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第六話 ダンジョンにいる女神官って仲間に裏切られるの?
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「ありがとうございます!」
緑のウエーブのかかった長い髪を振り乱し、クロフェに渡されたマントだけを身体にかけた女神官がミズホに駆け寄る。
「なぜ、邪魔をした!」
ミズホはオークエースの血がついたままの日本刀の剣先を女神官の鼻先に突きつける。
クロフェは会ってからこれほど激しい怒りと殺気を身に纏ったミズホを見たことがなかった。
その殺気に当てられた女神官はその場にへたりこみ、股の間から生暖かな液体を音を立てて流していた。
「す、すみません。危ないと、お……思って」
氷のような冷たい青い目が、涙を浮かべ哀願するピンクの瞳を射抜く。
どのくらいそうしていただろうか、クロフェと女神官にとって永遠に感じた時間。
「二度とするな」
ミズホはそう言って踵を返した。
「ああ、あの人以外に漏らしたのを見せてしまった……でも、あの氷のように冷たい視線、なんて子宮に響く」
女神官はその場でブツブツと呟いていると、クロフェが近づく。
「大丈夫ですか? ミズホ様は腕試しでこのダンジョンに来ているみたいなんです。ですから戦いに手を出させるのが嫌なのだと思います」
「腕試し? そうですか、それでなんですね……タオルありがとうございます。わたしはソリエと申します。ファミリーネームはムシバリだけど、ソリエって呼んでくださいね」
女神官のソリエはクロフェから受け取った濡れタオルでオークエースの血と自分の排出液にまみれた身体を拭きながら、お礼を言った。
「あたしはクロフェです。ファミリーネームはラスキですが、家族はもうどこにいるか、生きているのかすら分かりません」
「あら、あなたも大変そうね。よかったら話を聞くわよ。でも今はミズホ様を追いましょう」
ミズホが日本刀の手入れを済ませ、ダンジョンの奥へと移動しようとしているのが見えた。
二人は急いで準備をしてミズホの後を追う。
ダンジョンの奥へと進みながら、クロフェが奴隷だったこと、ミズホに助けられたことを話した。
「あたし、ダンジョンを出たらやりたいことがいっぱいあるんです。奴隷の間、ずっと自由になったらあんなことをしよう、こんなことしようって妄想して色々なことを我慢してたんです。家族を探したいのもその一つなんですよ」
「そうなのね。わたしにできることがあったら言って、手伝うわよ」
「ありがとうございます。そういえば、ソリエさんはどうして一人でこんな奥深くにいたんですか?」
「ソリエでいいわよ、クロフェ。わたしはもともと冒険者のパーティーの一人としてこのダンジョンに入ったのよ。ジョミテ家の一人娘のコマチがここのダンジョンマスターに誘拐されたのは知ってるわよね」
クロフェは数日前からこのダンジョンにいるため、初耳だった。
「知りませんでした。それでダンジョンマスターはどんな要求を?」
「何も……」
ソリエは首を横に振ると、クロフェにもらった服をピチピチの状態で着ているため、強調された胸が一緒に左右に揺れる。
「要求がないのに誘拐したんですか? それなのになぜ犯人がわかったんですか?」
「ええ、犯人自らコマチを誘拐したから、助けたければダンジョン最下層に助けに来いって手紙を出したのよ。それでジョミテ家当主が多額の賞金をかけたの。それで多くのパーティーが今、このダンジョン最下層を目指しているのよ」
ミズホはソリエの話を聞いているのかいないのか、無言で奥に進む。
「それでダンジョンに入ったのはいいんだけど、パーティーの一人に裏切られて、転移の罠に引っかかってあの部屋にいたのよ」
「裏切ったってなんでなんですか? これからダンジョンを攻略しようという仲間でしょう!」
クロフェは大きな黒い目を吊り上げて自分の事のように怒っている。
「それがね。わたし、パーティーでは後衛回復神官(プリーストヒーラー)をしてるんだけど、後衛魔法弓手(マジックアーチャー)でパーティーのリーダーと恋人なの。それを妬んだ後衛盗賊弓手(シーフアーチャー)に罠を踏まされたのよ」
ソリエは大きくため息を吐く。
「同じ弓手(アーチャー)同士って猛アピールしてたのは知ってたけど、まさかここまでするとは思っていなかったわ。だいたい、あの子の性格は彼には合わないってなんでわからないのかしらね」
ソリエは右手を頬に当ててまた一つため息をつく。
黙って聞いていたクロフェはワナワナと震えていた。
「あたし、許せないです! 色恋沙汰ならちゃんと当事者同士が話し合えばいいじゃないですか!」
恋ってステキな事じゃないんですか!? 自由恋愛って楽しい事じゃないんですか!? ずっと奴隷暮らしで相手を選ぶ権利のない生活をしていたクロフェは心の中でも叫んだ。
「あたし、ソリエを応援します。ダンジョンから出たら、その女にギャフンと言わせて恋人を取り戻しましょう」
クロフェはソリエの柔らかな手を取り、目を輝かせる。
「ええ、ありがとう」
クロフェの勢いに気押されるように返事をした。
でも、あいつよりよっぽど好みの人がそこにいるんだけどなぁ。とは言い出せないソリエであった。
緑のウエーブのかかった長い髪を振り乱し、クロフェに渡されたマントだけを身体にかけた女神官がミズホに駆け寄る。
「なぜ、邪魔をした!」
ミズホはオークエースの血がついたままの日本刀の剣先を女神官の鼻先に突きつける。
クロフェは会ってからこれほど激しい怒りと殺気を身に纏ったミズホを見たことがなかった。
その殺気に当てられた女神官はその場にへたりこみ、股の間から生暖かな液体を音を立てて流していた。
「す、すみません。危ないと、お……思って」
氷のような冷たい青い目が、涙を浮かべ哀願するピンクの瞳を射抜く。
どのくらいそうしていただろうか、クロフェと女神官にとって永遠に感じた時間。
「二度とするな」
ミズホはそう言って踵を返した。
「ああ、あの人以外に漏らしたのを見せてしまった……でも、あの氷のように冷たい視線、なんて子宮に響く」
女神官はその場でブツブツと呟いていると、クロフェが近づく。
「大丈夫ですか? ミズホ様は腕試しでこのダンジョンに来ているみたいなんです。ですから戦いに手を出させるのが嫌なのだと思います」
「腕試し? そうですか、それでなんですね……タオルありがとうございます。わたしはソリエと申します。ファミリーネームはムシバリだけど、ソリエって呼んでくださいね」
女神官のソリエはクロフェから受け取った濡れタオルでオークエースの血と自分の排出液にまみれた身体を拭きながら、お礼を言った。
「あたしはクロフェです。ファミリーネームはラスキですが、家族はもうどこにいるか、生きているのかすら分かりません」
「あら、あなたも大変そうね。よかったら話を聞くわよ。でも今はミズホ様を追いましょう」
ミズホが日本刀の手入れを済ませ、ダンジョンの奥へと移動しようとしているのが見えた。
二人は急いで準備をしてミズホの後を追う。
ダンジョンの奥へと進みながら、クロフェが奴隷だったこと、ミズホに助けられたことを話した。
「あたし、ダンジョンを出たらやりたいことがいっぱいあるんです。奴隷の間、ずっと自由になったらあんなことをしよう、こんなことしようって妄想して色々なことを我慢してたんです。家族を探したいのもその一つなんですよ」
「そうなのね。わたしにできることがあったら言って、手伝うわよ」
「ありがとうございます。そういえば、ソリエさんはどうして一人でこんな奥深くにいたんですか?」
「ソリエでいいわよ、クロフェ。わたしはもともと冒険者のパーティーの一人としてこのダンジョンに入ったのよ。ジョミテ家の一人娘のコマチがここのダンジョンマスターに誘拐されたのは知ってるわよね」
クロフェは数日前からこのダンジョンにいるため、初耳だった。
「知りませんでした。それでダンジョンマスターはどんな要求を?」
「何も……」
ソリエは首を横に振ると、クロフェにもらった服をピチピチの状態で着ているため、強調された胸が一緒に左右に揺れる。
「要求がないのに誘拐したんですか? それなのになぜ犯人がわかったんですか?」
「ええ、犯人自らコマチを誘拐したから、助けたければダンジョン最下層に助けに来いって手紙を出したのよ。それでジョミテ家当主が多額の賞金をかけたの。それで多くのパーティーが今、このダンジョン最下層を目指しているのよ」
ミズホはソリエの話を聞いているのかいないのか、無言で奥に進む。
「それでダンジョンに入ったのはいいんだけど、パーティーの一人に裏切られて、転移の罠に引っかかってあの部屋にいたのよ」
「裏切ったってなんでなんですか? これからダンジョンを攻略しようという仲間でしょう!」
クロフェは大きな黒い目を吊り上げて自分の事のように怒っている。
「それがね。わたし、パーティーでは後衛回復神官(プリーストヒーラー)をしてるんだけど、後衛魔法弓手(マジックアーチャー)でパーティーのリーダーと恋人なの。それを妬んだ後衛盗賊弓手(シーフアーチャー)に罠を踏まされたのよ」
ソリエは大きくため息を吐く。
「同じ弓手(アーチャー)同士って猛アピールしてたのは知ってたけど、まさかここまでするとは思っていなかったわ。だいたい、あの子の性格は彼には合わないってなんでわからないのかしらね」
ソリエは右手を頬に当ててまた一つため息をつく。
黙って聞いていたクロフェはワナワナと震えていた。
「あたし、許せないです! 色恋沙汰ならちゃんと当事者同士が話し合えばいいじゃないですか!」
恋ってステキな事じゃないんですか!? 自由恋愛って楽しい事じゃないんですか!? ずっと奴隷暮らしで相手を選ぶ権利のない生活をしていたクロフェは心の中でも叫んだ。
「あたし、ソリエを応援します。ダンジョンから出たら、その女にギャフンと言わせて恋人を取り戻しましょう」
クロフェはソリエの柔らかな手を取り、目を輝かせる。
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