社畜がひとり美女に囲まれなぜか戦場に~ヘタレの望まぬ成り上がり~

のらしろ

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エピローグ

不名誉除隊、いや、名誉除隊だ

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 俺は松葉杖を使い、よろけながらもやっとこさ輸送機を降りた。
 俺と同様に松葉杖を使っているアプリコットは、健常者と変わりがないようにさっさと輸送機から降りて俺を待っていた。
 ひょっとして、アプリコットって松葉杖使いのプロか。
 上手に松葉杖を使っているアプリコットにちょっとばかり嫉妬しながら、用意されたリムジンに乗り込んで行く。
 もう帝都での俺たちの扱いには慣れた。
 普通では絶対にありえないくらいの良待遇で遇されるのだ。
 これも絶対に殿下の政治的な意図を組んでの措置なのだろう。
 前に、相当遠回りに殿下に『止めて』とお願いしたら、そんな感じのことを言われたことを思い出している。
 帝都では、下手をすると息をするのも政治的な意味を持たされるのではとすら思うこの頃だ。
 軍を辞めたら、絶対に帝都から一番遠くで生活をするんだと、心に誓っている。
 リムジンは俺らを乗せ、そのまま皇太子府の中へ入っていき、正面玄関の車寄せに止められた。
 既に、玄関前には殿下の侍従頭のフェルマンさんが、多くの使用人たちを従えて俺たちを待っている。
 リムジンが止まると、フェルマンさん自身がリムジンの扉を開け、俺たちを歓迎してくる。
「また、御厄介になります、フェルマン侍従頭殿」
「敬語は不要です、ヘルツモドキ卿」
 俺たちは簡単に挨拶?後にフェルマンさんに連れられて、皇太子府の中にある会議室に通された。
 今までとはちょっとばかり違う扱いだ。
 今までは、普通ではありえないと聞いているが、ほとんど、いや、全てだったか、殿下の執務室に通されて、殿下との面会であったが、今回はいきなり会議室に通される。
 これはいよいよ厄介ごとの匂いがしてくる。
 会議室の中では、お偉いさんたち皆さんがおそろいで、今までも話し合いが行われていたようだ。
 大きな会議テーブルのお誕生日席には当然皇太子殿下がお座りになっているが、その近くにはサクラ閣下やレイラ中佐が座っており、彼女たちの後ろに閣下の幕僚たちも控えている。
 マーガレット副官やクリリン秘書官までこの場に居るのだから、ちょっとばかり驚いた。
 大概の場合、サクラ閣下は、基地を離れる際に、マーガレット副官か、クリリン秘書官のどちらかを基地に残して不測の事態に備えている。
 今回の場合は、まず、彼女の指揮する部隊があの軍港におり、海軍さんの精鋭部隊と一緒にあの港を守備しているから、まず不測の事態にはならないだろうという判断があるだろうが、それ以上に、今行われている会議が今後の活動において重要な意味を持つものだろう。
 軍に不慣れな俺でもそれくらいは予測が付く。
 となると、なぜ俺がこの場に呼ばれたのかという疑問が湧いてくる。
 俺に人身御供にでも成れというのか。
 結論から言うと、俺の面倒くさい扱いについて、直ぐにでも処理したかったようだ。
 どうも俺の存在そのものが、帝都における政争において重要なパーツになっている様だった。
 そんなことを知ることができたのも、この後の殿下とのやり取りの間に聞かされた話からだった。
「やあ、グラス『少佐』。今回もずいぶん活躍したそうだな。君はいつも私の期待以上に成果を出してくれる。本当に頼りになる部下だ。今回の成果に対するご褒美にも期待してくれていいよ」
 こんなある意味フォーマルとも言えるような場でも、いつものような軽口で俺に声を掛けて来る殿下に対して、フェルマンさんは何も変化がないが、周りにいる人たちは一斉に驚いたような、俺に対して不敬だぞと言いそうな顔をしている。
 レイラ大佐なんか、それこそ苦虫を嚙みつぶしたような顔をしている。
『これは殿下が勝手にしていることで、俺のせいではないから、後でお叱りなんか無しですよ、大佐』と俺は心の中でレイラ大佐に対してお願いしている。
 しかし、俺は今軽く殿下のお言葉を流してしまったが、よくよく考えると、聞きなれない言葉が出ていた。
 『少佐』がどうとか、ひょっとして少尉の間違えか。
 労災に対して二階級の降格処分でもあったのかな。
「流石に、君たちの働きには、国としても昇進を持て遇さないとまずくてな。君だけでなく、今回の作戦で、君について行った者たち全員の昇進が決まったよ。それ以外については、追々になるが、君には、後日行われる戦勝報告に参加してもらう都合上、軍も慌てて昇進をさせてきたようだ。おめでとう、グラス少佐」
 え、何、昇進。
 そんなの聞いていないぞ。
 俺は隣で控えているアプリコットを見たが、彼女も驚いているようだ。
 だって、殿下が言うには俺と一緒のあの場にいた全員の昇進だと言っているから、当然アプリコットも中尉に昇進することになっている、いや、俺が少佐と言われているのだから、アプリコットも既に中尉か。
 あまりに早い昇進は周りからの妬みを誘うから、彼女もこの先大変になるだろうな。
「ああ、少佐の副官であるアプリコット中尉も少佐と同時に昇進が決まっているぞ。まあ手続きなどは、この後ゆっくりしてくれ」
「殿下のご配慮、ありがたく存じます」
「私では無いのだが、まあ良いか。それでなんだが、私からも君の活躍に対しては何らかの褒美を出さないと、この後少々まずくなりそうなんだ。そこでなんだが、この際、君に希望があれば聞くが、何でも言ってくれ」
「何でもですか」
「ああ、何でもだ。尤も私にできる範囲だが、最大限希望に叶うようにしようじゃないか」
「それでは、遠慮なく申し上げます。既に私からの書類が届いているかはわかりませんが、不名誉除隊でも構いません。あの訳分からずの法律違反での収監でも構いません。私を軍から排除してください。『除隊』させてほしいのです。もう、部下を引き連れて戦場になんか出たくはありません。静かに暮らしたいと切に希望します」
「……… まあ、君からの希望は以前から何度も聞いていたから予想はできていたが、まあそうだろうな。 ……… うん、良いだろう。君が少佐になった以上、あの法律で君を縛り付けることはできないからな。もともとからして、あの法律は貴族には適用されないのだ。貴族には貴族としてのルールやしきたりがあるのだが、あれってそれにそぐわないので、過去にも適応された人間は少ないが、貴族に対しては一人もいない。なので、貴族になった君には正直合わなかったのだろう。私の権限で許可しよう。流石に、今直ぐにとはいかないが、できる限り早く、除隊できるように手配することを約束するよ。ちょっとばかり早いが言わせてくれ。おめでとう、名誉除隊を。……… だが、私にできるのはここまでだ。静かな暮らしについては、約束できないがそれでいいな」
「はい、それだけでも十分です。ありがとうございます、殿下」
 俺の言葉を聞いた殿下の顔に一瞬だが、『ニヤリ』としたように見えた。
「聞いての通りだ、サクラ将軍。君の大切な部下の除隊を許可するが、問題無いな」
「はい、殿下。先の打ち合わせにもありましたように、もうあの辺りでの私たちの役割は変わりました。これからは、戦闘よりも政治に重きが置かれますから、大丈夫です」
 それに、彼がいない方が私の精神的負担は軽くなりますから。
 と、俺には聞こえたように思えたが、それはお互い様ですよ、俺は心の中で返しておく。
 しかし、後日行われる戦勝報告ってなんだ。
 色々と気になることを言われたようだが、俺とのやり取りが終わると俺とアプリコットは解放された。
 フェルマンさんは部下の侍従を呼びつけ、俺たちを別室に案内させた。
 フェルマンさん自身は、この後も会議のようだ。
 まあ、軍港一つ落としただけで、戦争そのものが終わった訳では無いし、サクラ閣下も言っていたように、あのゴンドワナでの戦争も変わるようだから、新たな戦略の見直しが行われているのだろう。
 下手をすると、また、戦略大綱の見直しまでしないとまずいのかもしれない。
 今の軍令部には大綱を再策定できないことは既に皆に知れ渡っているし、前回の失敗を繰り返さないためにも草案だけでも作っているのかもしれない。
 まあ、俺の除隊も決まったようだし、もう俺に関係ない事か。
 俺たちは別室で、陸軍省の役人と、人事局の役人相手に昇進に関する手続きを行っている。
 本来ならば俺たちがお役所に出張しないといけない事のようだが、後日宮殿で陛下の御前に出る前に処理を終わらせる都合がある以上、今回のようなことになったようだ。
 ならば急ぐ必要など無かっただろうにとも思うのだが、どうも俺の昇進は先に軍の方で功績を遇したという実績が必要だったらしく、行われたことのようだ。
 それこそ、どこまで行っても全てが政治に絡むことだ。
 本当に帝都ってめんどくさい。



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