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中隊はジャングルに
敵の勢力圏内への潜入
しおりを挟むわずか2日、わずか2日だけだった、順調に探査が行えたのは。
最初の2日間はいつものごとくバイクを先行させる方法で1日当たり20km位のペースで順調にジャングル内を探査しながら進んでいった。
しかし3日からは状況が違った。
バイクの探査途中で明らかに人間の残した痕跡が見つかった。
ローカル勢力のものか敵さんの残したものかは判別がつかなかった。
痕跡そのものが僅かだったのと、最近の痕跡とは思えなかったためだ。
それでも、バイクを先行せるには躊躇せざるを得なかった。
バイクのエンジン音を敵に聴かせるわけには行かない。
エンジン音で我々の存在を知らせ敵に奇襲攻撃をかけられない。
臆病と言われてもそんな危険を冒すわけには行かない。
しかしここには俺の判断に異を唱える人間はいなかった。
至極当たり前の判断だということだった。
なので3日目からはバイクの代わりに数名の歩兵を徒歩で先行させる方法に切り替えた。
以前にローカル兵士のポロンさんを見つけた時のようにだ。
今回はベテランとしか言えない兵士ばかりなのであのときに比べればはるかに要領よく探査を続けながら進んでいたが、それでも1日当たり10km以下しか進めない。
下手をすると5kmも進めない日もある。
ジャングル探査のために基地を出てからかれこれ7日が経ったが100kmも進んでいないだろう。
しかしその都度見つける痕跡は多くなってきている。
幸いに大規模兵力が移動した痕跡はなかったのだが、そろそろ1個小隊規模の移動の痕跡を見つけることができる位置まで進んできているようだ。
我々が知っている最も近い敵の基地からも100km位の位置だろう。
このあたりが敵の勢力圏の始まりだとは思えるが確証がない。
「隊長、どうしますか。まだ進みますか」
「6~7人がまとまって移動の痕跡は多々見つけるようになってきたが、敵さんのとはいえないだろ。ポロンちゃんのお仲間かも知れない」
「一度だけタイヤ痕も見つけましたが、ローカル勢力は自動車を保持していましたっけ。それにタイヤ痕は一条だけでしたのであれはバイクの跡ですよ」
今朝は珍しく今後の予定について探索出発時にもめていた。
いや、もめていたというよりも状況の整理と認識の統一をしているようだった。
「はっきりと敵の姿を確認したいな。今日からは先行させる歩兵の数を分隊単位で進ませよう」
「お、珍しく普通の隊長らしい発言ですね、隊長」
すかさずメーリカさんが俺の判断に茶々を入れてきた。
しかし全員に異論はない。
普通の軍人らしい判断だったようだ。
「ぬかせ、俺はただできる限り怪我の少なくなるように一生懸命に考えただけだ」
「グラス中尉、メーリカさんとの私語をゆっくりしている暇はありませんよ。具体的にどうするかを命令ください」
いつものごとくアプリコットのお小言を頂いた。
「そうだな、メーリカさんとサーシャさんのところの分隊を出してもらおうかな。その次はケート少尉のところから分隊を出してもらおう。ケート少尉の分隊にはドミニクを連れて行ってもらおうかな。とりあえず今日はそんな感じで試してみて明日以降のことは今日の結果次第かな」
「わかりました。直ぐに人選に入ります」
「最初の隊には俺もついて行くよ。メーリカさんなら俺一人くらいの足手まといがいても問題ないよね」
「隊長なら全く問題ないよ。そんなに足手まといにもならないから。それにここからそれほど奥にも進めそうにないし、大丈夫だよ」
「「隊長!」」
アプリコットとジーナが声を合わせて異議を唱えてきた。
「わかっているよ、言いたいことは。でもね……でもね~、考えても見てごらんよ。ここにはベテランの兵士しかいないんよ。俺が半日ここを離れても問題ないよね。それに今後についても考える上でどうしても実際に見ておきたかったんだよ。とりあえず俺がここを離れている時にはサーシャ少尉に指揮を任せるから。これで納得してくれたかな」
アプリコットやジーナはまだ疑いの目を向けてくる。
「隊長、本当は少し飽きたのではないのですか」
「あ、こら、ドミニク余計なことは言わないの」
「隊長!」
すかさずアプリコットが文句を言ってきたがどうにか抑えた。
正直飽きが来ていたのもあるが、最初に説明した状況を見ておきたい気持ちもある。
さすがにケート少尉はこんな感じには慣れてきていたので呆れ顔はしたが無言であった。
慣れないサーシャ少尉が少々困り顔をしながら中隊本体の指揮権を受け取った。
俺は自分の準備を整えてメーリカに続いてジャングルの中に入って行った。
1時間も歩かないうちにバイクのタイヤ痕を何度も見つけ、また、複数の歩哨の歩いた跡も見つけた。
「そろそろ本格的に敵さんの領域かね」
俺の少し前を歩いているメーリカさんが俺に言ってきた。
「ここからはできる限り静かに移動だね。それとどんなにわずかでもいいけれど敵の気配を感じたら情報は共有してね。でないと命に関わるから」
分隊員全員が無言で頷いた。
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