社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~

のらしろ

文字の大きさ
229 / 336
ジャングルに再び

取り上げられたおもちゃ

しおりを挟む


 
 おやっさんは、俺の予想に反してあっさり帰っていった。
 これはある程度予測はできたのだが、俺からおもちゃを取り上げてだ。
 もっとも俺のおもちゃと化しているパワーショベルをここから師団本部に運んだ訳ではなく、所有権というか使用権というものが取り上げられたのだ。
 俺も初めて知ったのだが、軍隊には徴用する権利を有していた。 
 これは帝国の法律でしっかり定められ、俺が徴兵された時のように珍しい話じゃなく、割と頻繁に起こっているのだそうだ。
 しかし、いくら貴族社会とは言え帝国は共和国のように国から理不尽を押し付けられる社会でなく、ある意味一般人と貴族とがうまい具合に共生している社会での話で、軍による徴用とて例外でなく、ある程度の制限はあった。
 徴用できる人間が限られており、それも一軍の指揮権を有するものになっている。
 この一軍の指揮権を有する者であるが、師団長および旅団長を指しているそうで、例外的に連隊長にもその権限を許されている。
 しかも徴用する場合には連隊長一人だけでは違法となる。
 他の士官二人の署名を記した命令書を持って初めて徴用ができる仕組みだと、嬉しそうに俺の横で先程まで書類を作っていたシノブ大尉が教えてくれた。
 特別工兵連隊の連隊長であったおやっさんがシノブ大尉に声をかけ、その場にてシノブ大尉がサラサラとメモ書きのように書き上げたのが説明にあった徴用に関する命令書だった。
 当然おやっさんの命令で、承認する士官にシノブ大尉とシバ中尉の署名もある。
 大体、軍隊のような厳然な縦社会において、部下の士官が上司に異を唱えることがあるはずもないのに、このような形式だけでは上司による暴走の防止になるはずがない。
 しかも今回の場合、上司一人の暴走で終わるはずもなく、シノブ大尉を始め、おやっさんに付いてきた工兵全員の総意となって、俺からおもちゃを取り上げ、自分たちで遊び始めた。
 報告書を書くために建物の中に入っていった軍曹をシバ中尉が捕まえてきて、工兵隊全員が操縦を習っていた。
 先程まで俺の隣にいたシノブ大尉は、今ではパワーショベルの操縦席で女子高生のような奇声をあげながらパワーショベルを操作している。
 流石に作りかけのこの基地からほかに運ぶことはしなかったのだが、今後は工兵隊で残りの作業をすることになった。
 忙しいから俺にこの仕事が回ってきたはずだったのに、どうなっているのやら……くそ!
 俺は一旦師団本部にサカイ中佐と戻り、ジャングル探査の仕事に戻ることになる。
 おやっさん事件から3日後、俺は陸戦隊一個小隊と元山猫さんたちから取り急ぎの仕事のない人たち、それに彼女らから認められた新人さん、あとはジーナを除くいつもの指揮車のクルー、それに今回から亡命してきたアンナ元技術少尉を連れてジャングル探査に向かった。
 今回は新たに作った基地周辺を重点的に1週間の予定で探査する。
 約二個小隊規模での移動なので、俺としては慣れた編成に近い。
 しかもほとんどがベテランであり、何かあっても逃げ切れる自信が持てる編成だ。
 そのためか探査に入っても緊張感が持てないのをアプリコットに見透かされ、先程までお小言を頂いていた。
 昨日、アンナさんには思い出したくはないだろう暴行のあった周辺の探査を終え、その先に向かっている。
 あそこからは我々にとって初めての領域だ。
 いつ敵と遭遇してもおかしくない場所となる。
 そんな場所で、へらへらと緊張感のない顔をしていたらアプリコットでなくとも何か言いたくなるだろう。
 それはわかるが、敵さんって、かなり後退したんじゃなかったっけ。
 先日聞いた情報でも後退してからの進軍の話は聞いていない。
 問題は何処まで後退したかということだ。
 流石にあの時に亡命したアンリさんにもこればかりは解らないだろう。
 しばらく進むと、メーリカさんが報告してきた。
「うちの連中が、人の通った跡を見つけたとさ」
「敵さんの後退によるものじゃないの」
「いや、いろいろな靴跡だというから、軍靴もあるだろうけど、それだけじゃないらしい」
「となるとポロンさんの仲間の可能性もあるか。すると対応が難しいな。いきなり銃を突きつけられたら、いくら口で友好を唱えても信じてもらえそうにないし、かと言って応戦の準備なしではこの先進めないしな」
「まあ、できるだけ遠くで人を見つけるように注意するしかないかな。歩みが遅くなるが、それでいいよね」
「ああ、構わない。安全第一が最優先だ。見つけた靴跡を追跡できるか」
「いや、追跡したが、すぐに見失ったそうだ。この辺りそこら中に小さな川や湧水が出ているので、そこから先はダメだったそうだよ」
「しょうがない、このまま進むか」
 それから2日ほど過ぎて、別の跡を見つけたそうだ。
 しかも今回見つけた跡は、あまり気持ちの良さそうなものじゃない。
 敵の軍靴の跡傍に引きずられるような跡があったと聞いた。
 今回も追跡は無理だった。
「見つけた跡は新しいものじゃなかったんだよな」
「はい、少なくとも2~3日はたったものかと」
「それじゃあ、急ぐ必要はないな。今から急いだって何かあれば間に合わない。それより、そろそろ物資の面で限界が来ているので、一旦もどる。次はここから探査できるように目立た無いように目印をしておいてくれ」
「アンナちゃん。ここから大体でいいけど、基地まで分かるかな」
「はい、大体で良ければ簡単な地図を作りながら来ましたので分かりますが」
「違ってもいいから、ショートカットしよう。多少ずれても、基地に近づけばどうにかなるしな」
「了解しました。基地に帰投します」
「敵の索敵だけは入念にな。ローカルなどの跡は見つかれば報告が欲しいが、探すまではしなくていいから」
「了解しました」
 俺らは、心の中にモヤモヤとしたやり残し感を残しながらも基地に帰っていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語

kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。 率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。 一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。 己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。 が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。 志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。 遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。 その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。 しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。

処理中です...