社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~

のらしろ

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いざ決戦のジャングルへ

取り残された共和国の大隊

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 俺の前をキャスター少佐が、彼女の部下が待つ河原に向かって歩いている。
 そのすぐ後ろを、彼女を護衛するかのように少し距離を開けてマーリンさん率いる山猫さんたちが完全武装でついていく。
 俺はアプリコットと一緒に彼女たちからかなり距離を開けて後に続く。
 町を出てブッシュを抜けると急に開けた場所に出る。
 すぐそばに割と大きな川が流れている。
 この川があるから、この町も大きくなれたのだろう。
 そして、この河原こそが、彼女の部下たちが駐屯している場所なのだ。
 キャスター少佐を見つけた彼女の部下たちがキャスター少佐の傍に寄ってくる。
「少佐、大丈夫ですか」
「大隊長、良くご無事で戻られました」
「連中から良くご無事で戻られましたね」
 口々に、キャスター少佐の帰還を喜んでいる。
 それを聞いているキャスター少佐は複雑な表情だ。
 それもそうか、なにせ彼女は再び帝国の捕虜となったのだ。
 彼女の部下はそれをまだ知らない。
 何よりすぐ後ろに控えている山猫さんたちの存在にすら気づいていない。
 今の彼らにとっては、黒服以外敵でないのだろうか。
 そもそも彼らには、ここで帝国との会敵の可能性に思い至っていないのだろう。
 山猫さんたちが全員女性だということも、彼らに警戒心を抱かせない理由だろうか。
 少なくとも、ここに集まった彼女の部下の誰一人として帝国軍の存在に気づいていないようだ。
 一通り、キャスター少佐の無事を確認した彼らは次の疑問を口にしだした。
「少佐、昨夜町の方であった喧騒について何か御存じですか」
 この場にいる全員の疑問だろう。
 全員が少しでも情報を欲しがっている。
「その件について、みんなに説明したい。すぐに全員を集めてもらえるか」
 キャスター少佐は、副官だろうか年配の士官に大隊員全員を集めるよう要請を出した。
 命令でない。
 正確には、今の彼女には部下に対しての命令権がない。
 部下たちは、まだ帝国の捕虜でないからだ。
 しかし、彼女は捕虜になっているので敵味方とは言わないが、違う立場となっている。
 真面目なキャスター少佐は、そこをきちんとわきまえての要請のようだが、この場にいる誰一人そのことに気が付いていない。
 要請を受けた士官たちが大急ぎで部下たちに命令を出しているのを、彼女は苦笑いを浮かべて見ている。
 キャスター少佐は、かつて帝国が恐れた英雄の一人だ。
 何事も完ぺきにこなす彼女にとって、細かなところまで見抜ける洞察力を持つ士官がこの場に居ないことを少々残念に思っている様だ。
 しかし、彼らにそこまでを求めるのは酷な事だろう。
 なにせ、今の彼らの敵は帝国ではなく黒服なのだから。
 少しでも気を抜くと命すら危うくなる現状を踏まえれば、この有様はやむを得ないと俺は思う。
 しかし、彼女の部下たちはその一点を除くと本当に優秀だ。
 俺の想定よりもかなり早く、広場に整列してキャスター少佐を待っていた。
「少佐、準備が整いました」
 件の士官が少佐に報告に来る。
「グレーン大尉。ご苦労様でした」
 キャスター少佐は件の士官にお礼を言うと、部下たちの前に進み出る。士官の号令で彼らが一斉に敬礼すると、一度全員を見渡すように敬礼をした。
 既に整列している部下たちは敬礼の姿勢でキャスター少佐を待っている。
 キャスター少佐が敬礼をとくと、先の士官の号令が飛ぶ。
 一斉に敬礼の姿勢からきをつけの姿勢に変わる。
 キャスター少佐は、まず全員に休めの姿勢を取るように命を発した。
「実にキビキビとしているな。俺の処では考えられない。見ていて気持ちが良くなる」
 俺の感想を聞いたアプリコットは呆れながら突っ込みを入れてくれた。
 最近ではやっと突っ込みを入れられるようになった。
 成長したなとつくづく思う。
「中尉は自分から規律を乱すようなことをみんなに言っておられますから、絶対にあのようにはできないでしょうね」
「それもそうか」
「分かっているなら、日々の行いを正してください」
 止めどもないやり取りになりそうなので、ここで一旦取りやめ、キャスター少佐の行動を見守った。
 キャスター少佐は全員に対して昨夜の黒服たちの痴態とその隙を突かれて帝国に町が占拠されたことについて説明していた。
「先に私がここについた時、一部の者から私の無事を祝われた。しかし、正直に言うと、今の私は無事とは言い切れない。昨夜、連中につかまり危なくなった時に私は帝国軍のグラス中尉に助けられた。知っている者もいるだろうが、私は一度帝国の捕虜となった経験があるが、昨夜の私は再度帝国に助けられた後に捕虜となった。そういう意味では無事ではない。幸い、グラス中尉の救助が早かったので、体はどこも傷つく事は無かったのだが、今朝になって私は捕虜の宣誓も済ませている。そんな私が皆にお願いに来た。私は部下の一人も死なせたくはない。傷つくことも私の本意ではない。最善の選択とは言えないかもしれないが、皆も帝国に抵抗せずに降ってほしい。皆の誇りを傷つけるお願いだということは十分に理解しているが、これだけは保証する。連中にされたようなことは一切起こらない。それどころか国にいるよりも十分な敬意をもって扱ってもらえる。私が以前経験したことでもあり、自信をもって約束できる」
 皆は黒服が制圧された事実を喜ぶも、その制圧が帝国になされた事実をなかなか受け入れられないようだ。
「前に、基地建設中の事故で私はグラス中尉に寸でのところで助けられた。その後の扱いに、何ら不満を持つ事は無く、むしろ我々が国で聞いている敵とは全くの別物であることを理解したのだ。今回もまた、私は連中に乱暴される寸前に同じグラス中尉に助けられた。これでは、どちらが友軍かわからない。私は素直に現状を認め、捕虜となることを選択し、皆を説得する任を自ら望んで受けたのだ。私はすでに捕虜だ。なので、皆に命令をする権利は無い。無理強いはしないし、その権利を持たない。納得ができないものは申し出てくれ。私が責任をもってグラス中尉に交渉しよう」
 一同はこの場に千人もいるのかというくらい静かだった。
 この静けさを破ったのは、やはり彼女の副官であろう件の士官だった。
「この地に赴き、私の敵は帝国ではありませんでした。私の親友を殺した連中であり、それに正直、私は帝国兵とは、まだ戦ったことはありません。ですので、私は少佐を信じます。どこまでも少佐に付いていきます」
 この彼の発言を皮切りに、我も我もと少佐に付いて捕虜となることを決断していった。
 先に挙げたように彼らには2択の選択肢があるようでいて、実は選択肢がない。
 選べるのは生か死かだ。
 生き物である以上、生に執着するなら捕虜の一択だ。
 しかも、尊敬する上司が捕虜となることを勧めてくるのなら、この現状もさもありなん。
 結局10分くらいの出来事だっただろうか。
 この場に居る全員が捕虜となることを了解したのだ。
 キャスター少佐は、再度全員に確認を取り、俺を呼んだ。
 俺はキャスター少佐に呼ばれるまま、恐る恐るブッシュから出て、大隊の前に着いた。
 一応、俺が今回の最高責任者となるのだろう。
 捕虜全員に簡単に挨拶をして、協定の順守を約束し、この後の予定についても簡単に触れた。
 後はアプリコットとメーリカさんにお任せだ。
 まずは、その場で士官全員の宣誓を受け、そのほかは順次受けることを説明して、移動の準備にかかってもらった。
 俺は俺のことを呼びに来たジーナに連れられ、元居た屋敷に戻された。
「隊長、基地に一報を入れませんと、アンリ外交官を捕まえられなくなる恐れもあります」
 確かにそうだ。
 彼女とて暇じゃない。
 いつ何時帝都よりお呼び出しがあっても不思議のない人だ。
 そればかりでなく、俺が連れて行った亡命者たちの面倒もある。
 すぐに予定を抑えておかないといけないなと俺は思った。
 無線封鎖中ではあるが、今回は連絡する必要がありそうだ。
 それになにより、いきなり捕虜を千人も連れて行っては、後で絶対に怒られる。
 ジーナは多分そのことを恐れているのだろう。
 ジーナもアプリコットもとても優秀だけれど、俺から言わせると、少々打たれ弱い。
 これは経験の差だろうから俺はあまり心配していないが、今の彼女たちにモンスターと化したクレーマーのようなレイラさんの対応は流石に無理だろう。
 今度は絶対に完膚なきまでに打ちのめされてしまう。
 彼女たちの上司としても、それだけは避けなければならない。
 俺は意を決して無線のマイクを取ろうとしたら、周りから一斉に羽交い絞めにされ止められた。
「た、隊長。何をする気ですか。敵地の真ん中で、自殺願望でもあるのですか」
 ジーナ君、それは酷くないかね。
 俺は自殺願望なんかこれっぽっちもないぞ。
 するとカリン准尉が俺に説明してくる。
「隊長、暗号ですよ。暗号で電文を作ってください」
「へ?暗号。俺作り方知らないよ」
「え~~~、そんなはずないでしょ。私が知っているコードで暗号を作ってもいいけど、これって叱られる事案だよね。今回は絶対に隊長だけが許される暗号でないとまずい案件ですよ」
「だって俺知らないけど、どうしようか。いっそのこと無断で帰るというのは」
「「「それは絶対にダメ」」」
 その場に居る全員に否定された。
 あいつら絶対に我が身可愛さだろうな。
 するとジーナは既に兵士うちの一人にアプリコットを呼びに走らせていた。
 すったもんだの挙句、息を切らしたアプリコットが俺のところに走ってきた。
「中尉、以前渡されたカードをお出しください」
「それって、これの事かな」
 俺は軍人認識票に付けられた小さなカードをアプリコットに手渡した。
「良かった。これがあれば作れる」
 そこにはなんだか非常にほっとした空気が流れている。
 なんなんだよ、俺が何をしたというのだ。
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