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第八話 ダンジョンで一夜を過ごした二人は仲良くなるの?
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クロフェはすっきりと目を覚ました。
冷たいダンジョンの空気と暖かい人肌。
クロフェは今まで、これほど心地よい人肌で目覚めたのは、奴隷になって初めてかもしれない。
隣には柔らかい体を密着させている裸のソリエがすやすやと眠っていた。
それを起こさないように回された手をゆっくりとほどき、寒くならないように毛布をかけ直す。
ミズホを見ると向こうを向いて横になっているため、本当に眠っているのかは確認できない。
クロフェはそっと自分の首を触ったあと、その辺に脱ぎ捨てていた古い厚手の服を着る。
荷物から枯木と食材を取り出すと、小さくなった火に枯木をくべる。
石で囲われた焚き木はすでにほとんど灰になっていて今にも消えそうだった。
魔法の使えないクロフェにとってこの火が消えてしまうと、火起こしの作業をしなければならない。
火起こし作業は時間がかかる上、クロフェはその作業が苦手なのだった。
そのため、慎重に新しい枯木に火をつけようとしたが、手を滑らせてカランと枯れ木が地面に落ちる音とともに火は消えてしまった。
あ! しまった!
慌てて枯れ草をリュックから出して火を起こし直そうとするが、慌てているためかうまくつかない。
「どいてなさい。マナ炎」
澄んだ少年のような声がクロフェをどかせ、簡単に魔法で火をつける。
「申し訳ありませんでした!」
燃え上がった枯れ木を見て、クロフェは反射的に地面に頭をつけるほど深く土下座をする。
蹴られるか、叩かれるか、クロフェは覚悟して少しでも痛みが少なくなるように身を固める。
怒声と痛みを覚悟していた元奴隷の獣人の娘に投げかけられたのは穏やかな言葉だった。
「失敗は誰にでもありますよ」
それだけ言うと、ミズホは変わった様子はないか広場の外を見回りに行った。
「どうしたの? クロフェ、大きな声を出して」
クロフェの声に目を覚ましたソリエが、毛布だけを体に巻いて駆け寄る。
「ううん。何でもないの。ちょっと失敗して火が消えただけなのにあたしが慌てちゃって……。ミズホ様がすぐに火をつけてくれたから大丈夫よ」
「クロフェ、泣いてるじゃない。どこか火傷したんじゃないの?」
「え! 大丈夫よ。どこも火傷していないわ」
ソリエに言われて、クロフェは初めて自分が涙を流していることに気がついた。
もう、奴隷じゃないんだ。ちょっとした失敗で暴力を振るわれないのだ。そうわかっただけで、クロフェは自然と涙が出ていた。悔しさでも痛みからでもない涙を流したのはいつぶりだろうか。
クロフェはそんなんことを考えながら食事の準備を始めた。
炙ったハムと茹でたジャガイモをクロフェ特製のソースをかけて、トーストしたパンに挟む。
「これ、美味しいわ。クロフェ、私のお嫁さんにならない? ミズホ様、この娘すごいのよ。もう、舌が別の生き物のように動いて、良いところをいい感じで舐め回してくるの。ミズホ様も一回経験すれば病みつきになりますよ」
ソリエはうっとりと思い出しながら、昨夜のことをミズホに話す。
「それを言うなら、ソリエだって! あのすべすべの肌に程よくロープが食い込む身体。どこを触っても感じて、あたしが思わず暴走しちゃう反応の良さ。柔らかくいつまでも触っていたくなったわよ」
クロフェも思わず食事を忘れて、昨夜の感想をミズホに話す。
「こんな気持ちいい娘を抱かないなんてもったいないにもほどがありますよ」
「こんないやらしい人を抱かないなんてどうかしていますよ」
思わず、二人はお互いを勧めることにヒートアップして話し続ける。
「絶対! クロフェのテクは味わうべきです!」
「いいや、ソリエの身体を味わうべきです!」
昨夜とは別のベクトルで二人は言い争う。
それをよそ目にミズホはゆっくりと半人前分のサンドイッチを食べ終わる。
「……もう行きますよ」
二人の熱のこもったプレゼンにも動じず、ミズホはダンジョンの捜索の準備を始めた。
「あ、ちょっとまってください。すぐ準備しますので!」
クロフェとソリエは大慌てでサンドイッチをほお張り、荷物をまとめてミズホを追いかけた。
冷たいダンジョンの空気と暖かい人肌。
クロフェは今まで、これほど心地よい人肌で目覚めたのは、奴隷になって初めてかもしれない。
隣には柔らかい体を密着させている裸のソリエがすやすやと眠っていた。
それを起こさないように回された手をゆっくりとほどき、寒くならないように毛布をかけ直す。
ミズホを見ると向こうを向いて横になっているため、本当に眠っているのかは確認できない。
クロフェはそっと自分の首を触ったあと、その辺に脱ぎ捨てていた古い厚手の服を着る。
荷物から枯木と食材を取り出すと、小さくなった火に枯木をくべる。
石で囲われた焚き木はすでにほとんど灰になっていて今にも消えそうだった。
魔法の使えないクロフェにとってこの火が消えてしまうと、火起こしの作業をしなければならない。
火起こし作業は時間がかかる上、クロフェはその作業が苦手なのだった。
そのため、慎重に新しい枯木に火をつけようとしたが、手を滑らせてカランと枯れ木が地面に落ちる音とともに火は消えてしまった。
あ! しまった!
慌てて枯れ草をリュックから出して火を起こし直そうとするが、慌てているためかうまくつかない。
「どいてなさい。マナ炎」
澄んだ少年のような声がクロフェをどかせ、簡単に魔法で火をつける。
「申し訳ありませんでした!」
燃え上がった枯れ木を見て、クロフェは反射的に地面に頭をつけるほど深く土下座をする。
蹴られるか、叩かれるか、クロフェは覚悟して少しでも痛みが少なくなるように身を固める。
怒声と痛みを覚悟していた元奴隷の獣人の娘に投げかけられたのは穏やかな言葉だった。
「失敗は誰にでもありますよ」
それだけ言うと、ミズホは変わった様子はないか広場の外を見回りに行った。
「どうしたの? クロフェ、大きな声を出して」
クロフェの声に目を覚ましたソリエが、毛布だけを体に巻いて駆け寄る。
「ううん。何でもないの。ちょっと失敗して火が消えただけなのにあたしが慌てちゃって……。ミズホ様がすぐに火をつけてくれたから大丈夫よ」
「クロフェ、泣いてるじゃない。どこか火傷したんじゃないの?」
「え! 大丈夫よ。どこも火傷していないわ」
ソリエに言われて、クロフェは初めて自分が涙を流していることに気がついた。
もう、奴隷じゃないんだ。ちょっとした失敗で暴力を振るわれないのだ。そうわかっただけで、クロフェは自然と涙が出ていた。悔しさでも痛みからでもない涙を流したのはいつぶりだろうか。
クロフェはそんなんことを考えながら食事の準備を始めた。
炙ったハムと茹でたジャガイモをクロフェ特製のソースをかけて、トーストしたパンに挟む。
「これ、美味しいわ。クロフェ、私のお嫁さんにならない? ミズホ様、この娘すごいのよ。もう、舌が別の生き物のように動いて、良いところをいい感じで舐め回してくるの。ミズホ様も一回経験すれば病みつきになりますよ」
ソリエはうっとりと思い出しながら、昨夜のことをミズホに話す。
「それを言うなら、ソリエだって! あのすべすべの肌に程よくロープが食い込む身体。どこを触っても感じて、あたしが思わず暴走しちゃう反応の良さ。柔らかくいつまでも触っていたくなったわよ」
クロフェも思わず食事を忘れて、昨夜の感想をミズホに話す。
「こんな気持ちいい娘を抱かないなんてもったいないにもほどがありますよ」
「こんないやらしい人を抱かないなんてどうかしていますよ」
思わず、二人はお互いを勧めることにヒートアップして話し続ける。
「絶対! クロフェのテクは味わうべきです!」
「いいや、ソリエの身体を味わうべきです!」
昨夜とは別のベクトルで二人は言い争う。
それをよそ目にミズホはゆっくりと半人前分のサンドイッチを食べ終わる。
「……もう行きますよ」
二人の熱のこもったプレゼンにも動じず、ミズホはダンジョンの捜索の準備を始めた。
「あ、ちょっとまってください。すぐ準備しますので!」
クロフェとソリエは大慌てでサンドイッチをほお張り、荷物をまとめてミズホを追いかけた。
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