅な変更の話から始めたが、自分たちには直接関係が少ないためか、その場にいた全員は『あ~、そ~なの』といった感じで、興味薄だった。
一部、帝国の象徴にまでと例えられる花園連隊の解散には一斉に驚きの声を上げていた。
で、自分たちに直接関係することになってきたのだが、俺が中尉に昇進をして、今後は中隊を率いることになった話を始めた。
すると、旧山猫のメンバーからは、今までの小隊の扱いが気になるのか一斉に質問してきた。
ジーナを始め、この基地に残っていた准尉達も心配そうにこちらを眺めている。
「で、この小隊のことなのだが、今日より小隊は解散され、新たに俺の率いる中隊に組み込まれることになった」
「「「「「え~~~~~」」」」」
一斉に驚きの声が上がった。
俺が、周りが落ち着くのを待って、話を続けた。
「で、組織の改編に伴い人事異動が命じられた。次に上げるものは、本日今から、この小隊より抜けて、サカキ中佐率いる連隊に配属される。直接の配属先はシノブ大尉の工兵中隊への転属だ。これは、一般兵士から工兵への兵種の変換も意味する」
すると、新兵たちは全員が『へ???』って顔をしていた。
俺が疑問に思って、一番近くにいた新兵に聞いてみたところ、自分たちは工兵じゃなかったのですかっと逆に聞かれた。
だって、いつも工兵のシノブ大尉達と一緒にいるし、それに基地外に出ていても、やることはいつも何らかの工事が伴っていたので、自分たちのことを工兵だと思っていたらしい。
むしろ、逆に基地にいるときに工事以外に一般兵士の訓練がなされることを疑問に思っていたそうだ。
なぜ自分たちばかりが、あのキツイ訓練をさせられるのかが疑問であり不満でもあったそうだ。
あれ~、俺の小隊に配属されてきた時に説明しなかったっけ?
確か説明したはずだよねってメーリカさんに小声で聞いたら、
『ん~~~?どうだったかしら。
でも、今までの仕事を振り返ればそう思われても仕方がないわよね~』だって言われた。
俺の話を横で聞いていたシノブ大尉はさすがにわかっているので笑いをこらえているのが分かった。
でも、異動の話はそれとなくサカキのおやっさんから聞いてはいたものの、きちんとした形で命じられていなかったので、俺の話を聞いて驚いてはいた。
俺は、異動の手続きを進めるべく、命令書に書かれている名前を呼び上げ、列から外した。
その上で、命令書をシノブ大尉に手渡した。
「え、え、え、あの~、まだ何も聞かされていなかったので、困りますが……え~っと皆さんの異動を歓迎します。本日よりあなたたちは私の工兵中隊所属となります。私が隊長のシノブです。横にいるのが小隊長のシバ中尉です。あなたたちの処遇については後できちんとしますが、とりあえず、営舎はそのまま待機ということで。明日、朝一番に中隊全員に紹介しますので、それまでは解散」と言って、とりあえず異動の手続きを終えることができた。
しかし、それで収まらないのが俺の小隊には沢山いたのである。
「「「隊長~~」」」
「私たちは隊長と一緒に中隊に取り込まれるのですよね?」
彼女たちの言いたいことは分かっている。
最初にこの基地に到着した時に近いほぼ分隊規模の人員しかこの場に残らなかったのである。
詳しく知っているアプリコットは顔を背け、彼女たちへの説明を拒んだ。
誰だってあの説明はしたくはないよな。
今まで苦労して、やっと使えるかというところまで来たのに、また、振り出しに戻されれば、いや、振り出しより酷い状態になることがはっきりしているのだから、不満をぶつけられるのが怖いよな。
しかし、言わないわけには行かず、俺が恐る恐る今後作られる中隊について説明を始めた。
「え~~っと、皆さんの聞きたいことは良く解っています。が、正直、聞かないほうが幸せでいられる時間が長くなりますよ。てな訳には行きませんよね。つまりそういうことなのです」
「「「全然わかりません」」」
「そ~ですよね。俺らの中隊には、第3作戦軍の各地から新兵とルーキー合わせて200名が配属されてきます。明日には基地に到着するようです。また、先に説明したように海軍との混成部隊があちこちに作られます。俺らの中隊にも精鋭である第1陸戦大隊から1個小隊が加わります。なので、配属される200と今いる我々、それに陸戦小隊1個で1個中隊を形成されます。なお、中隊内の詳細は未定です」
しばらく、何を言っているんだ、コイツはって感じで、静かだったのだが、その後一斉に大声で、「「「「「「え~~~~~~」」」」」」って叫び声があがった。
うん、気持ちはわかるよ。
いくら軍の常識のない俺でも、よくわかる。
今まで苦労して訓練をしてやっと使えるかな~~って感じになったところで、いきなり引き抜かれて、それよりも大量の新人さんを送り込まれれば、人事担当者に対して殺意まで持っても仕方がないよね。
だって俺のところは、完全にブラックな職場なのだから。
どうやって、彼女たちをなだめような~~。
俺が騒がしいこの場で悩んでいると、ジーナが叫んだ。
「60名規模の小隊でも異常なのに、新兵ばかりの200で中隊なんて、絶対に変ですよ。間違っています。アプリコット、これって間違いよね。どうせ隊長が上の話を間違って聞いてきたのよね。だってありえないもの」と、すがるような気持ちでアプリコットを見た。
その場に残された全員も同じ気持ちでアプリコットの答えを待っていた。
アプリコットは黙って、首を横に振っただけだった。
その後、全員がその場で打ちひしがられた。
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